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▼10月前ぐらいの話
今日はタルタロス探索に行こうと思っていたけど、先輩方が不在で探索が無くなってしまった。
空いた夜の時間をポロニアンモールに行くか、バイトをするか、どう過ごそうかとラウンジをうろうろしながら考えていた。
たまには巖戸代の方に出てみようかと思い、ソファーで漫画を読みふけっている順平に一声かけて寮を後にした。
特に目的地があるわけでもなくフラフラしていたが、ワックや海牛と飲食店から良い匂いが漂ってきて誘惑されそうになる。
この時間に食べるのは流石に私の心が許さないので、逃げ込むように漫画喫茶に入った。
『あ』
「げ…」
入った瞬間、鉢合わせてしまったのは"ストレガ"の一人、"ジン"と呼ばれる男だった。
『ど、どうも?』
「…おう」
敵には変わりないのだが、こんな所で戦闘出来るはずもなく、ましてやこんな所だからこそ敵意が湧いてこないのかもしれない。
肌で感じるほど、ジンは私を警戒心してたみたいだけど、敵意がないと分かったのか、その警戒心は徐々に無くなっていった。
『何してたんですか?』
「言うわけないやろ。アホか」
『…ですよねー』
少し期待したのだが、まぁ答えてくれないのが当たり前で。無視されなかっただけマシかと思っておこう。
とりわけ会話も無くなってしまったのでジンより少し奥にある、棚にびっしりと詰められた漫画を手に取りパラパラとめくる。
「…お前は何しに来たんや」
とジンから声を掛けられるとは微塵も思ってなかったので、漫画を落としそうになった。なんとか持ちこらえたけど、ジンにそれを見られたのがなんだか少し恥ずかしかった。
『…えっと、タルタロスの探索がなくなったので』
「…言うて、こないなとこ来るんか」
『気まぐれです』
「…こないな時間に危ないやろ」
ぽつりと呟かれた言葉だったけど、私の耳にはちゃんと届いた。
ジンは私の方を向かずにトランクを置き、棚から漫画を取り出して読んでいた。
『…心配してくれてるんですか?』
「あ、アホ!そんなわけないやろ!」
『大丈夫ですよ。"召喚器"持ってます…し…?』
流石に薙刀は持ち出せないので、何かあった時の為に"召喚器"を鞄に入れて持ってきたと思っていたのに、…鞄の中には入ってなかった。
「…持ってきてないんやろ」
『…あははー』
「不用心なやっちゃな。もし俺が攻撃したらどないすんねん」
『大丈夫ですよ。貴方はこんな所で攻撃なんてしません』
「……根拠は?」
私も何故そう言ったか分からない。でも、なんとなく、そうなんとなく思ったんだ。
『貴方は…そんなに悪い人じゃないと思うんです』
「…敵やのにか?」
『はい』
「…ほんまアホやな」
大きなため息をついて、呆れながらジンはそう言った。
「……送る」
『…え?』
「帰りになんかあっても胸糞悪いからな」
『でも、』
「はよ行くで」
さっきまで隣に居たのに、ジンはトランクを持ってもう出口の所まで歩いていた。
『…お願いします!』
漫画喫茶を出てポツポツと話しながら、……文句も言いながらも、なんだかんだ寮の近くまで送ってくれた。
『ありがとうございました』
「気にせんでえぇ。ただの気まぐれや」
そう言ってジンは、くるりと背中を向けた。そのまま去ろうとするので、待ってと手を掴んで歩き出すのを制した。
「な、なんやねん」
『これお礼です』
鞄の中に入れていた、放課後に風花と一緒に作ったクッキーをあげた。これでも中々の出来栄えだと自信はある。
「礼なんかいらん」
『貸し借りは無しってことで、ね?』
「…しゃあない」
"貸し借り"という言葉を出せば、貰ってくれるだろうと安易に考えた予想は当たってしまった。結構、義理堅い人なのかもしれない。
『どこかで捨てても良いですから』
「そうさせて貰うわ」
と手を上げヒラヒラと振り、歩いていってしまった。
口ではああ言っていたが、ジンは絶対食べてくれると思った。この数十分で、ジンに対する印象ががらりと変わった。
今度会う時は当然、敵同士な訳で。それがなんだか少し悲しく感じた。
君との数十分
(貴方に対する何かが、変わった時間だった)
「…めっちゃ美味いやんけ」
綺麗にラッピングされた"それ"をゴミ箱に捨てる訳にもいかず、毒でも入っとんちゃうかと思いながら恐る恐るクッキーを口に入れた。
それは店で売っているような…いや、それ以上の旨さやった。
「…ほんまアホちゃうんか」
敵にこんなんやって。それを食う俺も俺やけど。
てかなに送り届けとんねん、俺。なんぼ夜遅うて危ない言うたって、"アイツ"はペルソナ抜きにしても強いには変わらんし。
「……調子狂うわ」
また食いたい、とそう思ってしまう俺が心の片隅にいた。