ゾロ
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「……好き」
言葉にしてしまった途端、やってしまったとひゅっと息を呑んだ。
聞こえてなければ良いと思えど、私をおぶってくれている目の前の男は「…あ?」と言い、ぴたりと立ち止まってしまう。
言うつもりはなかった。
ゾロへの想いを自覚したと同時に、まっすぐと前だけを見据える彼を見てきた私は、どれだけ隣で笑って話し合おうとも、命を賭ける戦いに巻き込まれようとも、この気持ちは心の中だけに留めておこうと決めた。
そのはずだったのに、大きな背中の温かさに触れてしまったのか、堰き止めていた想いが溢れてしまった。
***
平和そうな街だからと、仲間と別れ1人で散策に出掛けたことを後悔した。
街は活気で賑わっているが、迷路のように入り組んでおり、運悪く賊に目をつけられてしまったのか襲われてしまった。
足に鉛玉とナイフでの裂傷をつけられて、歩くのもままならない。
街の地理に詳しい地元の賊なのか、死角から狙われるし、逃げていく場所も分かられているような感じがして薄気味悪い。
少し離れた場所からも土埃が舞うのが見えるので、他の仲間も襲われているのかもしれない。
誰か来てくれないかと緑髪の彼が浮かんで…すぐに頭を振りかぶる。
それなのに、壁に身体を預けぼーっとした視界の中、角から曲がって現れたのはゾロだった。
私の姿を見るや否や、少し目を見開いて足早に駆け寄ってきてくれる。
「大丈夫か!?」
「大丈夫…と言いたいんだけど、ちょっと歩けそうにないの」
「…すぐにチョッパーのところへ連れてってやる」
そう言ってゾロは私に背を向けて屈んだ。「ほら、」と言って少しだけこちらを振り向く。背中に乗れ、と言うことだろう。
ほんの少しだけ、乗ることを躊躇ってしまう。
重いかもしれない。心臓の音が聞こえてしまうかもしれない。
そんな私の葛藤なんて一瞬だったはずだ。それでもすぐに乗らなかった私に痺れを切らしたのか、半ば無理やりおぶられてしまった。
「しっかり掴まっとけよ」
「…うん」
案の定、道を間違えるゾロを後ろから私がサポートして船を目指す。
急いでいるけれど、なるべく私の身体に負担が掛からないよう、気を遣ってくれているのが分かる。この背中に触れているせいで、分かってしまったのだ。
***
私の言葉を聞いて立ち止まったゾロは、口を開いては閉じ、頭は上へ下へと考え事をするかのように動かしている。
きっと彼は、私に向ける言葉を選んでくれている。
「……おまえは大事な仲間だ」
「…うん。ありがとう、ゾロ」
大事な仲間。それを言葉にしてくれて嬉しい。でもね。
「…ごめんね、今だけ」
ゾロの首に回している腕に力を込めて、ぎゅっとしがみつく。彼の三連ピアスが重なって音を立てた。
ごめんね。困らせて。気を遣わせてしまって。
ゾロは何も言わずに歩き出す。先程より少しだけ熱く感じた彼の背中に、なんだか泣きそうになった。
***
思ったよりも傷が深かったのか、3日間の絶対安静、2週間の療養期間を経て完全復帰した。これも偉大なるチョッパー先生のおかげである。
少しだけ歩くのを許された療養期間の間、あのことがあってから初めて私からゾロに話しかけた。
あの時は運んでくれて、ありがとう。ごめんね。
努めて、何もなかったかのように。
彼にこれ以上、気を遣わせないように。煩わせないように。
「おう」と言ってくれた彼に、どれだけ胸を撫で下ろしたことか。
そして、今まで通りに話して、でも近付き過ぎないように気をつけて。
彼と話す機会も隣に居る機会も前よりは減ったけれど、それはもちろん、私がそうしているからだ。それがこれから当たり前になるように。
安静にしている間の私の不寝番は、ゾロが代わってくれたと聞いた。今日はちょうどゾロが不寝番の日なので、私が代わりにやろう。
それを伝えようと、ゾロの姿を探すも彼はどうやら昼寝に勤しんでいるようだった。
