荒船 哲次
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「はぁ…もう好きホントかっこいい」
「俺も」
「俺も、とか言われたすぎる〜……うん?」
荒船のあれがかっこいい、これがかっこいいの話を毎度のこと聞いてくれている、目の前の狙撃手友達から発せられたとは到底思えない低い声に首を傾げる。
友達は私の身体の横…を通り過ぎて、後ろを指差している…ように見える。それを辿るように後ろへ振り向けば、あのトレードマークの帽子を被った荒船が私の後ろの席に座っていて、こちらを向いていた。
目が合った途端に、勢いよく前へと向き直る。
なんで!?なんで後ろに荒船が座ってるの!?
食堂に来て席に着いた時には居なかったはず。だって近くに居たら気付かないはずないし。
目の前の友達は両手を合わせてごめんね、と笑っている。私が話に夢中で、荒船が近くの席に座ったことに気付いてなかったのを黙ってたんだ。
恐る恐る後ろを振り向けば、もう一度荒船と目が合った。
「付き合ってくれるか?」
「ふ、不束者ですが…?」
「うん、よろしくな」
そう言って荒船は、フッと笑う。
私の友達と荒船の前に座る穂刈達のからかう声が響いた。穂刈達に向き合う荒船のその耳は、心なしか少し赤いようにも見えた。
荒船と付き合うことになった…けれど、付き合う前と何ら変わりはなかった。
時間が合えばボーダーまで一緒に行ったり、訓練したり、食事をしたり。今まで通りだ。
だからこそ、よくない考えが頭を巡る。
もしかして荒船はあの場で気まずくなるを避けて、気を遣ってくれただけなんじゃないかって。
「俺も」と言っただけで、あの日以来好きとは言われたことはない。そんな些細なことでも引っ掛かってしまって。
もっと話したいし…触れたいし、一緒に居たいのに。そう思っているのは、私だけなのかな。
「荒船はさ、私のこと本当に好き?」
変わらない日々が続いて、積もり積もった不安。それが爆発して、ボーダーからの帰り道に思わず聞いてしまった。
爆発するきっかけはつい先程のこと。同じB級の女の子の狙撃手に、腕を触れられている荒船を見てしまった。荒船は指導してただけ。
でも女の子は指導を言い訳にして言い寄っていたようにも見える。あの目は恋する女の子の目だった。
「は?」
「いや…ごめん。忘れて」
少し怒りを含んだ低い声に怖気付いて、なんでもないかのように笑って誤魔化した。
でもそれがまた荒船の地雷を踏んだようで、彼の眉間にはどんどん皺が寄っていった。あーあ、言わなければ良かった。
逃げるように歩を進めるも、立ち止まった荒船に手を掴まれ止められる。
「忘れられるか。そんな風に言うぐらいだ、なんか思ってることあるんだろ」
逃げられないようにともう片方の手も掴まれ、身体が向かい合うような形になる。
真っ直ぐにこちらを見る荒船のことを見てられなくて俯く。自分と荒船の足を見つめながら、何もないよ、と口を開き掛けたところで先に荒船の声が聞こえてきた。
「…お前は、俺がそんな半端な気持ちで付き合う奴だって思ってるのか?」
「ちがっ」
そんなこと荒船はしない。絶対しない。分かってる。でも。
反射的に顔を上げる。荒船は不安と少しの怒りが入り混じったような表情をしていた。
好きと不安と。いろんな感情がぐちゃぐちゃになって言葉が出て来ない。視界は揺らいで、涙を見せないようにもう一度俯いた。
何も言わないまま、ただ泣いて。こんなの荒船困るよね。
「…俺はお前のことちゃんと好きだよ」
「…うん」
掴まれている手も響く声も、熱く、優しい。
「ナマエが他の男と話してるだけで割と嫉妬するし、俺だけ見てればいいと思う程には好きだぞ」
「荒船…そんなこと思ってたんだ」
「おう…で、どうだ不安は解消されたか?」
「うん。ありがとう荒船」
私ね、不安だったんだ。何も変わらないことが。言葉がなかったことが。もっと一緒に居たいのに。触れたいのに。
ぽつぽつと自分の気持ちを溢していく。荒船は何も言わず、ただただ聞いてくれていた。
でも、もう大丈夫だよ。荒船から大切な気持ち貰ったから。
「そうだったのか…じゃあこれからは遠慮しなくていいな」
目を細めてこちらを見る荒船。その目を見ながら…とはいかなかったけれど、こくりと頷いた。
触れ合うだけだった手はだんだん絡み合っていく。
「ほら、目瞑れ」
近付く距離。そう囁かれて、素直に目を閉じる。触れるだけのキス。
そして目を開けると、荒船と目が合って…2人一緒に照れ臭くなって笑った。
そして、もう一度深く繋がれる手。恋人繋ぎで離れないように、私たちはまた歩き出した。