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「辻󠄀〜、これ資料なんだけど二宮隊の人に渡しておいてって言われて」
「分かった。ありがとう」
そのやりとりを見ていた友達がまたお決まりの台詞を言った。
辻󠄀くんってナマエとだけ喋れるよね、なんて言われて浮き足だって。
でも亜季ちゃんだってそうでしょ?なんて自分で言って勝手にモヤモヤして。
“特別なんだよ!”
そう周りに揶揄われる度に繰り返すこと。
私が辻󠄀にとって特別なのは分かってる。でもそれはきっと良い方の“特別”じゃなくて。
女の子として見られていない…良くない方の“特別”だと思う。
トリオン体は髪が戦闘の邪魔にならないようにショートカットにしているし、隊服もズボン。
学校の制服はもちろんスカートだけど、辻󠄀とは学校も違うし制服で会った事はない。
そのため女だと気付いていないのか、初めて辻󠄀と話した時から彼は普通だった。顔を赤らめる事なく、吃ることもなく。
その時、私は辻󠄀が女の子が苦手だなんて知らなくて、何も言わなかったけれど。
他の子から女の子だと教えられたのか、それとも自分で気付いたのか、その後少し態度が変わって…でもそれも束の間。すぐに元に戻ってしまった。
うーん、良いのか悪いのか。いや辻󠄀と仲良く出来てるだけ良いよね。そう自分に言い聞かせていた。
『ミョウジ、今日ボーダーいる?ソロ付き合って欲しいんだけど』
『ごめん!今日はこの前の戦闘ログ見てるんだ〜今度でもいい?』
「いいよ。でも、ログ俺も見たい』
こんなやりとりがあったのはついさっきのこと。そして辻󠄀が一緒にログを見るのに、私の隊の部屋に来ることになってしまった!
ログを見ていた自分の机の上を綺麗に整理整頓して。髪を少しでも整えて…としているうちに、辻󠄀が来た。
「お邪魔します」
「どうぞどうぞ〜」
隣の隊員の席から椅子を拝借して、私が座っていた椅子の隣に移動させる。
ありがとう。と優しく笑った辻󠄀がとても眩しかった。
「私の隊、今日はもう終わりだからさ。他の人居ないんだけど…大丈夫?」
「うん、大丈夫」
本当に!?私と!女の子と!2人っきりなんだけど!と大声で詰め寄りたいところだけど。
分かってないなぁ。なんて思いながら、そうだねって生返事をしてログの再生ボタンを押した。
ログを見ながら「ああいう時はこうしたらいいかな」「俺だったらこうする」「私はあっちを優先するかな」なんて2人で議論していたら、あっという間に時間が過ぎていった。
「ごめん辻󠄀〜もうこんな時間だ。そろそろ帰ろっか」
「そうだね。ありがとう、勉強になった」
「こちらこそ!」
辻󠄀と意見を出し合って話をして、楽しくて勉強になった。それは本当。
でも本当に何もないまま2人きりの時間が過ぎたことに、少し悔しい気持ちもあって。
「今更なんだけどさ、辻󠄀って私には顔も赤くならないし、吃りもしないよね?」
そう嫌味ったらしく言ってしまった。辻󠄀はそれを特に気にする様子もなく口を開く。
「うーん、ミョウジは一緒に居て気楽で、なんでも話せるし…俺も分かんないんだけど。ミョウジも女の子なのにね」
「ちょっと待って!私のこと本当に女の子ってわかってる?」
「当たり前だろ。分かってるよ」
分かってたら赤くなるはずじゃん。分かっててもこうなら…もっと女の子だって意識してもらえないと。
「私はさ、結構辻󠄀と話すの緊張するんだよ」
「そう…なんだ」
「だって私、辻󠄀のこと好きだもん」
辻󠄀の目を見ながらそう言った。辻󠄀はぎゅっと口を一文字に結んで固まって…そして顔も、耳まで真っ赤になってしまった。
蔑む目を向けられることも覚悟していたけれど、ここまで顔を赤くさせるとも思ってなかった。
でも辻の態度を変えさせるきっかけは、引き金は、これだったんだ。
「そっか…」
「つ、辻󠄀?大丈夫?」
ぽつりと呟いた辻󠄀を覗き込むように顔を見やれば、辻󠄀は肘を上げて腕で顔を隠してしまう。目も背けられてしまった。
「な、なんで」
「うん?」
辻󠄀が私に吃っている。なんて新鮮なんだという気持ちを抑えながら、何かを伝えようとしている辻󠄀の言葉に耳を傾ける。
「なんで、ミョウジはへ、平気なのかと思ってたけど…た、多分きっと俺も同じ、き、気持ちだったんだ」
「そ、それって辻󠄀も私のこと好きって…こと?」
辻󠄀の瞳が私を捉える。そしてゆっくり、こくりと頷いた辻󠄀に思わず抱きついてしまった。
「わーん、嬉しいよ〜!辻󠄀〜!」
嬉しくてぎゅっと辻󠄀を抱き締める。思わず辻󠄀を腕ごと抱きしめてしまったので、私の背に腕が回る事はないけれど…それにしても辻󠄀、動かないな?
どうしたのかとそろりと見上げると、辻󠄀は先程よりも顔を真っ赤にして明後日を向いていた。
「ご、めん。いっぱいいっぱい…です…」
「わー!ごめんよ辻ー!」
急いで離れて、私は辻󠄀が落ち着くまで宥めていた。その間私は辻󠄀の両手を握っていたけれど、辻󠄀もやんわりと握り返してくれていて、離れる事はなかった。
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