荒船 哲次
▼ Name change!
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「荒船こと…好き、です」
「…悪い。今はそういうの考えられない」
一世一代の告白。それはなんともあっけなく散っていった。
でもなんとなく分かってたんだ。荒船とは仲良くさせて貰ってて、私は荒船のこと好きだったけど…荒船は私のこと友達としてしか見てないんだろうなって。
「でも、お前の気持ちは嬉しかった。ありがとな」
断るだけでいいのにさ、真っ直ぐこっちを見てお礼なんて言っちゃって。
私の気持ちを無下にしない荒船の言葉に胸がいっぱいになる。
「やっぱり優しいね、荒船は」
溢れそうになる涙を必死で堪えて笑う。ただでさえ告白して困らせてしまっているのに、ここで泣いたらもっと困らせちゃう。
「これからも友達として仲良くしてくれると、嬉しいです」
「…あぁ」
「聞いてくれてありがと!じゃあまた明日!」
そう荒船に手を振って背を向ける。2歩、3歩と歩いてからだんだんと駆け足になっていく。
ぽろぽろととめどなく溢れてくる涙を拭いながら、そういえば明日ボーダーに行く用事なかったなぁ、なんて思った。
荒船も居るとは限らないし。まぁ、いっか。
荒船とは学校も違うし、ボーダーでも顔を合わせないようにするのは難しいことではない。
なにせ広いし、荒船と仲の良い見知った顔も気を付けていれば避けることも可能だ。
顔を合わせなければ、気まずくならなくて済むだろう。
しばらくはこれで行こうと思った矢先だった。
「よう」
告白をしてから2日後、早速荒船に話しかけられてしまった。どこにいるか意識して避けていたはずなのに、いつの間にか視界から消えていた荒船は私に近付いてきていて後ろから声を掛けられた。
バッグワームかなんか使ってないよね?
「お、お疲れ様!」
「お前また明日って言ったくせに、昨日居なかったじゃねぇか」
「あぁ…ちょうどボーダーに用事なかったんだよね。ごめん」
「何かあったかと思ったわ」
気にかけてくれたのかな。そう思って胸が少しそわそわしてしまう。
でも何事もなかったかのように話しかけてきた荒船に、ほっとしたような気持ちもあれば、残念な気持ちもあった。
「…いや、俺が言っていいセリフじゃねぇな」
「え、あぁ!大丈夫!」
申し訳なそうな顔をした荒船に、私も申し訳なくなってしまった。
荒船はいつも通りにしてくれようとしてるんだから!私が気にしてちゃダメだ!
「それよりさ!この間のランク戦の…」
なんでもないように努めて他の話へと振る。荒船も特に気に留めた様子はなく、そのまま別の話題へと移っていった。良かった。
そして荒船に告白してからさらに数日が経ったけど、以前より荒船に話しかけられることが増えた…ように思う。
やっぱり荒船の中で告白のことが引っ掛かっているのだろうか。
話しかけられる話題はいつもと変わらないけれど、それが逆に気を遣わせてしまっているのかな。
「あのさ、荒船この前のこと気にしてるなら、気を遣わなくていいからね。なんならなかったことにして
「忘れられないんだ」
ラウンジで一緒に休憩している時、思い切って言ってみた。
けれど、私の言葉に被せるように荒船が口を開く。どこか遠くを見つめていた瞳が、真っ直ぐとこちらを見る。
「瞼の裏に焼きついて…離れないんだ。あの時の、お前の顔が」
あの時の。きっと告白した時のことを言っているのだろう。
私、どんな顔してたんだろう。恥ずかしくて顔が真っ赤で、でも泣かないように必死で繕って…多分見てられない顔してたと思うんだけど。
「お前、俺のこと優しいって言っただろ。…そう言ったお前が1番、優しい顔してた」
それを聞いてなんて言ったらいいのか分からなくて。素直に喜んでいいのかも分からなくて。
何か答えを返したいけど言葉は出て来なくて、口を噤んでいると荒船はそのまま話を続ける。
「考えられないとか言って振った手前、ダセェよな。でも、もっと…ミョウジの色んな顔見たいって思ったんだ」
照れるように少しだけ微笑む荒船を見て、視界が揺らいでいく。
「今度は俺から言うから。だから、もう少しだけ待っててくれるか?」
言葉が出ない代わりに何度も頷く。
そんな私を見た荒船が言ったお礼の言葉は、あの日よりも何倍も優しく暖かく感じた。
—————
title:icca