トラファルガー・ロー
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▼ハートの海賊団クルー夢主
『気になる彼の気持ち、知りたくないかい?』
そんな一言で呼び止められた路地裏。全身黒の衣服を纏い、フードで顔は見えないけれど、声は老齢の女性のような声色だった。怪しい。見るからに怪しい。
老齢の女性曰く、飲めば気になる相手の気持ちが分かるようになる薬、らしい。長くは続かないが効果は充分。値段はそこそこ。そして、思い浮かべたのは、キャプテンの顔。
まさかとは思ったけれど、そんな嘘くさい謳い文句に釣られて買ってしまった薬が今、机の上にある。小瓶の中に入った淡い桃色の液体が揺らめいている。
ええい、ままよ!と飲んでみたけれど、特に変化はなく…とはいかなかった。だんだんと身体は重くなっていき、息をするのもしんどくなってきた。やっぱり飲まなければ良かった。
キャプテンを呼びに行こうと部屋の扉を開けた辺りで、ふらりと目の前が真っ暗になった。
「起きたか」
ゆるりと目を開ければ、どこからともなく声が降ってくる。その声のする方へと目を向ければ、キャプテンがベッドの横で椅子に座ってこちらを見ていた。
「キャプテン…?」
「お前、熱出して部屋の前でぶっ倒れてたんだぞ」
「そう、だったんですね」
「少しは熱、下がったか?」
その言葉と共に、キャプテンの手が額へと伸びてくる。私の額よりも、少しひやりとした手がなんだか心地良く感じる。
『こんなに熱出すだなんて、珍しいな』
「そうですね、いつ以来かな…」
『易々と目瞑って、無防備すぎだろ』
「これは仕方ないでしょう…」
額から離れていく手を追いかけるように目をやれば、少し目を見開いたキャプテンと目が合った。
「…お前」
「はい?」
「今、俺の頭ン中の言葉に返事してたぞ」
「…え?えぇ!?」
「何か変なモンでも食べたか」
あの薬、本物だったのか!と興奮するのも束の間、察しのいいキャプテンの言葉に、ぎくりと顔が引き攣ってしまった、と思う。それを見逃さなかったキャプテンが、ハァとため息をついたからだ。
こんな高熱出した原因なんて、一つしかない。さっき飲んだあの小瓶の薬。説明すれば、キャプテンは「なるほど」と呟いて、先程よりも大きなため息をついた。
「それが原因か。というか見るからに怪しいモンを買うな、飲むな、バカか」
「仰る通りです…」
「…で、“気になる彼の気持ちが分かる”だったか?」
にやりと口角を上げたキャプテンを見て、しまったと思った。口を滑らせてしまった。
キャプテンの手がまたこちらに伸びてきて、思わずぎゅっと目を瞑る。額に来ると思っていた感触は来ず、目を隠すように大きな手で覆われた。
『好きだ』
暗闇の中で伝わってきた気持ち。短くて、でも優しくて温かくなるようなその言葉に、ぶわっと頬に熱が集まるのを感じた。
退けられた手の先のキャプテンは、いつもと変わりない顔をしているのに。向けられる感情だけは、いつもと違って。
「キャプテン、もしかして私のこと…」
「気付くのが遅ェ」
意地悪そうな笑みを浮かべて、今度はするりと手の甲をなぞられる。背筋にぞわりと甘い痺れが走った気がした。
手しか触れていないのに、次々と伝わってくる感情はそれ以上のもので。いつまで経っても身体の熱は引くどころか、増すばかりだ。
「もう、あの、分かったので勘弁してください…」
それは残念だ、とくつくつと喉を鳴らしながら笑ったキャプテンの手が離れていく。その手が、ほんの少し惜しいと思ってしまったのは内緒だ。
次の日にはすっかり熱も下がり、お礼を言おうとキャプテンの元へと駆ける。
「キャプテン!」
そう言って自らキャプテンに触れた手からは、何も伝わって来なかった。あの薬の効果は切れてしまったのだろう。少し残念だなぁ。
そんな考えも見通されていたのか「お望みなら、いくらでも伝えてやるが?」と昨日と同じ意地悪そうな笑みを浮かべて、キャプテンはそう言った。
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