いつ起きるか分からないし、タイミングを逃すと不寝番の直前まで伝えられないかもしれない。
それだとゾロが可哀想なので、どうせなら早いうちに伝えて、この後はゆっくり休んでもらうとしよう。
「ゾロ」
「………あ?」
眉根を寄せながら目をぱちぱちとさせて、こちらを見る。私の姿を確認して、彼は身体を伸ばしながら、あくびをひとつ。
「起こしてごめんね。すぐ終わるから」
「…ん」
「この前の私の不寝番、代わってくれたって聞いて。今日のゾロの不寝番、代わりに私がやるね。はい、終わり!」
だから、ゆっくりしてて良いよ。そう付け加えて、彼の反応を見る。
「…了解」
うとうとした目はすでに閉じられてしまっていたけれど、返事が返ってきたので伝わっている、と思う。
再度、起こしたことに対する謝罪を言ってから立ち上がる。
すぐに背を向けた私は、彼がどんな顔をしてこちらを見ていたかなんて、知る由もない。
***
久しぶりの不寝番で気合を入れる。任された船の後方、周りを見渡して…不審な船も怪しい雲もない。星がきらきらと輝いて海面に反射しているだけだ。
うん、異常なし!と心の中で呟いた。
「よぉ」
「わーっ!?」
警戒を緩め腰を下ろそうとしたところで声を掛けられ、思わずぴしっと気をつけの姿勢になってしまった。
「悪い、驚かせた」
声のする方に顔を向けると、ばつの悪そうな顔をしたゾロがいた。
「わ、私も大きい声出してごめん。びっくりしちゃった」
それを聞いたゾロは、一瞬だけ眉間に皺を寄せて私の隣に座り込む。
どうしたの、と口を開こうとしたところで、ふと頭をよぎる考え。
不寝番と勘違いしてるのかな?まぁ、伝えた時寝ぼけてたしなぁ。
「ちゃんと伝わってなかったかも、ごめんゾロ。今日の不寝番、私が代わるからいいんだよ?」
「……おまえ、この間から謝ってばかりだな」
それを聞いて、びくりと身体を震わせてしまった。そう言われて自覚した。確かにそうだ、と。
この前のことで、ゾロにどこか負い目を感じていたのかもしれない。
また、ごめん。と言い掛けて口を閉じた。そんな私を見透かしていたかのように、ゾロはこちらを見ていて思わず視線を逸らす。
「…おれに向ける目も、声も。あれ以来、変わっちまった」
あれ以来。きっと私が気持ちを告げてしまった時のこと。
色恋には鈍感そうなのに。実際、私の気持ちなんて気付いてなかったくせに、そんな些細なことを気付いているだなんて。
「前はなんつーか…あったけェっつーか、優しいっつーか…とにかく違うんだよ」
「気のせいだよ、きっと。私があんなこと言ったから、目についちゃってるだけで、」
「確かにお前の言葉がきっかけだったかもしれねェけど、ちゃんとおれの目で見て、耳で聞いて、頭で考えてる」
そう言ったゾロはこちらを真っ直ぐに見据えている。その瞳を真っ直ぐと見返すことができない。
逸らした先の揺れる海の水面は、私の心を表しているようだった。
「そんな不安そうな顔すんな。あと少しで答えが出そうだからよ。もうちょっと待っとけ」
ゾロは立ち上がり、私の頭をぽんと撫でて立ち去ろうとする。
「わ、悪い結果なら聞きたくないよ!」
遠ざかる背中に声を掛ける。ゾロがちゃんと考えてくれた結果、またフラれるようなことを言われるのは辛い。辛すぎる。それなら何も耳にしない方が良い。
「お前にとって、」
そこまで言ってゾロは口を閉じた。私から視線を逸らし、少し考える素振りを見せてから、再度こちらに目を向ける。
「いや、お前にとってもおれにとっても、良い結果だ」
穏やかに、優しく、まるで月明かりのように彼は笑う。
肌寒いと感じていた夜風は、熱った身体に心地良い程にもなった。心臓はどきどきと脈打って、到底眠れそうにない。
あぁもう、今日が不寝番でよかった。
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