トラファルガー・ロー
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▼麦わらの一味夢主
振り返ってみればあっという間だったと感じてしまう同盟も、四皇カイドウを倒したことでもうすぐ終わりを告げる。
つまり、それはトラ男くんとのお別れも意味する。
初めはずっと眉間に皺を寄せていて怖いな、という印象だった。見上げなければいけない程の背の高さも相まって、威圧感も感じていた。
でも、一緒に過ごしていくうちに、ぽつぽつと話をするようになっていくうちに、そんな印象は消え去っていた。
それどころか、パンが嫌いだとか意外な面を知って、分かりづらい優しさに触れて、いつしか淡い想いも抱くようになっていった。
この宴が終わって明日が来れば、もうトラ男くんと会えないかもしれない。会えたとしても、それが何ヶ月、何年先のことか分からない。
抱えた想いも言わなければ伝わらない。でも伝えたいと思うのは、私の自己満足でしかない。
それに、言ったとしても後が気まずくなるだけかもしれない。
そうぐるぐると考えては、お酒をちびちびと飲んでいた。
告白は一旦…うん、まぁ置いといて。少しだけでも話したいと思ってトラ男くんの姿を探す。
一際盛り上がる輪から少し離れたところに彼は居た。右へ左へ顔を動かし誰かを探しているような様子を見せた後、振り返って口を開いた。誰かが近くに居るみたい。
ここらかでは看板が邪魔になっていて、近くに居るのが誰か分からない。少し身体をずらして見てみれば、そこにはロビンがいた。
どくん、と嫌な音を立てて心臓が鳴る。
そうだよね。ロビンと話したいよね。私よりも話すこと、たくさんあるだろうし。
どこか行き場を失った気持ち。2人並んで様になっているのを見ていると「あぁやっぱり告白なんてしない方がいい」と心に影を落としていく。
グラスに残ったお酒をぐいと飲み干した後、一足先に船に戻ろうと立ち上がった。
少し沈んだ気持ちで歩いていた船までの道のりも、宴でどこもかしこも笑顔が溢れているおかげか、先程の気分が少し晴れるようだった。
「あ!!!」
途端に大きな声が後ろから聞こえて、思わず立ち止まり振り返る。その声を出したであろう人もこちらを見ていた。
「ナマエさん!」
「ペンギンくんとシャチくん…だよね?」
はい!そうっす!と各々返事が返ってくる。少し赤みを帯びた頬に、手に持ったいくつかの酒瓶。彼らも楽しんでいるようだった。
「キャプテンと話は終わったんスか?」
「…話?」
キャプテンと言われ誰のことか一瞬考えるも、彼らのキャプテン=トラ男くんと頭の中で組み立てて、1人納得をする。
「えっ!?もしかして、まだ話してないんですか?おかしいと思った…」
「何も言われてないけど…それ私じゃないんじゃない?」
「「それはない!」」
2人揃って鬼気迫るようにそう叫ぶものだから、おぉ…と一歩引いてしまう。
「ちょっと!」「ここで!」「待っててください!」
引き止めるかのように、こちらに手のひらを見せ両手を前に出し、意気のあった言葉を交わしながら、彼らは駆けて行った。
ぽつんと1人残される。待っていろと言われたものの手持ち無沙汰で。
近くにあった屋台ならそんなに離れてないから大丈夫かな。そう思って一歩踏み出した時だった。
「…ッ、どこに行く気だ」
突然触れられた大きな手と、低く響く声に肩をびくりと震わせてしまった。
振り返ると少し息を切らせたトラ男くんがそこにいた。
「え、っと…そこの屋台。飲み物でも買おうかなって…」
私の言葉を聞いて、彼はすっと手を離してくれる。…びっくりした。まだ心臓がばくばくと鳴っている気がする。
「と、トラ男くんはどうしたの?」
「ペンギンとシャチにここにいるって聞いた」
だからそんなに慌てて来てくれたのかな。
それがなんだか嬉しくて、胸に少し温かいものがほわりと湧いた。
