龍如
▼ Name change!
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その日は中々眠ることが出来なかった。布団の中で、寝返りを何度打ったことだろうか。
なんだか嫌な予感がして、胸がざわついて仕方なかったのだ。
突然、カタンという音が玄関から聞こえた。目をやると、ぼんやりとした人影が扉越しに立ち去っていくのが見えた。
恐る恐る玄関に近付くと、文が扉に挟まれてあった。宛先も差出人も書かれていない。
でも、私はこれが誰が書いたものかすぐに分かった。
文と共に添えられた花。土方さんは便りをくれる時、いつだって草花を添えて送ってくださっていた。
けれど、こんな夜中に文を貰ったことはない。どくん、と大きく心臓が鳴る。嫌な予感が明確になっていくようだった。
慌てて玄関を飛び出し、人影の跡を追う。
それほど離れていないだろう。辺りを見回しながら、走る。大通りから外れた小道、見慣れた浅葱色の羽織が見えた。
「…っ、土方さん!」
どこか遠くへ行ってしまいそうな後ろ姿。それを引き止めるかのように、大きな声で名前を呼ぶ。
土方さんはピタッと立ち止まり、ゆっくりと後ろへ振り向いた。
「…どうして」
「なんだか嫌な予感がして、ずっと眠れなかったんです。そしたら、これが玄関に」
土方さんでしょう?そう言って、先程の文を見せる。一瞬だけ文を見つめた後、土方さんはすぐに目を逸らしてしまった。
「俺は今から土佐に行く…帰ってこれる保証はない」
「土佐、に」
「…好いた女と添い遂げることもできず、何処かに行ってしまった男など忘れて…幸せになってくれ」
「なら、どうして!こんな文を残していくのですか!?」
その言葉に、土方さんは息を呑んだ。眉をひそめた苦しげな表情をする土方さんを見て、私はぼろぼろと涙が溢れた。
「…言う通りだ。無意識だった。どうやら君に忘れられたくないらしいな」
俺は、そう土方さんは小さく呟いた。
「忘れろと言われても、忘れられる訳がないじゃないですか…」
「…ナマエ」
「季節が幾度巡っても、貴方の帰りをいつまでも…いつまでも待っています」
季節が巡り、年も重ね、この命尽きようとも。
土方さんの目をしっかりと見据えて、私の想いを伝える。
瞬きをした次の瞬間には、土方さんの胸の中だった。
「…必ず、帰ってくる」
「…っ、はい」
お互いにぎゅっと抱きしめ合う。触れた温もりを忘れないように。これが最後ではない、と祈るかのように。
空には朝焼けが広がっていた。