トラファルガー・ロー
▼ Name change!
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▼麦わらの一味夢主
薄く微笑んだロビンを見て、ついに、ついにこの時が来てしまったと思った。
覚悟はしていたつもりだったけど、いざその時になってみれば、私の心は容易く崩れ去っていった。
「お、ナマエ〜!ってどうした!?なんかあったか!?」
「ウ、ウソハチ〜!」
逃げ出すようにその場から立ち去って、とぼとぼと歩いていると見知った顔が、ウソップが声を掛けてくれた。ウソップと呼んでしまいそうになるのを我慢して、潜伏中の名前で呼ぶ。
そんな理性が、まだ私の中に少し残っているようだった。
息の詰まるワノ国での潜伏。一息つきたくて人気のない場所を目指して歩いていると、ロビンとローさんが2人で話しているのを見かけた。
それはどうも密会のように見えて、真剣な話をしているように思う。
以前から2人はお似合いだと思っていた。容姿端麗、頭脳明晰。付き合うのも時間の問題だと。
そして、ロビンが笑った。あぁ、ローさんが告白して、ロビンが受け入れたんだなって。
密かにローさんのことを好きだった私は、見事にこの瞬間失恋したのである。
「お前それ、話してるの見ただけだろ?まだ分かんねーじゃん」
「でも前からお似合いだしさ、あの2人…」
「だからってなぁ…だってアイツ、お前のこと」
あ、と言ったウソップの視線を追う。ロビンとローさんが2人、こちらに歩いてくるのが見えた。
「ごめん、ウソハチ!用事が出来たから行くね!」
「あ!おい、待てって!」
急いで立ち上がって、ロビンとローさんが向かってくる反対方向へと駆けていく。
今の私は2人に会うことなんて出来やしない。まだ心の整理が付いていないから。
ローさんだけでなく、ロビンも仲間として大好きだ。ローさんへの気持ちも、時間が掛かるかもしれないけれど頑張って諦めるから。
後でちゃんと、笑って2人に「おめでとう」「良かったね」って言うから。
だから今は、今だけは、好きでいさせて欲しい。
無我夢中で宿へと走る。部屋に入ってすぐに寝床へと向かう。
何も目に映らない暗闇な世界。ぐすぐすと私の泣き声だけが響く。布団を被っていれば、外にも聞こえにくいだろう。
そうしていくらか泣いて少し落ち着いて来た頃、私の名前を呼ぶ声が静かな部屋の中に響いた。
こんな顔で、声で出るわけにもいかず居留守を使う。その声の主は私がここにいることを知っているのか、出て来ない私を急かすようにもう一度名前を呼んだ。
その声がほんの少しだけ苛立ちや焦りを含んでいるような気がして、思わず出入り口の襖に近付き返事をした。
「…おれだ」
ローさんとよく似た声が聞こえて来た。ふと思い返してみれば、先程の私の名前を呼ぶ声もどこかローさんと似ているかもしれない。
でも、彼がここに来る訳がない。覚えのない襖の向こうの誰か。
「…どちらさま?」
「ローだ」
この場にいるはずがない、と選択肢から外した彼がそこにいた。名前を聞いた途端に、びくりと肩を震わせてしまった。なんで。
「話がある」
「あの、今はちょっと…具合が悪くて」
「おれは医者だ。診てやる」
「えっと、寝不足なだけですから、お構いなく…」
つらつらと出てくる言い訳に、襖の向こうから舌打ちとため息が聞こえてくる。
「なら、そのままでいい。聞け」
有無を言わさないそれに、息を呑んで返事をした。ローさん本人からさっきのこと、ロビンと付き合ようになったこと伝えられるのかな。顔が見えない隔てた一枚の襖が、今は少しありがたいと思った。
「おれとニコ屋がそういう関係だと勘違いしている奴がいると聞いてな」
「勘違い…?」
「ああ、あれは込み入った話をしてただけだ」
「その込み入った話が」
「違うって言ってんだろ」
「はいぃ」
鬼気迫る声に、思わず間抜けな返事をしてしまった。さっきからこんなことばかりだ。
そっか、勘違いだったのか。2人は付き合ってないんだ。少しほっとしている自分がいた。…でも、ローさん怒ってる?
