≠一方通行
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▼同盟直後ぐらいの話
「これ以上はダメだ…今ならまだ間に合う…」
他船の船長に一目惚れ。報われないにも程がある。
今ならこの想いも引き返せると、半ば自分に言い聞かせるように唱える。見張りの時なら、周りに誰もいないので、考え事にはもってこいだ。
「何がダメなんだ」
「トラファルガーさん!?」
気配にまったく気付かなくて、大きく驚いてしまった。他の皆は寝ているか、船の前方でウソップが見張りをしているかだ。
まさか声を掛けられるとは思ってもみなかった。しかも、今脳内のほとんどを占めていた張本人に。
「えらく他人行儀だな」
麦わら屋たちもお前の謙虚さを見習えばいいものを、と目の前の彼はため息と共に小さく呟いた。
そう、ルフィを始め他の皆が彼のことを「トラ男」と呼んでいる中、私だけは「トラファルガーさん」と呼んでいた。
これは私の予防線でもあるのだ。これ以上、彼に踏み込まないようにする為の。
「で、何がダメなんだ?」
「え、あ、いや〜…眠たいので!このまま寝てしまってはダメだと!見張りしてますから、ね!」
「そうか、まぁそうだな」
そう言って彼は、また船内へと戻って行った。
なんとか誤魔化せたかな。ふぅと大きく息を吐く。それも束の間、コツコツとまた足音がしてきたと思えば、トラファルガーさんがまた戻ってきた。
「今夜は冷える。風邪引くなよ」
「あ、ありがとうございます」
悶々と考え事をしていたからか、気温が下がっていることに気付いていなかった。
すっと差し出されたブランケット。わざわざ持ってきてくれたんだ、と胸が温かくなった。
また騒がしくなっていく心臓の音をなんとか抑えつつ、ブランケットに包まる。
私も何かお礼をしたいな。何が出来るかな。
「そうだ!」
突然大きく声を上げた私に、少しだけ目を見開いて怪訝そうな顔をするトラファルガーさん。
「トラファルガーさんも他の船で落ち着かないんじゃないですか?」
ダイニングに招き、心の中でサンジくんにキッチン使うね、と少しばかりの断りを入れて、ホットミルクを用意する。
「良かったら、どうぞ」
ほかほかと暖かい湯気のたつカップを彼の前に置く。彼は小さくお礼を言ってくれた。
もう少し話してみたい気もするけれど、私がいるとゆっくり出来ないかもしれないし、私の心臓も持たないかもしれない。
戻りますね、と言って外に続くダイニングの扉を開ける。
それでも、やっぱり。なんだか名残惜しくて。
「おやすみなさい、トラファルガーさん」
「…ローでいい」
「え?」
「…おやすみ」
振り返って挨拶をする。その後の彼の発言がうまく飲み込めずに出た間抜けな声には、返事を返してくれなかったけれど。彼はほんの少しだけ微笑んでくれた。
パタンと扉を閉める。と同時に船の後方、元居た見張り場所へと駆ける。どくんどくんと鳴る心臓を誤魔化すように。
少しでもお話することが出来た。でも上手く話せていただろうか。先程の会話が頭の中で何度も反芻される。
もう引き返すことなんて出来やしない。私の張っていた予防線も、彼の一言であっという間になくなってしまった。本当にままならない。
それに、あんな笑顔を見てしまえば、もう手遅れというものだ。