高尾 和成
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私の好きな人は、人気者で
「はよー、高尾」
「おっす」
分け隔てなく、誰とでも仲が良くて
「おはよ高尾くん」
「はよーっす」
バスケが上手くて格好良くて
私はそんな彼を好きでいることしか出来ない、高嶺の花な人です。
君に告げた愛の言葉は
高尾くんが教室に入るなり、周りには朝の恒例の挨拶が飛び交う。それと同時に彼の周りには人が集まって、昨日の話やらTVの話が始まる。
そんな高尾くんとは逆に、私は平凡にひっそりと毎日を送っている。
友達がいない訳ではない。皆とは普通に仲が良い。ただ、より仲が良い子とずっと一緒にいるから。
高尾くんとは1日1回喋れば良い方。
もっと喋りたいかと聞かれれば、もう首を縦に振りまくり即答する勢いだけど、高尾くんと同じクラスなだけでラッキーです、本当に。
好きになったきっかけは、どこにでも転がっているような理由で。
専ら文系な私だけど、体育会系の友達に誘われバスケの練習を見に行った時に…惚れた。
凄く目が惹かれて…格好良かった。ま、それ以外にも色々あるんけれど。
今は、一番後ろの窓際…この席からたまに見ている高尾くんで充分です。
大きな望みを願うほど、叶わなかった時の悲しみは深いと、どこかで割り切っているから。
そんなこんなで、平凡に今日も1日過ぎていく。
帰り支度をしている時、緑間くんと一緒に教室を出て行く高尾くんを見た。
部活頑張って、と心の中で少し呟いた。けど、すごくすごく恥ずかしくなって、教室を飛び出そうとしたら、先生に呼び止められた。
「これ書いておいてくれないか?」
『えー』
先生の手には、出席簿と日誌。なんとなく察しがついた。
『私、今日当番じゃないです』
「当番の奴が帰っちゃってさ」
『何で私なんですかー』
「目に入ったから」
ははっと笑う先生を見て、あぁ教室から飛び出そうとしなければ良かったと後悔した。
結局、仕方なしに引き受けて、皆が帰って1人ぼっちになってしまった教室で日誌を書いている。
とても静かで、時計の音と どこからか聞こえてくる吹奏楽部の音に心が安らぐ。
日誌はだいたい記入し終えたが、最後の自由記入欄につまずく。自由記入欄と言えど、何か一言は書かなきゃいけない。
何を書こう…と頭を捻っているとガラッとドアが開く音が響いた。
突然 響いた音に体が反射的にビクッとした。恐る恐るドアの方を向くと、高尾くんが居た。
『た、た、高尾くん?』
なんでなんでここにいるんだ。今は部活中じゃないのか、と頭が軽くパニックになる。
「あ、ミョウジさん。なにしてんのー?」
と、いつの間にか近くにいた高尾くんが日誌を覗き込む。
「日誌書いてんの?でも今日、ミョウジさん当番じゃなくない?」
『先生に頼まれちゃって。高尾くんはどうしたの?』
「俺ー?机ん中に忘れ物しちゃってさ。取りに来た」
そう言って自分の机の中を漁り始めた。「あった!」とすぐに見つかったようで、『良かったね』と言葉をかけた。
そのまま教室を去るのだと少し寂しく思ったけど、高尾くんはドアの方には行かず、私の前の席に腰を下ろした。
こんなに近くで話すのは中々ないから、なんだか緊張してしまう。
『れ、練習行かなくていいの?』
「ちょっとくらい大丈夫だって。にしても、ミョウジさん字綺麗だよなー」
『え、あ、ありがとう』
素直に褒められたのが嬉しいのと緊張で、頬が赤くなっていくのが分かる。高尾くんにバレないようにと、少しうつむいた。
「自由記入欄、手こずってんの?」
『う、うん』
「じゃあ俺、書いたげるよ」
そう言って高尾くんは、机の上にあった日誌と私のシャーペンを手に取った。
「後のお楽しみ」なんて言って、私に背中を向けて、前の席の机で書き始めた。
その後ろ姿は嬉々としたり、悩んだりとしていた。でも、それ以上に男らしくて凛々しくてドキドキした。
後ろ姿に見惚れているのも束の間、どうやら書き終えたらしい高尾くんは、日誌を閉じたまま私の机の上に置いた。
「じゃあ俺戻るわ」
『あ、うん。部活頑張って』
あ、やっと言えたと思った。ずっと心の中でしか言えてなかったことを。
「…サンキュー!」
今までに見たことのないような笑顔を見せて、高尾くんは教室から出て行った。
さて…と、手元に残った日誌に手を伸ばす。パラパラと捲って、今日の日付のページを探す。見つけては、すぐに自由記入欄に目をやった。
『え…』
そこには"君のことが好きです"と書かれてあった。
咄嗟にドアの方を向いたけれど、高尾くんの姿がないのは当たり前で。
ただただ、私の心臓だけがうるさく鳴り響いていた。
・
・
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これはチャンスだと思い、悩みに悩んで、想いの丈を日誌に書いた。ミョウジさんに比べれば、そりゃもう拙い字で。
内心ドキドキしながらも、何事も無かったかのように出て行こうとする俺に、彼女は応援の言葉をかけてくれた。
一度は彼女に言って欲しかった言葉。一瞬驚いたけど、やはり喜びは隠せなかった。 あー、相当にやけてんだろうな俺。
そのまま教室から出た途端、ドアに持たれかかりそのまま座り込んだ。
恥ずかしさと嬉しさ。
と、想いを告げてしまったという少しの後悔。
今、彼女はどんな反応をしているだろう。なんて返事をするだろう。
くしゃっと髪をかき乱し、うなだれる。
どうやらまだ部活に戻れそうにない。すんません先輩。と緑間。
君に告げた愛の言葉は
(ちゃんと君に届いただろうか)