「えっと、それでわざわざ?ご足労お掛けして…」
「あぁ。惚れてる女に勘違いされたまま、他の男に靡かれちゃ困るからな」
「あ、え?」
私の都合の良い聞き間違えではないだろうか。惚れてる、女?
自分の顔がどうなってるかなんてすっかり忘れて、ローさんの言葉の意味を確かめたくて、襖に手を掛けてゆっくりと開けた。
目に入ってきたのは、和服姿のローさん。先程ロビンと会っている時は私服だったから着替えてきたのだろうか。
私服で街を歩いていれば、目立ってしまうだろう。そういうところはしっかりしているなぁ。でも急いで着替えたのか、ほんの少しだけ着崩れているようにも見える。
そう思いながら見上げれば、唐突に開いた襖に驚いたのか、少し目を見開いたローさんとぱちりと目が合った。と思えばすぐに逸らされる。視界に入ったローさんの耳は。
「ローさん。耳が、赤いですよ」
「…うるせェ。そういうお前こそ顔が真っ赤だろうが」
こちらに向き直ったローさんにそう言われて自分の頬に両手を当てる。これでもかと熱くなっていた。
「だって、私ばっかり好きなのかと…」
「おれなりに示してたつもりだが」
「全然分かりませんでしたよ…ローさん、言葉が足りないって言われません?」
合っていたはずの目が逸らされる。あ、これ図星だ。
「お前が鈍いだけだろ」
「えぇ…ずるい…」
「ずるい、ね」
そう呟いて、一歩こちらへ近付いてきたローさん。
「ここは敵陣だ。それに、カイドウとの戦いが終わってから言おうと思ってたのが、誰かさんのせいで予定が狂っちまった」
一歩、また一歩。じりじりとローさんが近付いて来ると同時に私は後退りする。なんだか怖い。
まるで狙った獲物を追い詰めて、今からどう料理してやろうかと舌舐めずりをしているような。どこか意地悪な笑みを浮かべているローさんがこちらを見下げてくる。
ローさんの身体が部屋に入った途端、後ろ手に襖を閉められた。もうどこにも逃げられやしない。
ローさんと私の距離がゼロになって、彼の大きな影が私を覆う。
「さぁ、どうオトシマエつけてくれる」
重労働させられるのだろうか。あれを買ってこい持ってこいとパシリをさせられる?
はたまたカイドウの首を獲って来い、なんて言われたらどうしよう。絶対無理。逆に私の首が獲られる。
いや、カイドウにしろローさんにしろ、私の首はどのみち獲られるのでは。
戦々恐々と「何がお望みですか」と口を開こうとすれば、噛み付くように降りてきた唇に言葉ごと飲み込まれてしまった。
***
「トラ男が向かったから大丈夫だとは思ってたけどよ〜。昨日はあれから顔見せなかったから心配したぞ、ナマエ〜!」
「ごめんね、ウソハチ!大丈夫だよ、ありがとう〜!」
次の日、事のあらましを伝えに行こうとウソハチの元へと向かった。怒ることなく私の話を聞いてくれて、心配までしてくれたようで、本当に嬉しい。ありがとう、ウソップ。
「トラ男、結構嫉妬深いみたいだから気をつけろよ〜」
「…鼻屋」
「えっ!?」
ニヤニヤとそう言ったウソップが向ける視線の先を追えば、私の後ろにいつの間にかローさんが立っていた。
なんだかバツが悪そうな顔をしていて、目が合った途端に、ぱっと逸らされてしまった。
返答はない。ふむ、と考えてウソップに抱きついてみる。
「あ、こら!トラ男の前でやめろ!命が危ないだろうが!おれの!」
バタバタとウソップが暴れる。どうだ、と思ってローさんを見れば、眉間の皺が先程よりも深くなって睨まれている、気がする。これは嫉妬してくれているのだろうか。
早く離れろと咎めるように私の名前を呼ぶローさん。慌てて勘弁してくれと言わんばかりに私の名前を呼ぶウソップ。
それが同時に聞こえて来て、思わず笑ってしまった。
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