ゾロ
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「おまえ、最近なんかおかしくねェか?」
日課のトレーニングを終え、マストの下にある腰掛け座っていた私の隣に、どかりと腰を下ろしたゾロ。
「お疲れ様」と声を掛ければ「おう」と短い返事が返ってくる。そのまま彼は、小さな樽に入った水をごくごくと煽っていた。
すぐに離れては気を悪くすると思い、少し経ってから本を読み終えたフリをして、立ちあがろうとした時に掛けられた一言。
身に覚えがありすぎて、でもその理由を彼に言う訳にもいかなくて、自然にかつなんでもないように「気のせいじゃない?」と言った。
彼の方に目を向けることが出来ず、手元の本に視線を落としたまま。
「…何かあったんだろ。言ってみろ」
なんでこういう時だけ鋭いのか。気のせいか、で済ましてくれれば良かったのに。
それでも私のことを心配しての言葉ということに、少し嬉しくも感じた。
私がおかしくなったのは、ゾロのことが好きだと自覚してからだ。
きっともう、ずっと前からゾロのことが好きだった。
でも、仲間だから。想いを伝えたとして振られるのが怖いから。気まずくなりたくないから。
そんな理由ばかり並べて、そうじゃないと言い聞かせて。
決定打となったのは、先日降り立った島での出来事。
迷子のゾロを探していると、素行の悪そうな連中に絡まれてしまった。
相手にしなかったことに痺れを切らした連中の1人に肩を抱かれる。
しつこい絡み方にどうしたものかと思いあぐねていると、反対側から今度は腰を抱かれ引き寄せられてしまった。
違ったのは、連中のような柔く締まりのない身体ではなく、厚い手と身体が私を包んだ。
「おれの女になんか用か?」
私の頭より上から聞こえた声に顔を向ける。そこには、迷子のはずのゾロがいた。
その場を凌ぐための言葉だと分かっている。それでもその一言に心が震え、奥底からそうでありたいと願ってしまった。
「ゾロはさ…好きな人いる?」
「ハァ!?」
大きく響いた声に、釣りをしていたウソップやルフィ、チョッパーが何事かと駆け付けてくる。
「なんでもねェよ!」と手でこっちへ来るなとあしらうゾロ。
ウソップが何かを察したように「お邪魔虫はあっちに行ってような〜」とルフィとチョッパーを連れて、また釣りへと戻ってしまった。
お邪魔してくれたら、そこでこの話は終わったのに。
「……おまえはどうなんだよ」
「えっ!?」
少しばかりの沈黙を経て、口を開いたゾロの言葉に今度は私が驚く番だった。
「いねぇ」「くだらねぇ」そんな答えばかり返ってくると思っていた。だから「そうだよね」と返事をする用意をしていたのに。
「…私の質問が先だった。ゾロが答えるなら、私も答える」
「…いる。ほら、言ったぞ。お前は」
なんとか振り絞った言葉に、間髪入れずゾロはそう答えた。
いる。彼は確かにそう言った。
そっか、いるんだ好きな人。
誰だろう。私が船に乗る前からの付き合いの長いナミ。博識で大人なロビン。2人はプロポーションも申し分ない。
そういえば、海軍にも縁のある女の子がいるのだとか。ダークホースだ。
「…いるよ」
ぐるぐると回る考えと、軋む心を抑えながら出した声は震えてしまった。
「誰だ」
「言わないよ。言ったところで叶う恋でもないもん」
「なんだよ、もっと欲張れよ。海賊だろ?」
「欲張ったって手に入らないものもあるんだよ。…そういうゾロは、誰なの?好きな人」
これを聞いて、すっぱり諦めてしまおう。この気持ちに区切りを付けよう。
「ナマエ」
「…え?」
「おまえが誰を好きだろうと関係ねェ。おれはおまえが好きだ」
そう思って聞いたのに、続いたのは私の名前で。騒ぐ心と熱くなっていく身体。
「待って待って!ゾロの好きな人って私なの…?」
「そうだって言ってんだろ」
「わ、私も。私の好きな人も、ゾロ、です…」
これでもかと彼の片目は見開いて、はぁと長く大きなため息をついて項垂れた。
「ンだよ。いらねェ心配した」
「だって、まさか私なんて」
「じゃあ、今からおまえはおれの女、ってことでいいな」
「…うん、って言ったら」
あの時とは違う。今度はその場凌ぎの言葉じゃないことぐらい分かってる。
でも、どこか含みのある言い方に違和感を覚えて、聞き返してみる。
「遠慮なく手出す」
「なっ!?」
当然だと言わんばかりに真顔で彼はそう言うので、たじろいでしまう。ちょっと展開が早くありませんか!?
「おまえが覚悟決めねェと、手出せねェだろうが」
「そこは海賊みたく、欲張るとこじゃないの」
ゾロはそれを聞いて顎に手を当て「それもそうか」と、確かにと言った様子で呟いた。
「そうして、いいんだな?」
腕を組み、覗き込むようにしてこちらを見つめてくるゾロ。
「やっぱりちょっと待ってください…」
はは、と笑ってゾロは立ち上がり、数歩歩いてから、こちらを見返った。
「さっさと覚悟、決めてくれよ。あんまり長くは待たねェからな」
軽やかに爽やかに、彼はそう笑った。
彼の後ろではその笑顔のように、晴れやかな青い空が続いている。
もう少しだけ、ほんのもう少しだけ待ってね。今度は私から。
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覚悟を決めて心を込めて伝えるよ
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