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刑部さんは私とひとつ歳が違うだけなのに、落ち着いていて、大人っぽくて、生徒会長も務めていて、格好良くて、優しくて、でも少し意地悪なところもあって。とても魅力的な人だ。
(いつまで私のこと、好きでいてくれるのかな)
ふと頭をよぎった不安。
デートの待ち合わせ場所、そこで刑部さんは女性と話していた。スマホを見ながら指を差したりしているので、道案内をしてるのかなと思う。
でもその女性は私に比べ、大人っぽくて綺麗な女性で、刑部さんと並んで立っている姿が似合っていた。
(…ダメだ、こんな気持ちじゃ会えないや)
刑部さんに申し訳ないと思いつつ、体調不良で行けなくなった旨のメッセージを送る。
2人並ぶ姿から目を背けるように、寮へと踵を返した。
・
・
「あれ?先輩、お早いお帰りですね」
「うん、ちょっと気分が悪くて」
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、大丈夫だよ。部屋に戻ってるね」
お大事に、成宮くんのその言葉を聞いて部屋へと向かった。
ベッドへとダイブをし、仰向けになる。悶々と考えている内に眠ってしまっていたのか、次に目が覚めたときには窓から夕日が差し込んでいた。
飲み物を取りに、と共有スペースへと向かうと見知った顔が1人座っていた。
「やぁ」
「おさかべ、さん」
心配そうにそう尋ねてくれた刑部さんに、心臓がぎゅっとなる。会えて嬉しい、でも自分の都合で今日の予定を断ってしまったことが、後ろめたい。
手招きをされ、テーブルを挟んだ刑部さんの向いへ、おずおずと腰掛けた。
「体調は大丈夫かい?」
「…はい、おかげさまで」
なら、ひとつ聞いてもいいかな?と刑部さんは言った。真っ直ぐとこちらを見る目から、目を逸らすように、こくりと頷く。
「…本当は待ち合わせの場所に、途中まで来てたんじゃないのかい?」
なんで、と漏れ出た声はちゃんと刑部さんの耳に届いたらしく、その格好、と刑部さんは私を指差した。
「部屋着じゃなくて、おめかししてるからね。もしかして、と思って」
どうやらアタリみたいだね、と呟くように言った刑部さんの声はいつもより低く感じた。
「理由を聞いても?」
私は刑部さんを怒らせたい訳でも、心配をかけたい訳でもなかった。でも私の嫉妬で、我儘で、不安で、そうさせてしまっている。
「…聞いて、くれますか?」
「…うん、少し歩こうか」
刑部さんと一緒に寮を出る。休日なので、学園内は閑散としていた。
目的地があるわけでもなく、ただ歩きながらぽつぽつと私は今日感じたことを話した。
刑部さんの魅力に、大人の女性と並んだ刑部さんを見たこと。それを見て私が思ったこと。
「…まずは褒めてくれてありがとう、と感謝を言っておこうかな」
私の話を聞き終えた刑部さんは、私の目を真っ直ぐと見ながら優しくそう言った。
座ろうか、と刑部さんに促され、噴水近くまで来た私たちは、そのまま近くのベンチへと腰を下ろした。
「それで、これから言うのは俺の友人の話なんだけどね」
「友人、ですか?」
こくりと頷き、刑部さんは噴水を眺めながら話し始めた。
「その友人が、好きだった彼女と最近ようやく付き合えたみたいでね」
「わぁ!」
「でも、学校も違うし遠距離恋愛なんだ。まぁそれほど離れてもいないし、頻繁には会えるのだけどね」
その友人の彼女さんは、どうやら寮住まいらしく、彼女の周りには仲の良い男の子も多いらしい。
彼女が自分のことを好いてくれているのも分かっているけれど。ましてや、彼女はコンミスだ。彼女の魅力を知るのは自分だけじゃない。
「だから俺だって嫉妬もするし、気が気じゃないんだよ」
「…刑部さん、今、『俺』って」
「そうだったかな?」
刑部さんは誤魔化すように、にこりと笑った。今まで刑部さんが話していた話は友人の話なんかじゃなくて、刑部さん自身の、そして私の話だったのだ。
「刑部さんもそんなこと思ってたんですね」
「…格好悪いだろ。君に嫌われたくないからね」
「嫌いになんてなりません!」
ベンチに座る刑部さんの目の前に勢いよく立つ。刑部さんは少し驚いたような顔を見せた。
「刑部さん。私、刑部さんが大好きです。だから、ずっと、ずーっと一緒に居て…くれたら嬉しいです」
「…残念」
ハハッと刑部さんは俯いて笑う。でも、すぐに顔を上げた。優しい目をした刑部さんと目が合う。
「先に言われてしまったな」
そう言って、刑部さんは私の左手を、薬指を絡め取っていった。