このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

短編小説


こんな事、もうやめようと。
何度も思ったのに。
あの人は俺の手を離してはくれなくて。
縋り付いてくる手に甘えて、今日まで来てしまった。
後悔はない。

「んっぁ…」
「気持ちいいですか?」

至近距離で顔を見つめても、遊佐さんはいつも目を閉じてしまう。
中をまさぐりながら、眉間に寄るシワを見て一瞬手を止めた。

「痛い…?」
「んぅ…へ、いき…」

うっすら滲んだ汗にまで欲情してるのだから、自分もまだ若いなぁ…
なんて、感心する。
それでも、相手を気遣うだけの余裕がある事に、少しは大人になっただろうか、なんて。
余裕がなさそうな先輩を翻弄しながら思った。

「鳥ちゃ…」

呼ばれて我に帰る。
考えにふけるあまり、中に入れたままだった指は大して動いていなくて。
きゅぅ、と締め付けてくるのを感じながら笑った。

「あぁ、すみません」
「っえ?ぁあっひぃ…?」

言ってすぐに、強く中をまさぐる。
すぐに見つけた所をグリグリと擦って、反対の手で逃げを打つ腰を押さえつける。
ビクビクと跳ねる体を眺めながら、冷静な自分を呪った。
訳も分からなくなるくらい、余裕なんてないくらい子供だったら良かったのに。

「ひぁっ!?あぁぁっ鳥、ちゃ…やだぁっ!」

苦しげに声を紡ぐ遊佐さんに、休ませる間も与えないまま、前立腺への刺激を繰り返し、快感に歪む顔を観察。
滲んだ汗、流れ落ちる涙。
快楽の兆し、引きつる体。
震える内腿が限界を訴える。

「っひぐ…んあぁっゃ、や、めて…」

強すぎる快感は苦痛だと聞いた事がある。
暴れ出した遊佐さんの足に自分の足を絡めて押さえつけて。
閉じられないように足の間に体を割り込ませて、また前立腺を叩いた。

「気持ちいいの?」

返事もままならない遊佐さんに問いかける。
喘ぎながらシーツをかき乱していた右手が、何かを求めてさまよった。

「っぅあ!あぁ、とり、ちゃ…!」

しばらくパタパタとシーツの上をさまよって、その右手は腰を押さえつけたままだった俺の左手の上に落ち着いた。
どうやら返事どころか、こちらの声も聞こえていないらしい。
目をつぶったまま、激しく喘いで体を震わせる。
パサパサと伸び始めた髪がシーツを叩いて、ふるり、また体が震えた。

「ひっぁ、あぁっんぅ…もっだめぇっ」
「限界ですか?」
「ひぐっ…イッ、くぅっ」

あぁ、そんな声の出し方をしたら、明日の仕事にひびきそうだ。
冷静な自分がまた呟く。

「イッて良いですよ」

聞こえてるか分からないが、一応許可。
いつからか、俺の許可がないとイかない遊佐さん。
いや、最初からそうだったのかもしれない。
そう調教したのは、俺ではないのだ。

「いやっイくぅ!」

言った途端、空いていた左手が、無意識なのか口元へいく。
ココまで正大に喘いでおいて、イク時だけ塞ぐなんて許さない。
掴まれていた左手を振り解いて、彼の左手を口元から引き剥がす。

「ほら、イってください」

激しく前立腺を叩きながら、驚愕の眼差しを嘲笑う。
そろそろ俺の手を離してよ。
…こんなに酷いことしてるんだから。

目の前が暗くなる…




「信じられない…」
「ごめんなさい」

結局、前立腺への刺激だけで気を失うまでイかせて。
まぁ、怒られてるわけで。
かすれる声を必死に抑えて話す遊佐さんに、ちょっと罪悪感。
そえでも、握られた掌は、どこまでも優しい。
突き放してくれれば良いのにと、何度思った事だろう。

自分から突き放すなんて出来なくて。
弱い自分を認めたくないプライドが、全部遊佐さんのせいだと訴える。
でも、分かっているんだ。
この手を離せないのは自分だ。

「鳥ちゃん」
「ぁ、はい?」

握った手に力がこもる。
何を、緊張しているんだ?
隣に寝転んだ遊佐さんがくすりと笑う。

「“大好き”」
「…はい?」

顔を見合わせて、俺はキョトンと遊佐さんを見つめる。
目の前には、いたずらっ子の瞳。

「言ってよ、“大好き”」

なるほど、こんな事を言われるたびに手を離せなくなるのだと納得する。
この手を離したくないと思うほどに、彼の言葉が体に絡みつく。
(離すなんて、言わせない)
それがたとえ誰のせいでも。

さぁ、お望みの言葉をその耳に。
一緒に落ちれば良い。
どこまでも一緒に。
それでも後悔はない。
2/6ページ
スキ