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この瞬間は、いつだって慣れなくて緊張する。
ふぅと一息吐いて、通信を繋げる。
「…通信失礼します。本日、細井さんの代理でオペレーターを務めさせて頂きますミョウジ ナマエです。どうぞよろしくお願いします」
今回は急な用事が入ってしまった細井さんに代わって、生駒隊の防衛任務のオペレーターを私が担当することになった。
本部付きのオペレーターをやっていると、そんなに珍しいことではない。
急遽、都合が付かなくなってしまったオペレーターの代理はもちろん、勉強がてらやデータ収集を目的に、他の隊にも何度か代理で担当させて頂いたこともある。
「「よろしくお願いします〜」」「よろしくっす!」と言ったそれぞれの返答を聞くも、ひとりだけ返答がない気がする。しかも、その人はこの隊の隊長で。
一気に不安が押し寄せるも束の間、それを吹き飛ばすかのような力強い声が響いた。
「え、待って待って」
「……生駒隊長?」
「めっちゃええ声やん」
「…へ!?」
「あ、今の声も可愛いやん」
思いも寄らなかった言葉に、素の声が出てしまった。
私は、素の時の声とオペレーターをしている時の声が少し違う。
機械を通して相手に伝える…それが特に敬語の時、どうもアナウンスをしているような声色になってしまう。
正確に、分かりやすく、伝えなければと思ってしまうせいなのかもしれない。
そのことを茶化されることもあったし、褒められたこともあったけれど。こんなストレートに褒められたのは初めてだった。
「あ、あの」
「はいはい。イコさん、そういうのはあとで言うてもろて」
た、助かった!ありがとう水上くん!
思わぬ助け舟に乗り掛かり、ゴホンと咳払いをして、本日の防衛任務の詳細を伝えていく。
無事に任務も始まって、その話題もそれ切りで、もう忘れかけていた頃。出来れば聞かないで任務を終えたかった、けたたましい音が鳴り響く。
「…っ、ゲート発生!そこから南東120m先!数およそ5!」
本部からの通信と合わせ、隊に情報を共有していく。…共有しているはずなのに、生駒さんからの応答はない。
「イコさ〜ん!ミョウジさん呼んでるっす!」
「ハッ!ごめんごめん。いや〜ミョウジさんの声良すぎて、つい聞きいってしまうねん」
「わっ分かりました。ありがとうございます!でもそれは、一旦置いといてもらって!」
「置いとかれてもうた」
「そらそうですわ。ほら、はよ行きますよ」
まずは現場に急行してもらうのが最優先。
しかし、ゲートを潜り抜けてきたトリオン兵は、散り散りになろうとする動きを見せている。
ここで散開するのは良くない。建物への被害を最小限に抑える為にも、牽制を兼ねて、先制攻撃した方が良いかもしれない。
移動中の狙撃手である隠岐くんに声を掛ける。
「隠岐隊員、すぐそこに高台があります。そこから狙えませんか?」
持ち場着きます。と全体通信をして、隠岐くんは私の指定した高台に付いてくれた。
「あ〜…いけますけど、イコさんらもう着きますわ」
「生駒隊、現着しました」
「えっ」
隠岐くんが持ち場に着いて「イコさん張り切ってはるわ〜」と呟いた後、その通信が入って驚いた。
そして、トリオン兵を散り散りにさせる事なく、見事な連携であっという間に片付けていく。
最後の1匹は、生駒さんの旋空で仕留められた。
「周囲トリオン兵、反応なし…お見事です」
「俺、今褒められた?えっ、もう1回褒められたいわ。もっと出て来んかな」
「イコさん、それは不謹慎ですわ」
「ほな水上、ちょっと斬られてくれる?」
「いや、なんでやねん」
「ふふ」
つられて笑ってしまうようなやり取りが、耳の向こう側で繰り広げられている。
その楽しげなやり取りを、もう少し聞いていたいところだけど。
「ちょうど時間になりましたので、生駒隊の防衛任務は終了です。軽く周りを巡回してから、帰還をお願いします」
了解、と各々隊員から返事が返ってくる。ゲートの発生はあったけど、特に大きな問題はなく終えて良かった。
「ミョウジちゃん、助かったわ。ありがとうな」
「こちらこそ、ありがとうございました!」
生駒さんからの労いの言葉に胸が温かくなる。少しでも力になれてたら良いな。
それに私の声を褒めてくれて、とても嬉しかった。
「皆さん、お疲れ様でした!」
椅子の背もたれに寄りかかって、背筋をうーんっと伸ばす。生駒隊の帰還を見届けて、私の代理オペレーターの仕事は終わった。
それから数日経った頃、ボーダーの食堂でお昼ご飯を食べていたら、見知った顔が話しかけてきた。
「ナマエちゃん、久しぶり〜」
「迅さん!お久しぶりですね」
