トラファルガー・ロー
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▼ハートの海賊団クルー夢主
◆オリジナルモブ出ます
◆オリジナルモブ出ます
さぁ出港だ、という時に陸から武器を持った男達が次々と乗ってきて、奇襲を仕掛けられた。突然の敵襲に甲板で応戦すれど、何かモヤモヤとする。
キャプテンが目的なら、総出で襲い掛かっても良いような戦力差。積荷が目的なら、私達の注意を引き寄せて船内を狙えば良いはずだが、誰も船内へと侵入しようとしない。
キャプテンも何か引っかかっているのか、敵をまとめて一掃しようとはしていない。
何が狙いかと私も敵の動向を注視していると、ふと一隻分ぐらいの間を空けて泊まっている向こうの船から、フードを被った男がキャプテンに向かって手をかざしているのが見えた。
なんだか嫌な予感がして、咄嗟にその男とキャプテンを結ぶ直線上の間に入る。
すると、自分の身体からピンク色の煙のようなものが出て来たかと思えば、それらはフードを被った男の元へと漂っていき、掌の上でハートを象った。
「ナマエ…!」
一部始終を見ていたクルー達が私の名前を呼ぶ。途端に身体が脱力感に襲われて膝をついた。
同時に、船に乗り込んできていた奴らは船の向こうの男の合図に寄って、引き上げて行った。
「大丈夫か!?」
「な、なんとか」
駆け寄ってきたペンギンに支えられていると、キャプテンがやってくる。
「怪我したのか」
「…いえ、どこにも怪我はしてないんですが…なんだか身体が怠くて」
立ち上がろうにも足に力が入らない。それを察したキャプテンは私を姫抱きして、医務室へと連れて行ってくれた。
一通り診察されたが、特に問題はなし。寝ていれば治ると、半ば投げやりにも見える診断結果。
でも我らがキャプテンの、お医者様の言うことだ。間違いないだろう。
アイアイと力なくも返事をすれば、そのまま先程と同じように姫抱きで、ご丁寧に寝室まで運ばれてしまった。
終始キャプテンが、普段よりいくらか眉間の皺を深くしていたのは気のせいだろうか。
***
次に起きた時、昨日の身体の怠さはなく不調は見られなかった。だけど、1日中寝ていて何も食べなかったせいか、お腹がぐうと音を立てた。
「キャプテン、おはようございます!」
食堂に行き、先に座っていたキャプテンに挨拶をする。それと、昨日のお礼も忘れずに。
「体調は」
「大丈夫です!」
なら、いい。と目を伏せて、キャプテンはまたコーヒーに口をつけながら、新聞を読み始めた。
軽く会釈をしてその場を離れ、朝食の乗ったプレートを持って、イッカクの隣に座る。
そのイッカクが、目を見開いてこちらを見てくるので首を傾げる。気付けば周りは静まり返っていた。
「お前、いつものは言わないのか!?」
シャチの言葉を皮切りに、がやがやと食堂がざわついていく。
「いつもの?」
「ほら、『おはようございます、キャプテン!今日も好きです〜!』ってやつ」
「…そんなことも言ってたっけ」
何かが引っかかる。でもそれが何かは分からない。
考えるのすら煩わしくて、それを振り切るように、ずずずとスープに口をつけた。空っぽだった胃に染みる。身体が温まっていく。
「熱でもある!?」
私の言葉に驚いたイッカクが私の額に手を当て、自分の額の熱と比べている。熱はないみたいね…と言いながらも、訝しげな眼差しを向けられている。
「お前、あんなに毎日言ってたのに…」
「でも付き合ってないよね?私とキャプテン」
「…まぁ」
「恋人でもないのに、ね。キャプテンも迷惑だっただろうし」
「お前…そんなにドライな奴だったか…?」
「なんだろう。…なんかもう分かんないや」
不意にキャプテンの方を見てみると目があった。少しだけ驚いた表情をしているようにも見える。
そんなに私はキャプテンのことが好きだったのか。周りの言葉に耳を傾ければ、そうみたいだ。
でも今の私は、キャプテンになんの恋慕も抱いていない。ただ我らが船長で、あこがれで…?
