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ロビンに受け止められたローさんを見て、血の気が引いた。
胴体から完全に切り離された右腕。その想像を絶するであろう痛みを思わず考えてしまって、右腕にぞわりと何かが走る。ちゃんと自分の右腕があるか、ちらりと見た程に。
ドフラミンゴからの追い討ちもキャベツくんの支援で。ローさんの治療も私はなんの役にも立てなくて。行き場のない手を握りしめた。爪が強く深く食い込んでいく。悔しい。
そして、ルフィの戦いの行く末を見届けたいと、置いていけと言ったローさん。
「…いいんじゃないですか」
「おい!」
「…ナマエ屋」
息も絶え絶えの声が私の名前を呼ぶ。
「その代わり、私もいますからね。何かあっても、ローさんの囮や時間稼ぎぐらいは出来るでしょ…多分」
その時間稼ぎも、ほんの1秒しか稼げないかもしれない。でも、この人を生かすためなら私はなんだってしてみせよう。私の身を投げ打ってでしか、今私に出来ることはない。
「…っお前に、そこまでされる、筋合いはねェ」
「貴方にそうする理由を教える筋合いもないですけどね」
そう言えば、一際眉間に皺を寄せて睨まれたので、冗談ですよ、と軽く笑って返した。
「ローさんに死んでほしくないだけです。……好きだから」
きっかけは一目惚れ。でも今はそれだけじゃない。芯の強さや見た目とは裏腹に優しいところ。色んな彼を知って、惹かれて、より好きになった。
私の言葉が少しでも枷になればいい。彼が命を燃やそうとしている、その枷に。
でも、同盟相手だからとか私の想いだとかそんなこと棚に上げても、目の前の彼に死なれたくない。ただ、それだけでもある。
ローさんは少しだけ目を見開く。何を言っているんだとでも言うような疑いの視線を向けてくるので、その目を真っ直ぐと受け止める。
先程と同じように軽く笑って見せたが、うまく笑えてたかは分からないし、ローさんがそれをどう受け取ったのかも分からない。
結局、諦めたようにため息を吐いたキャベツくんがその場を引き受け、私とロビンはバルトロメオくんと一緒に下へ降りた。
「…どうかご無事で、また」
彼の姿がこれで最期にはなりませんように、と祈りながら。
***
次に彼の姿を見たのは、ドレスローザでの一連の騒動が無事に終わって、宴をしている頃だった。
騒がしい輪から少し外れたところにいるローさんを遠くからチラリと見る。
「彼が無事で良かったわね」
声がする方へ顔を向けると、私の視線の先を辿っていたロビンがそこにいた。
「…うん、本当に」
全身に巻かれた包帯に、痛々しい傷の跡。でも、今の本人はなんだかんだとおつまみやお酒を嗜んでいて、見た目よりは元気そうでほっとする。
私の視線に気付いたのか、顔を上げたローさんと目が合ってしまった。徐に腰を上げ、こちらに向かってくる様子だ。
ロビンに用でもあるのかな。お邪魔虫は退散するとしよう。
「あら、どこに?」
「ローさん、ロビンに用があるっぽいから。私向こうに行くね〜」
「あら、彼の目には貴方が映ってるみたいだけど…ふふ」
さて、席を立ったのは良いものの。どこの輪にお邪魔しようか。色んなところで小さな輪が出来ているがどうにも入りにくい。
隅っこで大人しくしておこうとまた一歩踏み出した途端、腕を掴まれる。
「わっ!?」
「お前…逃げるなよ」
少しだけ息を切らしたローさんが、こちらを睨みつけながらそう呟いた。
「別に逃げてはいませんが…?」
「なら、なんで」
「ローさんこそ、ロビンさんに用があるのでは?」
「は?」
お互いに首を傾げる。どうもすれ違いをしているようだ。答え合わせをすると、ため息を吐かれてしまった。
どうやら用があったのはロビンではなく私のようで。早とちりだったなぁ。ははは、と笑って頬をかいた。
「それで、どうかしましたか?」
「…別にどうもねェよ」
私を追いかけてくれた嬉しさを隠すように平静を装い訪ねるも、なんでもないというばかりの態度のローさん。
なら、何故追いかけてきたのだ。
行き場を無くし、このまま立っていても…どうしたものかと考えあぐねていると、隅に寄ったローさんが腰を下ろして、隣を手でぽんぽんと叩いて、座るように促してくる。お言葉というか態度に甘えて、隣に腰を下ろした。
「思ったより、お元気そうでなによりです」
「お前の方がボロボロなんじゃねぇか?」
「いやいや、ローさんに比べれば…」
何も出来なかった。見守ることしか出来なかった。無事を祈ることしか出来なかった。
言葉を交わして初めて、この人が生きていると実感出来て、思わず涙が溢れる。
「…泣くな」
横から聞こえる戸惑う声色に、慌てて涙を拭う。今度は「あまり擦るな」と言われる。どうしろと言うのだ。
伸びてきた手に目元を優しく拭われる。驚きと恥ずかしさと、ぐちゃぐちゃの感情が襲ってきて涙なんて引っ込んでしまった。
そして、すぐに離れて行った手は、私の足を指差した。
「それ」
ローさんの視線が足に向けられる。そこは深い切り傷を負ってしまった太もも。包帯にじわりと血が滲んでいた。
私も敵に襲われたり、爆発に巻き込まれたりして、あちこちに絆創膏や包帯を巻いている。そのほとんどは小さな傷だったりするけれど。
「わ!替えないと。チョッパーどこに…」
「…いい、座ってろ。俺がやる」
そう言って、ローさんはどこからか調達した包帯と消毒液を持ってきてくれた。
目の前に跪かれ、私の足に巻かれた包帯を解いていく。
ただ包帯を替えているだけなのに、地肌にときどき触れるローさんの手を意識してしまって、どうにかなりそうだった。
「ほら、出来たぞ」
「ありがとうございます…」
少し消毒をして丁寧に包帯を巻かれ終わった頃には、謎の疲労感に襲われた。
やっと終わったと安堵した途端、ローさんの手が最後に傷口を包帯の上から優しくひと撫でしていき、身体が飛び跳ねた。
「…お前も、ナマエも無事で良かった」
そう言ってローさんは立ち去っていく。私は熱くなった身体を丸めて両手で抱え込んだ。
こっちの気持ちも知らないで、好き勝手してくれる。麦わら屋、ゾロ屋、のように私のことも屋を付けて呼んでいたはずなのに。
どうも出会ってから、振り回されてばかりだ。
大きく吐いたため息は、喧騒に紛れて消えていった。