迅さんは、そのサイドエフェクトから上層部の方と話しているのもよく見かけるし、本部にもよく顔を出すため接点が割と多く、ちょくちょく話す仲である。
「食堂まで顔出すの珍しいですね?どうしたんですか?」
ここは食堂だ。ご飯を食べに来るところ…だが、迅さんの手には何もない。
「いや〜恋のキューピットをしようと思ってね」
「はぁ…」
そう言って、私の向かいの席に腰を下ろした迅さん。
何かを視たのだろうか。周りをちらりと見渡してみるも、それぞれが食事をしている光景が広がるだげで、特に何か起こりそうな雰囲気はない。
迅さんは視えたことを素直に教えてくれることもあるけど、こうやって要領を得ない伝え方をしてくることも多い。まぁ、それももう慣れてしまったけれど。
ニコニコとこちらを見てくる迅さんに少し気まずさを覚えながらも、そのまま食べ進める。
今日は季節の野菜カレーにした。うん、とても美味しい。
「おっ、来た来た。生駒っち〜!」
待ってましたと言わんばかりに、食堂の出入り口へと顔を向けた迅さんが、生駒さんの名前を呼びながら手を振る。
「えっ、こんなとこに迅がおるなんて…って思たら、女の子と喋ってるやん…うらやまし…」
生駒さんは私と迅さんが座っている席まで来て、そう言った。
生駒さんとぱちりと目が合ったけれど、ちょうど一口、口の中に運んでしまったので、咀嚼しながら失礼のないように手を口に当て、ぺこりと軽くお辞儀をする。
「生駒っち、こちらミョウジ ナマエちゃん」
「えっ!!」
大きく響き渡る生駒さんの声。それに驚いて、ごくんと口の中のものを飲み込んでしまった。
すぐにコップを手に取り、水を流し込む。もう少しで詰まらせるところだった。危ない、危ない。
「この間、オペ入ってくれた… ミョウジちゃん?」
「はい、そうです。あの時はお世話になりました」
「いや、会いたいな〜思てたんや!けど、全然見掛けへん言うか、顔知らんし…」
私は本部付きなので、隊員名簿や諸々のおかげで生駒さんの名前も顔を知っている。
けれど、私は主に本部と食堂しか行き来しないので、生駒さんと顔を合わせることがほとんどない。
この間の代理オペの時も、顔は出していないので、知っているはずもない。
じぃ、と見られる。視線が逸らされる気配もない。なんだろう、と不思議に思いながらも軽く会釈をする。
「声も良ければ、お顔も別嬪さんやね」
「なっ!?」
「生駒っち、女の子には誰でも可愛い可愛い言ってるから」
「迅くーん、ちょっと黙ってもろて」
おっと、危ない危ない。危うく勘違いするところだった。
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいですよ」
「ほらもう〜〜迅〜〜〜〜」
「はいはい、邪魔者は退散します〜」
じゃあね〜と振り返りもせず、ひらひらと手を振りながら迅さんは去って行った。
生駒さんも迅さんの後を追いかけると思いきや、私の向かいの迅さんが座っていた席に腰を下ろした。
「あんな、お世辞じゃなくてな、その…」
「はい…?」
「…あっ、今日カレーなんやね。美味しいよなカレー」
「はい!美味しいですよ〜今日は季節の野菜カレーだそうです」
「そうなんや。俺も後で食べよ…ってちゃうねんちゃうねん」
テーブルの上で手を組みながら、あちこちに視線を揺らしている生駒さん。どこか落ち着きがないように見える。
「その…一目惚れ言うか、一声惚れ言うか…あの日からミョウジちゃんのことが気になって気になって…」
そこで途切れた言葉。彷徨っていた視線は真っ直ぐに私へと注がれた。
「俺と…お友達から始めてくれませんか?」
ぐっ、と結ばれた口元。私の返事を待っている生駒さん。私の答えはもう決まっている。
「私…あの日の生駒さんの言葉がずっと心に残ってて」
急に話し始めた私の話を、真っ直ぐにそして静かに聞いてくれる生駒さん。
「私、機械を通した自分の声、あまり好きじゃないんです。ただでさえ、オペの時とかは口調も声色も変わってしまうから」
「ミョウジちゃんが自分の声好きじゃない言うんやったら、その分俺がミョウジちゃんの声好きって言うわ」
「ふふ、ありがとうございます」
あの時も、今も、その飾り気のない素直な言葉が心に沁みていく。
「その、だから、そんな風に言ってくれる生駒さんのこと私も気になってて…。なんで、私で良ければよろしくお願いします…」
だんだんと恥ずかしくなっていって、最後の方は声が小さくなってしまった。
でも、どうやらちゃんと生駒さんには伝わったようで。
よっしゃー!と高々に拳を上げて立ち上がった生駒さんは、何事かという視線を食堂の皆から浴びていた。
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