サンジ
▼ Name change!
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「ナミさ〜ん!ロビンちゃ〜ん!スペシャルドリンク持ってきたよ〜!」
いつからだろうか。サンジくんが私の名前を呼んでくれなくなったのは。ナミやロビンの名前は呼んでいるのに。
「レディも。俺特製スペシャルドリンクをどうぞ!」
「ありがとう、サンジくん」
レディ、マドモアゼル、天使。などとバリエーションは豊富だけれど。気付いた時には、そこに私の名前はなかった。
名前を呼んでくれなくなった以外、サンジくんの私への態度に変化はない。それでも、私が何か気に障ることでもしてしまったのかもしれない、と思えどそれを聞くことも怖い。
明かりのない、みんなが寝静まった夜は特に悶々と考えしまって、なかなか眠れない日々を送っていた。
「何か温かいものでも飲もうかな…」
なるべく音を立てないように起き上がって、キッチンへと向かう。誰かいるのか、ドア窓の隙間から柔らかな明かりが漏れ出ていた。
ゆっくりと扉を開ければ、そこにはキッチンに立っているサンジくんがいた。
「どうしたんだい、レディ。こんな夜遅くに」
「ちょっと眠れなくて…サンジくんこそ」
「俺は仕込みをしてたんだけど…ちょっと楽しくなっちまって。色々作ってたとこ」
「ふふ、サンジくんらしいね」
「そうかな」
そう言ってサンジくんは、照れ臭そうに頬をかいた。それも束の間、「ちょっと待ってて」と言って何やら作り始めた。
なんだろう、とカウンターに座り待っていると、目の前にことりとカップが置かれる。
「眠れないって言ってたから。どうぞ、ホットミルクです」
「…ありがとう、サンジくん」
カップを両手で包む。心地の良い熱が掌に広がっていく。ふぅと少し冷ましてから、一口飲んだ。
ホットミルクの温かさとサンジくんの優しさが、じわりと身体に染み渡っていって、なんだか泣きそうになった。
「サンジくん、私のこと、名前で呼んでくれなくなったね」
ぽろ、とこぼれてしまった。胸の奥底に押さえ込んでいた不安が。それを聞いたサンジくんは、ぴくりと肩を震わせる。
「…気付いてたんだね」
「私、何かしちゃったのかなって。だったら謝りたくて」
「キミのせいじゃない!俺の問題で!俺が…悪いんだ」
最後はまるで呟くような小さな声で、サンジくんはそう言った。
「キミにそんな悲しい顔をさせたかった訳じゃないんだ、ごめんよ」
私は今どんな顔をしているのだろう。きっと彼の瞳に映る私は、どうしようもなく酷い顔をしているに違いない。
でも、サンジくんも同じように悲痛な顔をしていた。私だって貴方にそんな顔をして欲しかった訳じゃない。
「私もごめんね、こんなこと聞いちゃって」
そんな彼を見ていられなくて、下を向く。私は一体どうしたら良かったのだろう。サンジくんの力にもなれないのだろうか。
少し冷えてしまった波打つ白い水面には何も映らない。
すると目の前に、すっと手が伸びてきたかと思えば、まるで壊れ物でも触れるように両手で頬を包まれ、そのまま顔を掬い上げられる。
真剣な目をしたサンジくんと目が合った。
「ナマエ、ちゃん」
どこか蕩けるように甘く優しく、サンジくんの唇が私の名前を紡いだ。
途端に全身に熱が回る。息が詰まる。心臓がうるさく鳴り響く。こんなの知らない。ただ名前を呼ばれただけなのに。
「ナマエちゃん」
もう一度ゆっくりと、彼は私の名前を紡ぐ。私の頬に触れたサンジくんの手も、燃えるように熱い。
「…好きだよ。名前を呼ぶだけでキミへの想いが溢れてしまいそうな程に」
彼の瞳が、触れた手が、紡ぐ言の葉が、私を好きだと言ってくれている。
「愛を込めて、キミの名前を呼ぶよ。…どうか受け取ってくれるかい?」
ぽろぽろと溢れていく涙を、サンジくんは優しく拭ってくれる。嬉しくて胸がいっぱいで、言葉が詰まる。
せめてもと、こくりと頷くと、サンジくんは目を細めて優しく笑ってくれた。
「…大好きだよ」
そう言って彼は私の名前を呼びながら、何度も触れるだけのキスをした。
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