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短編小説


使い捨てるには、愛しすぎてしまった。
何度も遊びだと言ったのに、君は悪戯っ子のように笑うだけで。
吸い込まれる。
飲み込まれる。
どこまでも落ちていく。


カーテンの隙間から溢れる光で目覚めてしまった。
酔った彼を連れて帰る名目で、一緒にタクシーで帰宅して、そのまま一晩過ごした。
別に森久保くんに抱かれるのは初めてではない。
いつもの彼の部屋。
始まりはいつだったか君が泣いていた夜…
その始まりも、この部屋だった。
強くもないのに酒をあおる君。
寂しいと甘える君にみとれた。
酔った彼は驚く程妖艶で。
何かに気がついてしまいしうで、僕は意識をキッチンに向けた。


慣れた森久保くんの部屋で、彼は飲まない紅茶を見つける。
泊まりに来るたびに、増えていく自分の物や彼が準備してくれる自分好みのもの。
何でそんな風に尽くしてくれるんだろう。
彼はただの後輩。
ただの遊びだ。
紅茶は元の場所に戻して、ため息をひとつ。

「おはようございます」

急な声に肩が跳ねる。
ドアを開け放して来てしまったせいで、全く気がつかなかった。
いつから見られていたのだろう。

「おはよう、シャワー借りるね」

出来るだけ笑顔で、冷たい声で。
これ以上踏み込まれたら、おかしくなる。

「ねぇ、遊佐さんさぁ…」

お願いだ、やめて。
鼓動が早くなる。
顔が、熱い。

「そろそろ諦めたら?」

違う。
いつも通り、都合の良い時に抱いてくれればそれで良い。
近づいてくる彼の顔が見れない。

「もう、気がついてるくせに」

にやりと妖艶に微笑んで。
見透かしたような事をいう。
おかしくなる。

使い捨てようと思っていたのに
都合の良かっただけの彼を
僕を好きな彼を少しだけ好きになりすぎてしまった。
気がついていた。
もう引き返せない所まで来てしまったと。

顔を上げると、また悪戯っ子の微笑み。
お待たせ、と強がった。
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