弓場 拓磨
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「わ〜!ここにちゃんと来るの久しぶりかも」
「そうか…嫌だったか?」
「えっ?ううん全然!私、ここ思い入れあるから」
「俺もだ」
そう言った弓場くんは夕日を真っ直ぐと見つめた。
あの日のことは、今でもふとした時に思い出す。
大学からの帰り道、住宅街の隙間から覗いた夕日の光が眩しくて思わず眉を顰めた。
気候や気温、何かしらの因果関係があったのかは分からないけれど。
その日の夕日は、いつもよりも鮮やかに、綺麗に見えたのだ。
あとは家に帰るだけだし、もう少しちゃんと夕日を見たいと思って河川敷へと足を向ける。
川の側だからほんの少し肌寒いけれど、遮るものはなく空一面に広がるオレンジが映えて、開けた場所で見る夕日は綺麗だった。
写真に収めようとスマホを夕日へと向ける。1枚、2枚と撮ったけれど、やっぱり自分の目で見る夕焼けが1番だった。
「ミョウジ」
どれくらい夕日を見ていたか分からない。でも多分、ほんの数分経った頃だと思う。
名前を呼ばれて声が聞こえた方を向けば、そこには同じ大学で密かに想いを寄せている弓場くんがいた。
「何してンだ、こんなところで」
「夕日見てたの。見て、弓場くん!今日の夕日綺麗じゃない?」
そう言って弓場くんの方へと向けば、彼は夕日へと顔を向けた。あまりの眩しさからか、少し眉を顰めたのを私は見逃さなかった。
少しだけそれに笑って、私も夕日へと向き直る。
綺麗だな。弓場くんと会えるなんて、2人で見れるなんて思わなかったな。
なんて景色を見ながら色々と考えているうちに、無言だったことに気付いた。
慌てて話しかけようと弓場くんの方を向いたら、優しい瞳がこちらに向いていたことを、今でも鮮明に覚えている。
「気は済んだか?」
棘のある言葉に聞こえるけれど、その声はとても穏やかで優しい音をしていた。
「う、うん」
「なら、さっさと帰って飯食って寝ろ」
「あはは!なにそれお母さんじゃん。ねぇ、お風呂は?」
「ふ、ろは、知るか!入って寝ろ!」
少し言い淀んだ弓場くんを見て、私はまた笑った。
そのあと、とりとめのない話をしながら弓場くんは人通りの多い所まで送ってくれた。
「本当は家まで送ってやりてェが…そんなワケにもいかねェ。悪ィな、ここまでで。本部にも戻んねーと行けねェし」
「ううん、ありがとう!…ってちょっと待って。戻る?えっ弓場くんもしかしてお仕事中?」
「もう終わりだけどな」
「うわー!ごめんね忙しいのに!」
「気にすンな。おめェーに何かあった方が困る」
「もし上の人に怒られたら、私のこと理由にしていいからね!お腹痛そうにしてたとか蹲ってたとか言っていいから!」
「おう、言い訳にさせてもらうわ」
「絶対だよ!?」
「分かった分かった。怒られたら、な」
なんて言って少し呆れたように笑ってるけど、私知ってるんだよ。弓場くんがそう言うことを言う人じゃないこと。
だからもう一度、念を押して言っておいた。
後から聞いた話だと、あの日弓場くんは防衛任務に入っていて、あとはボーダーに戻って報告…というところで、私の姿を見掛けたらしい。
人通りも少なくなっていく時間帯、1人でいた私をどうにも放っておけず、声を掛けてくれたようだった。
そして今、あの場所でまた2人でこうして夕日を見ている。
季節もいくつか巡って、私たちを取り巻く関係も変わったけれど。
「あの時のおめェー、なんつーか寂しそうに見えたンだよ。だから次はそんな顔させたくねェなって思ってて…」
「えっ?本当?私、大したこと考えてなかったと思うけど…」
「マジかよ…」
弓場くんは額に手を当て、項垂れるようにため息を吐いた。
「ごめんごめんって!でも私、そんな寂しそうにしてた?ずっと?」
「いや…俺が声掛けるまで」
「じゃあそうだな…誰かと…弓場くんと夕日を見たかったんだよきっと!」
そう言って笑えば、弓場くんも眉を下げながら鼻で笑ってくれた。
弓場くんが抱えてた蟠りが、これで少しは溶けてくれると良いんだけど。
「でもさ、私と弓場くん、育った場所は違うのに、今生きてるこの場所で同じ思い出が出来るのってさ…なんかいいね?」
そう言ってから、ハッとする。そう思ってるのはもしかして私だけかもしれない、と。
いやでも、弓場くんもずっと気に掛けてくれていたようだし、同じ思いの…はず。
顔を下にほんの少し傾け、顎に手を当てうじうじと考える。
弓場くんはどう?と声を掛けようと顔を上げると同時に、影が落ちた。
一瞬だけ熱のこもった瞳と目があって、それから触れるだけのキスが降ってくる。
「これでまたひとつ、思い出が出来たな?」
どこか得意げな顔をして、そう言った弓場くん。その頬と耳は赤い。でもそれは夕日のせいではない、彼の色で。
揶揄ってやろうと口を開いたけど、そうだね、なんて言って笑って誤魔化した。
だって、きっと私の顔も、夕日のせいになんて出来ないぐらいに赤いだろうから。
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