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▼現パロ・学パロ
「鯉登くん、このまま私も行っていいの?」
今日は文化祭。友達と展示やお店を回っている時に偶然、中庭で鶴見先生が生徒と一緒に写真を撮っているのを見かけた。
なら、鶴見先生が大好きな鯉登くんも一緒に写真を撮るチャンスではないのか。
そう思って友達と別れた後、風紀委員で見回り中の鯉登くんを見かけて声を掛ければ、目の色を変えて私の手を取って、そのままずんずんと歩いて行く。
「私が居たら邪魔かと思うんだけど…」
「邪魔なら最初からそう言ってる。それにミョウジも知ってるだろ、私が鶴見先生の前でまともに話せないこと」
なるほど、と自然と口からこぼれた。鶴見先生に憧れている鯉登くんが、先生の前だと早口の薩摩弁になってしまうことは少し有名な話だ。
だから、私は通訳役として連れられている訳か。
分かったよ、鯉登くん。だから、手ずっと繋いでなくてもちゃんと着いて行くよ。
するすると器用に人混みを避けながら歩いて行く。斜め後ろから見上げる鯉登くんの横顔を見ながらそう思う。
未だに離れない手と周りの視線が恥ずかしくて、でもこの手の温もりを手放したくなくて。
その言葉はそっと胸の奥へと仕舞い込んだ。
鶴見先生を見かけた中庭に行ってみれば、最初に見かけた場所には居なかったものの、近くのお店で生徒と話している様子だった。
「鶴見先生!」
「やぁ、ミョウジくん。楽しんでるかい?」
「○△×□%*¥…」
「ははは、相変わらず何言ってるか分からないな、鯉登くん」
鶴見先生にそう言われた鯉登くんを見れば、こちらに視線を寄越していた。そして、くいっと繋いでいた手を軽く引っ張られる。なるほど、通訳しろと。
「鶴見先生、鯉登くんが一緒に写真を撮って欲しいみたいなんですけど」
「あぁ、いいよ」
それを聞いた鯉登くんは満面の笑みを浮かべて、制服のポケットに手を伸ばす。だけど、目当てのものがなかったのか、上着とズボンのポケットを何度か確認して落胆した後、私へと向き直る。
「ミョウジ、カメラをもっているか」
「あ、携帯ならあるよ」
「すまん、借りるぞ」
そう言って、私の手から携帯を取って行く。通りかかった他の風紀委員の生徒に、写真を撮ってくれないかとお願いする鯉登くん。
え、待って。私が撮る役じゃないの?
こちらへと向けられる携帯のカメラに、邪魔だと思って離れようとすれば鯉登くんに止められた。
「どこへ行く」
「え、邪魔だから退いておくよ」
「何言ってる、ミョウジも一緒に撮るんだ」
そう言われて、手を引かれ元の場所に戻される。
そして、鯉登くんを真ん中に、鶴見先生と私が横に並ぶ。でも、と思って鯉登くんに小さな声で話しかける。
「鯉登くん、やっぱり私退くよ。せっかく大好きな先生と2人で撮るチャンスだよ?」
「鶴見先生もミョウジも好きだから、一石二鳥だろう。それに私も忙しいんだ、はやく撮るぞ」
「え、」
鯉登くんの言葉に呆気に取られていると、「いいですかー?」とカメラの向こうの生徒が口を開く。間髪入れずに鯉登くんが返事をするものだから、「ハイ、チーズ」とお決まりの文句を言われ、咄嗟にカメラへと目線を向け、手でピースを作った。これは、まずい。
鯉登くんは写真を確認するのために、私の携帯を持った生徒の元へと駆けて行く。
満足のいく出来だったのか、鶴見先生に早口で何かを言いながら頭を下げている。多分、お礼だろう。
私からも鶴見先生にお礼を言えば、どういたしまして、とにこりと笑って、軽く手を振りながら去って行った。
写真をお願いした生徒もいつの間にか去っていて、私と鯉登くんだけ残された。
「ミョウジ、携帯ありがとう。後で私にも写真を送って欲しい」
「う、うん」
鯉登くんから手渡された携帯を操作して、どきどきしながら先程の撮られた写真を開く。
鯉登くんはどこか緊張した面持ちで、でも胸を張ってカメラを見据えていた。
鶴見先生は柔らかく優しい視線と微笑みを向けていて。どこか写真の向こうの私たちを見据えているような、私の気持ちも見透かされているような、そんな気分になった。
そして、やっぱり私はポーズだけは決めているものの、真っ赤な顔をしていた。
「ミョウジ、顔真っ赤だな」
携帯に映る写真を覗き込んで、はははと鯉登くんは笑う。誰のせいだ。
「…鯉登くん、聞いてもいいかな?」
「何をだ?」
何のことだか分からないと言うように、鯉登くんは首を傾げる。
写真を撮る前に言った、“鶴見先生もミョウジも好きだから”と言うあの言葉。
きっと、きっと、深い意味はないのだろう。友達としての好き、それだけのことなのだろう。それでも気になって。はっきりさせたくて。
顔を見ながら言う勇気はなくて、下を向きながら口を開く。
「写真撮る前に言ってけどさ…鯉登くん、私のこと好き、なの?」
しれっとした顔で「そうだが」と言われれば、それまでだ。それだけの関係。
なかなか返ってこない返事におずおずと見上げてみれば、ぱちりと鯉登くんの黒い瞳と目が合う。
その瞬間、鯉登くんの頬が真っ赤に染まっていって、私もそれに釣られる。
彼が顔を真っ赤にして、叫びながら逃げ出すまで、あと。
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