荒船 哲次
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「財布が…ない…!?」
今日は荒船くんとの2度目のお出掛け。
前回は緊張してるのもあり、ハンカチを忘れてしまった。でもまぁ、ハンカチは忘れてもなんとかなる。
今回も変わらず緊張しているけど前回の反省を活かし、何も忘れないぞ、と意気込んで念入りにチェックしたはずなのに。
鞄の中をいくら探そうとも、財布がどこにも見当たらなかった。
おそらく鞄の中身を出して確認した時に、そのまま入れ忘れたというところだろう。
本当にやってしまった。財布なくしてはどこにも行けないじゃないか。
今日は電車に乗って少し遠出をしてアウトレットモールへ。秋から冬へとの季節の変わり目ということもあり、服でも見ようとぶらぶらとウィンドウショッピングをする予定だ。
アウトレットモールがある最寄駅で待ち合わせしているけれど…今から一旦家に財布を取りに帰って、そこから電車に乗る。待ち合わせ時間には確実に間に合わないどころか、大幅に遅れてしまう。
荒船くんに連絡しなければとスマホを取り出せば、ちょうど荒船くんからメッセージが入った。
『今電車乗った』『20分着で向こうの改札前で待ってる』と。
待って待って!と思いながら慌てて文章を打ちメッセージを送る。
『荒船くんごめん!待ち合わせ時間に間に合いません。財布忘れちゃって…本当にごめんなさい!』
『何かあったのかと思った。気にすんな。映画でも観て待ってる』
流石、荒船くん…!と感動しながら、土下座をしているスタンプを送る。
『慌てなくていいからな。ゆっくり気を付けて来いよ』
『出来るだけ最短で向かいますので!』
『慌てなくて言いっつってんのに』
そう送ってきた荒船くんの、ふっと笑う姿が想像出来て私も思わず笑ってしまう。
『了解です!』の可愛らしい猫のスタンプを送って返した。
***
無事財布を取りに帰ることが出来、映画を観終えた荒船くんとも合流することが出来た。
「映画面白かった?」
「あー…面白かったとは思うぜ。全然集中出来なかったが」
「そうなの?なんかあった?」
「いや、今度は俺がお前のこと待たせてねぇかなとか、無事にこっち向かってんだろうなとか気になって」
「私のせいでした!ごめん!」
「謝罪は散々聞いたぞ」
そう言って荒船くんは呆れたように笑う。そう、荒船くんと合流してから私は事あるごとに謝ってばかりいる。
大遅刻という失態をおかしたのだから当たり前だ。それを寛大な心で荒船くんは許してくれているのだ。もう頭が上がらない。
またごめんと言い掛けたけれど、じろりと荒船くんの視線を感じたので、すんでのところで言い止まった。
「あの、今度はさ、私と一緒に映画観に行きませんか?」
今日のお詫びに。でも同じやつをもう一回観るのはあれかな。
なんて誘ったのが照れ臭くて、もごもごと口を動かす。ちらりと荒船くんの様子を伺えば、こちらを見て優しくふっと笑う。
「そうだな、行こうぜ。お前が隣にいたら変な心配せずに安心して観れるしな」
そう言って今度は揶揄うように意地悪な笑みを浮かべた荒船くん。
もう!と言った勢いで、断られなかったと安堵の息を同時に漏らした。
***
楽しい時間はあっという間に過ぎ、気付けばもう夕方だった。
荒船くんと来る冬の対策に服やらと見て回ったが、私は新しくマフラーを買った。
そんな荒船くんもちょうど欲しかったんだ、と私と色違いで男の子が巻いていてもおかしくない、落ち着いた色遣いのマフラーを買った。
色違いとは言えどまさかのお揃いになり、でも指摘するのもどうかと躊躇っていれば荒船くんから「お揃いだな」と言ってくれた。
私は嬉しくて恥ずかしくて「そうだね」なんて返すのが精一杯で、心臓がドキドキと鳴り止まなかった。
このマフラーを身に付ける度に今日のことを思い出すんだろうな。そう思うと苦手な冬が早く来ないかと思ってしまった。
「今日はありがとう!また誘ってくれると嬉しい…な」
「お前からは誘ってくれないのか?」
「…誘っていいの?」
「当たり前だろ」
「分かった!でも、荒船くんのお眼鏡にかなうところか……やっぱり映画館しかないね」
「おいおい、毎回映画見に行くつもりか?」
そう言ってお互い顔を合わせて笑う。でも、それも悪くないなんて思ってしまう。荒船くんと一緒なら。
「俺の行きたいところも、お前の行きたいところも一緒に行こうぜ」
「うん!」
「…で、それは友人としてじゃなくて…恋人として行きてーんだけど」
「…うん」
「あー…言い方がずるいな」
そう言って荒船くんは一呼吸おいて、また口を開く。
「ミョウジのことが好きだ。付き合ってくれ」
「…うん!」
「…“うん”しか言ってねーじゃねーか」
「だって、嬉しくて…なんて言ったらいいか」
荒船くんも私と同じ気持ちだったらいいなとは思っていた。学校とボーダーの板挟みで忙しいはずなのに、そんな合間を縫って私との時間を作ってくれていた。
きっと荒船くんは気のない女の子には、こういうことをしないだろうから。
「ミョウジの気持ちも知りたいんだけど」
「わ、私も…荒船くんのことが、好き、です」
「うん」
先程の私を真似たようにそう言った荒船くんは、仕返しだとばかりに意地悪そうな、でもどこか嬉しそうな笑みを浮かべていた。