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「好きだなぁ…」
ネハンと過ごす穏やかな時間。会話の中で薄く笑う彼を見て、心の中でそう思った。
─はずが、どうやら声に出てしまっていたようで、途切れる会話。少し見開いた彼の目と視線が合ったと思えば、次には眉間に皺を寄せて困ったような顔を見せた。
その顔を見た途端、すっと身体が冷えていくのが分かった。
この想いはネハンにとって迷惑なのだ、と。
「あ…えっと、それ!その本!この前読んだんだけど、好きだなぁって!」
なんとか言い訳をしようと考えていれば、ふとネハンの隣に置いてある本が目に入った。
それを理由に仕立て上げる。苦しい言い訳なのは自分でも分かっているけれど、そうするしか他ない。
「…そうか」
私と同じく本に視線を向けたネハンは、そう一言呟いた。
「あ、そうだ!後で子供達と遊ぶ約束してたんだった!」
部屋の出口まで行き、振り返って「またね」と小さく手を振れば、ネハンは私の方を見ずに小さく頷いた。
ごめんね、ネハン。もう言わないよ。
***
あれは、確か。
ナマエと楽しそうに話しているのは、あの騎空団に所属している者だったはず。
騎空団がこの街に滞在している間、2人がよく話しているのを見かけた。仲が良いのだと、以前ナマエが話していたのを思い出す。
あの日から、ナマエを意図的に避けている。
自分から避けて遠ざけたはずなのに、その姿を見るだけで、胸が締め付けられるような気持ちになる。
俺よりもアイツの側にいた方が良いだろう。…そうは思っていても。
自分の想いから目を背けるように、ナマエからも目を背け、治療棟の方へと歩き出した。
***
あの日からしばらく、ムゲンとの買い物の帰り道。2人揃ってたくさんの荷物を抱えながら、ゆっくりと歩く。
「ナマエ、げんき、ない?」
「そんなことないよ!」
そんな中、ムゲンから掛けられた言葉。自分では周りに心配かけないように振る舞っているつもりだったけれど、ムゲンにまで見抜かれているとは。
あれ以来、ネハンに避けられている。ネハンの元へ訪ねても、用事やらと言ってすぐに別の場所へと去って行ってしまうのだ。
「そう?ネハンも、げんき、ない。しんぱい」
「…そう、なんだ。心配だね」
ネハンに思いを馳せながら、階段をひとつ下りようとした時だった。後ろからドンッと押され、体が宙に浮く。
「ナマエ!」
ぐるりと回る視界。これから来るであろう衝撃に耐える様、反射的に身体を丸めた。それを最後に、私の意識は途絶えた。
「目が覚めたか」
「……ネハン?」
見覚えのある白い天井に、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。すぐに聞こえてきたのは、ネハンの声だった。
「気分は、痛いところは」
「大丈夫だよ」
そう言って、ゆっくりと身体を起こす。少し身体が重く感じるけれど、痛みはそれほどない。
「…そうか、良かった」
「…ムゲンは?」
「心配している。後で顔を見せてやってくれ」
「うん、もちろん」
流れる静寂。窓から入り込んで来る風が優しくカーテンを揺らし、子供達の元気な声が部屋を包む。
「例えば…もう目を覚まさないのではないかと、考えた」
何を話そうかと考えていたら、先に口を開いたのはネハンの方だった。
「あの日、お前の言った事は理解していた。でも、その想いにどう答えたら良いか分からず避けていた」
ネハンは目を伏せながら、淡々と話す。
言葉ひとつひとつを聞き漏らさないように、じっとネハンを見つめていれば、切なげな、それでいて熱のこもったような瞳と目が合った。
「でも…やっと分かったんだ。俺にその資格がない事も、勝手な事を言っているのも分かっている。
それでも俺は…ナマエに側にいて欲しい、と」
そう願わずにはいられないんだ。最後にそう呟いたネハンは、また目を伏せてしまった。
「ずるい。ずるいよ、ネハンは」
「…あぁ」
彼の苦悩や想い。まだちゃんと整理なんてついていないだろう中、それでも選んで伝えてくれた言葉。
「見返りなんて何もないが…」
「見返りなんていらないよ。私も、ネハンが側にいるだけで、それだけでいい」
「…そうか」
いつかのように薄く笑った彼。その顔が私は好きなんだ。
嬉しくて流れた涙に気付いたネハンは、そっとそれを親指で拭ってくれた。
***
「ナマエ!ごめん、ごめんね」
「ムゲンのせいじゃないよ」
「お姉ちゃん、ぶつかってごめんなさい」
「これからは気を付けて遊ぶんだよ」
「うん!本当にごめんなさい…」
あの日、階段で後ろから押された原因はどうやら子供達だったようで。一緒に遊んでいた友達に気を取られ、前を確認せずに走っていたら、私にぶつかって…ということだった。
ムゲンも私を助けられなかったことをとても悔やんでいたみたいで、何度も謝ってくれた。
「ナマエ」
「ん?ムゲン、どうしたの?」
話に一区切り付き、走っていく子供達を見送る。それと同時にムゲンが話しかけてきた。
「ネハン、ずっと、ずっと、ナマエと、いた。おひさま、のぼる、おつきさま、しずむ、でも、いっしょ」
子供達と話している間も隣に居てくれたネハンをちらりと見る。ネハンは咳払いをひとつ、ムゲンの名前を諭すように呟いた。
ムゲンは、きっと私が眠っていた時のことを言っているのだろう。ネハンがずっと一緒に居てくれたということを。
「…これからもずっと一緒だよ!」
それを聞いたムゲンは、満面の笑顔を見せる。
隣の彼は何も言わなかったけれど、目を伏せ優しく笑っていた。