「…っ」
「大丈夫!?」
ずきんと胸に痛みが走った気がした。胸に手を当てて丸くなった私をイッカクが心配してくれる。その痛みは一瞬だけだったので、大丈夫だよ、と笑って見せた。
「シャチ、ペンギン。昨日の奴らのこと調べておけ。お前は今から医務室に来い」
「アイアイ!」
「あ、アイアイ…」
徐に近付いてきたキャプテンがそう指示をする。やっぱり今の私は何かがおかしいのだろうか。
先日と同様に一通り診察を終えたキャプテンは「どこにも問題はねェな」と呟けど、安堵の表情は見られず眉間に皺を寄せている。
「お前自身、何か感じることはあるか」
「うーん、強いて言うなら身体は元気なんですけど…なんかこう…ぽっかりと胸に穴が空いたみたいな感覚はあります」
朝起きて、シャチ達にツッコまれるまで感じなかったそれ。どこも不調はないはずなのに、キャプテンのこととなると、言い表せない虚無感が襲ってくることがある。
そうか、と思案するように呟いたキャプテン。そして間髪入れずに、コンコンとドアにノックの音が響いた。2人揃ってドアの方へと視線を向ける。
「入れ」
キャプテンのその言葉に「調べがつきました」と言ったシャチとペンギンが入ってきた。
「最近名乗りを上げてきた悪魔の実の能力者で、どうやら人の感情を奪うことが出来るらしいです」
「ナマエのキャプテンを好きな気持ちが取られたんじゃねぇか?」
脳裏に浮かんだのは、男の掌の上で象ったピンク色のハート。あれがそうだったのだろうか。
「次の島での目撃情報も出てます。捕まえに行きましょう!」
「あぁ、他の奴らにもそう伝えておけ」
「「アイアイ!」」
勢いよく返事をしたシャチとペンギンが部屋を出ていく。残された私たちの間に、静かな空気が流れた。
「…すみません。私なんかのために」
「なんか、なんて言うな。お前の悪い癖だぞ」
「おっと、それは失礼しました」
「…お前だから、だ」
「あ、ありがとうございます」
思った反応と違ったのか、少し寂しい顔を見せたキャプテン。キャプテンの思う私は、喜んだり照れたりと、もっと違った反応を見せたのだろうか。
なら、今の私は本当の私じゃないみたいじゃないか。そんな言いようのない不安が襲ってきて、人知れずそっと拳を握りしめた。
就寝時間が来ても、なんだか眠れなくて甲板に出る。今日は天気が良かったので、月も星もよく見える。
夜空に浮かぶ星のように、私の想いもきらきらと輝いていたのだろうか。今はもう分からない。
「冷えるぞ」
声の方へと顔を向けると、そこにはキャプテンがいた。
そして、持っていた上着をそっと私に掛けてくれる。ぎゅっと握ったそれは、キャプテンの匂いがして、ほんの少しだけくらくらした。
「…お前の感情を奪った奴を追うことに、お前の意見を聞いてなかったと思ってな」
お前はどうしたい、と隣に立つキャプテンに真っ直ぐと目を見つめられる。思わず目を逸らして、分からないんですと呟いた。
「キャプテンに答えてもらわなくても、私が好きだから想いを伝えたかったのか。キャプテンに答えてもらえないのなら、このままあの気持ちを諦めたいのか」
私にはもう分からないんです、と呟いた声は、かたちになったかも分からないぐらい小さかった。
「キャプテンはどうですか。キャプテンが好きだと言う私を…どう思ってましたか?」
「…おれは」
「キャプテン〜!ちょっと来て〜!」
どこからから焦った様子のベポの声がする。行ってくる、とだけ言ったキャプテンは私に背を向けて歩き出した。さっきの返事は貰えないまま。
もうキャプテンへの感情はないはずなのに、どうしてか「どうでもいい」と言われなくて良かったと思った。
***
「やぁ、こんにちは」
「…こんにちは、ハート泥棒さん」
「それ、いいね!今度からそれ通り名にしようかな」
くつくつと笑う目の前のフードを被った男。この男の目撃情報がする島へ着くや否や、キャプテンを始めシャチやペンギンといったクルー達が次々と島へと降りて行った。
残された私は、船番かつ甲板で洗濯物を干していたら、急に目の前にこの男が現れた。
「その言いようからして僕が取っていったもの、分かってるみたいだね」
「…まぁ」
「これ、返して欲しい?」
そう言って男は掌の上に、いつぞや見たピンク色のハートを出して見せた。
「…条件は?」
「よくわかってるね。…トラファルガーの感情すべてと交換はどうかな?」
は?と低く威圧するような声が素直に出てしまった。睨みつけても、へらへらと笑う目の前の男。何を言っているんだ、こいつは。
「…釣り合わない。私のそのハートにそこまでの価値はないよ」
「それはお前の悪い癖だと言ったはずだが」
「キャプテン…!?」
振り返れば、少しだけ息を切らせたキャプテンがそこにいた。
すばやく小石か何かとシャンブルズしたのか、キャプテンの掌の上にはあのピンク色のハートが。これでもう大丈夫と思ったけれど、目の前のフードの男は余裕の笑みを浮かべている。
「残念でした!それは能力者の僕にしか扱えないんだよ」
キャプテンの掌の上にあったハートは霧散してき、いつのまにか男の掌へと戻っていた。
それに小さく舌打ちをしたキャプテンは、続いてどこか仕方がなさそうにため息をついた。
「まぁそんなものなくたって、何度でもおれに惚れさすまでだがな」
えっ、と声に出たかは分からない。でも開いた口は塞がらない。キャプテンに驚きの視線を向ければ、ふっと目を細めて笑われる。
「じゃあ、交渉決裂だ」
そう言って一歩後ろへ下がったフードの男。そして、キャプテンは一歩踏み出す。状況について行けない私は置いてけぼり。
「このまま逃がすかよ」
「いいの?僕にはこれがあるけど」
男は掌の上のハートをこちらへと見せびらかす。まるで人質だというように。
「…返したくなるようにするまでだ」
奪われたモンは奪い返す。そう言ったキャプテンは、それはそれは海賊らしい悪い顔をしていた。
***
「キャプテン、おはようございます!きょ」
「…きょ?」
「今日もお日柄もよく…」
「そうだな」
口に手を当てて、くつくつと笑うキャプテン。この人楽しんでるな。他のクルー達は怪訝な顔を向けてくる。
「お前、本当に治ったのか?」
「治りました、この通り!キャプテンが」
キャプテンにじろりと視線を向けられ言い淀む。それから視線を逸らして、近くにいたシャチへと目を向ける。
「…お呼びですよ、シャチ」
「ぜってー治ってないよ、お前!」
「治ってるってば!」
無事に海賊らしい手段で私のハートは返してもらえた。フードの男は、それはもう痛めつけられた後に島へと降ろされた。
『好きです』
あの日から、この言葉はキャプテンだけのものになった。
これは「他の奴らの前で言うな。2人きりの時にしろ」そう言ったキャプテンのお墨付きでもあるのだ。
言われた通り2人きりの時に伝えてみれば、キャプテンも同じように目を細めて優しく返してくれた。
だからきっと、私に向けられる想いはいつかの私のハートと同じ色に違いない。
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