隠岐 孝二
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「おはよう」「じゃあまた明日」
そんな日常にありふれた言葉。でもそれも言える相手がいるからこそ、言える関係性があるからこその言葉だと思う。
「隠岐くん、おはよう!」
「おはよう〜ミョウジさん」
少し前にあった席替えで前の席になった隠岐くん。
朗らかな印象は持っていたけれど、あまり話した事もなくボーダー隊員という事で、少しどこか苦手なところがあった…けれど、それもすぐに払拭されてしまった。
席替えの次の日、間延びした声でおはようと挨拶をされて、戸惑いながらも返事をした。
それで終わりかと思えば、隠岐くんは私の鞄につけている猫のキーホルダーが目に留まったようで、それを指差し口を開いた。
実はこれは家の愛猫の写真で作った、キーホルダーなのだ。お気に入りで世界に一つしかない一点物。私はふふんと自慢げに鼻を鳴らした。
「えへへ〜実は家の猫ちゃんなの」
「え〜!可愛いなぁ。ちょっと見して」
そこから猫の話で盛り上がって、朝のHRが始まるまで、そしてその次の授業が始まるまで話をしていた。
その日の最後のHR終わり。「ほなまた明日なぁ、ミョウジさん」と隠岐くんが言ってくれて、とても嬉しかったのをよく覚えている。
それからは席が前後ということもあり、隠岐くんとはよく話すようになった。もう防衛任務だとかで前の席が空くのが寂しいくらいには、私は隠岐くんの虜なのだと思う。
「ミョウジさんになぁ、声掛けてもらえると元気出るねん。なんでやと思う?」
何度かの「おはよう」と「じゃあまた明日」を繰り返したある日の朝のこと。
前の席に座る隠岐くんに声を掛けた後、机の上に鞄を置いて席に座り、教科書やノートを出していたら、目の前の鞄の上からひょこっと顔を出した隠岐くんがそう言った。
「それ私に聞くの?」
「ミョウジさん、なんか念みたいなん出してんちゃうかなって」
ははは〜と笑う隠岐くんに、私はなんだそれと呆れながらも考える。「ツッコむとこなんやけどなぁ」という隠岐くんの言葉を耳で捉えながら。
「う〜ん、隠岐くんと話せて嬉しい〜とか出てるから?」
それを聞いた隠岐くんは、ぽかんとほんの少し口を開けて固まった。
その口は本当に小さく分からない程に、一回、二回とぱくぱくと動いてから、声を出した。
「ミョウジさんは俺と話せて嬉しい思うん?」
「うん、嬉しいよ」
「そうかぁ、だからかぁ」
顔を手で隠して俯いた隠岐くんは、机の上に置いた私の鞄で隠れてしまった。どういう表情をしているのかまったく見えない。
気に触ることを言ってしまっただろうか。というか、私さっきとんでもないことを言ってしまっていないか、と気付くも後の祭り。だんだんと心臓が大きな音を立て始めた。
なんてね!と笑い飛ばそうと口を開こうとすれば、同時に隠岐くんが顔を上げる。
「…俺もな、ミョウジさんと話すん嬉しいもん」
頬を人差し指で掻きながら照れたように笑う隠岐くんは、窓から差し込む朝の光に照らされて、より眩しく見えた。