「…どれがいいんだ?」
トラ男くんは屋台を顔で差して、こちらに視線を向ける。
「…奢ってくれるの?」
「ちゃんと見返りは貰うがな」
「えー見返り?私、トラ男くんにあげられるものなんて何もないけど…」
「心配しなくていい。おれが欲しいものはおまえだ」
「…え」
驚いて何も言葉が出ない私を尻目に、トラ男くんはどの飲み物が良いかを急かしてくる。
なんとか目当ての味を指差すと、トラ男くんは軽く頷いてからてきぱきと会計を終わらせ、2人分の飲み物を持って来た。
「場所を変えるぞ」
言われるがままにトラ男くんに着いていけば、人通りの少ない広場に着いた。
空いていたベンチに腰掛け、隣に座るようトラ男くんが促してくる。
少し間を空けて座ったのに、すぐにその距離はトラ男くんによって詰められてしまった。
「さっきのことだが」
欲しいのはおまえだ。そう言われてから、トラ男くんの後ろを歩いている時もずっと考えていた。
トラ男くんのことだから、告白とかそんな青いものじゃなくて、もっと現実的な…船員として私が欲しいって言ってくれたんじゃないかって。そうだとしても、私に出来ることなんてないのに、なんでだろう。
びっくりしたし嬉しかったけれど、勘違いしちゃうところだった。危ない。
「な、仲間にってことだよね?でも私はルフィ達に…」
「ちげェ」
吸い込まれてしまいそうな程の、真っ直ぐな瞳がこちらに向けられている。
「船員として欲しいわけじゃねェ。おまえが好きだから…だから欲しいんだ」
諦めてしまおうと思っていた想い。それを掬い上げて拾ってくれたのは、紛れもなく想い人で。こんなに嬉しいことはあるだろうか。
溢れそうになる涙を堪えて、彼に私の想いを伝えるために口を開く。
「私、ついさっきトラ男くんに想いを伝えるのやめようって思ってたところなのに…」
「な…」
「でも、良かったんだ。伝えても良かったんだね」
出来る限り姿勢を整えて、深呼吸をして。彼を見据える。
「トラ男くん…私、トラ男くんのことが好きです」
「…あぁ」
目を細めて優しく笑ったトラ男くん。それを見たのも一瞬で、次の瞬間にはトラ男くんの腕の中だった。
「おまえをこのまま攫っちまいてェところだが」
「えっ!?それは、」
そう言ってくれるのは嬉しい。せっかく心を通わせたのに、もう明日にはお別れだなんて。
「おれに旅の目的があるように、おまえも麦わら屋の船に乗っている理由はあるだろ。…それでも、おまえの心だけは貰っていってもいいだろ」
こんな私でも、麦わらの一味で。私なりにルフィの船に乗っている理由もある。それを説明するまでもなく、彼は私の気持ちを汲み取ってくれた。それに。
「…結構ロマンチックなこと言うんだね、トラ男くん」
「…うるせェ」
ふいと顔を背けてしまうトラ男くん。代わりに目に飛び込んできた耳は、ほんのり赤くなっているように見える。照れてるのかな。
「トラ男くん」
彼の手を取って、手の甲を私の胸に当てる。心臓に近いところ。少しでも私の気持ちが伝わればいい。
「━ッ、おまえなにして」
「私がこんなにドキドキするのトラ男くんだけだよ。…心はもう、トラ男くんのものだよ」
「ナマエ…」
彼の手を取っていた私の手を、今度は彼が攫っていく。同じように私の掌を自分の胸に当てたトラ男くん。彼の温もりと共に、どくどくと心音が伝わってくる。
「おれも、だ」
またもや照れているのだろうか。少し歯切れの悪い言葉に、笑みが溢れてしまった。
ぎろりと睨んでくる瞳もなんだか愛しくて、つい笑ってしまう。
もうすぐ来るお別れも、寂しくないと言えば嘘になるけれど。
それでも今日この日が、この時があるから、きっと離れていても大丈夫。そうだよね、ローくん。
初めて呼んだ名前に少し綻んだ彼の顔を、私はこの先も忘れない。
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