諏訪 洸太郎
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「もしもし?」
『ん…?ミョウジか?』
「……風間くん?」
『あぁ』
飲み会に行っているはずの洸太郎から電話が掛かってきてなんだなんだと出てみれば、声の主は洸太郎ではなく、どこか聞いたことのあるその声は風間くんだった。
風間くんとは飲み会へと行った洸太郎を迎えに行った時だったり、酔い潰れた洸太郎を送ってくれたりと会う機会が多く、今ではもう顔見知りである。
『風間!テメェー!それ俺のスマホ!』
『ミョウジって…諏訪さんの彼女じゃなかったっけ?』
『人のスマホでどこに電話してんだよ!クソ酔っ払い!』
『確か高校から付き合ってる?』
『そうそう』
『そんなに長いんですね!素敵だなぁ』
『…腐れ縁みてぇなモンだよ』
電話の向こうから聞こえてくる、風間くん以外の人の声と洸太郎の声。
それに耳を傾けていれば、流れてきた言葉にショックを受けた。
腐れ縁。私達はその言葉ひとつで言い表せる関係だったんだなって。なんだか、腐れ縁だから仕方なく付き合ってるようにも聞こえて。
それ以外にどう言えばと問われれば、難しいかもしれないけど。
それに電話の向こうから、女の人の声が聞こえた。
飲み会と言うから、いつもの4人だと思っていたのに。そんな些細な嫉妬も重なって。
「…風間くん」
『なんだ』
「洸太郎に伝えといて。“腐れ縁で悪かったなバーカ!”って」
『風間、了解』
そう言って電話を切った風間くん。手に持ったスマホからは、向こうの喧騒は何一つ聞こえなくなった。
***
「諏訪」
「あん?」
「ミョウジが別れてくれって」
「…は」
風間の言葉をきっかけに、その場がしんと静まり返る。そしてその重苦しい空気を切るように、口を開いたのは加古だった。
「彼女さん、傷付いたんじゃない?腐れ縁って言葉に。女の子は傷付くわよ〜」
「高校からか…長かったっスね」
「過去形にすんなボケ!」
ほろ酔い気分だったのが、一気に覚めた。飲み会に行かなければ、加古や太刀川、来馬達と偶然会って一緒に飲むことにならなければ、こんな面倒ごとは起きなかっただろう。飲み会に至るまでのすべてを呪った。
「…ってか風間。スマホ、パスコード付けてたろ。なんで突破してんだよ」
「前に言ってただろ。当たり前のようにずっと一緒に居るから、忘れないように付き合った日をパスコードにしてるって。それ入れたらイケた」
「…言ってねェ」
「言ってたぞ」
「言ってた言ってた、酔ってたけど」
「…クソが」
「なんだ〜諏訪さん、彼女さんのこと大好きじゃん」
「うっせェ!」
どいつもこいつもニヤニヤとした顔を向けてくるもんだから、それから逃げるように上着を羽織って、財布から何枚かお札を取り出し机に置いた。
「とりあえず俺は一抜けだ。コイツのこと頼んだ」
このクソ酔っ払い、お前のせいで。
顎で指せば、当の本人は言いたいことだけ言ってもう夢の中だった。
同意と不満の声を同時に聞きながら、俺は店を後にした。
***
電話を切ってから5分10分と時間が経つ度に、罪悪感に襲われていった。
余計なこと言っちゃったな。飲み会白けちゃうだろうな。とか考えて、どんどんと気持ちが落ち込んでいく。
今、洸太郎に電話しても出ないかもしれない。家に帰って来た時にでも謝ろう。
そう悶々と考えながら、1時間が経とうとした頃だった。唐突にピンポーンとインターホンの音が鳴る。
誰だろうとモニターを確認すれば、飲み会に行っているはずの洸太郎の姿がそこにはあった。
「洸太郎!?飲み会に行ってるはずじゃ…それになんでインターホン鳴ら…」
ドアを開けて迎えると、洸太郎が一歩家の中に入って来る。
いつものように慣れた手つきで鍵を閉めて、私に向き直ったかと思えば、私の言葉を身体ごと洸太郎が抱きすくめていった。
「…別れねェからな」
「えっ?」
「腐れ縁だろうがなんだろうが、好きじゃなきゃ付き合ってねーし、告白もしてねーよ。それに一緒に住んでもいねー…」
クソ真面目に答えてたら、揶揄われるの目に見えてたし…でも悪かった。そう続けて言った洸太郎。
お酒のせいか、ここまで急いで帰ってきたせいなのか、首筋に掛かる洸太郎の吐息は熱い。
「こ、洸太郎」
「別れねェから」
「わ、分かった!別れないから!というかなんで、別れる別れないの話になってんの?」
肩を掴まれ身体を離され、怪訝な顔をする洸太郎と向き合う形になる。
「おめーが風間に言ったんだろ。別れてくれって伝えろって」
「えっ?私、風間くんにそんなこと言ってないよ?
“腐れ縁で悪かったなバーカ!”って伝えてって言ったんだけど…」
それを聞いた洸太郎は少し目を見開いて、大きな長いため息を吐きながら、片手で頭を抱えずるずるとしゃがみ込んでしまった。
どうやら私の伝言は風間くんの中で上手いこと意訳され、洸太郎に伝えられたらしい。
洸太郎の携帯で私に電話してきたぐらいだったし、風間くんも酔っていたのだろう。
「そんなに私と別れたくなかったんだ、洸太郎」
ニヤニヤしながら、洸太郎と同じようにしゃがみ込んで声を掛ける。
睨むように上目遣いでこちらを見た洸太郎は、またゆっくりと抱えた膝へと蹲ってしまう。
「あたりめーだろうがァ……」
洸太郎にしては珍しく弱々しい声で呟くものだから、思わず笑ってしまった。