龍如
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今日は幸い残業もなく、無事に仕事を終えることが出来た。そして、明日は休み。
このまま家に帰るには少し勿体ないと思うほど、まだ気力が残っている。もしかしたら彼に会えるかもしれないと、淡い期待を抱きながらサバイバーへの道のりを歩く。
目的地へと近付くにつれ、店の前に2つの人影が見えてきた。店の明かりに照らされたその2人は、ハンくんとソンヒさんだった。
ぴたりと足が止まる。彼らの関係はそういうものではないと知っているけれど、並んだ2人は誰がどう見ても美男美女で。
私がハンくんの隣に並んでも恥ずかしくない女の子なら…とそこまでで考えるのをやめた。幾度となく繰り返した、不毛な思い。
浮き足だった気分は徐々に、もやもやと黒い感情に包まれていく。…今日はサバイバーに行くのはやめよう。
踵を返すと同時に、どん!と誰かにぶつかってしまった。
「す、すみません!大丈夫ですか!?」
「俺は大丈夫だけどよ…ナマエちゃんは怪我ないか?」
ぶつかった誰かは、見知った顔の春日くんだった。大事にならなくて良かったと、少し胸を撫で下ろす。
「私も大丈夫だよ。ごめんね、春日くん」
「いやぁ声掛けようと思ったら、急に振り向くもんで驚いたぜ」
再度謝れば、全然良いって!とニカッと春日くんは笑う。少し眩しいくらいの彼の笑顔には、何度助けられたことだろう。
今も、少しもやもやとした気分が彼のおかげで和らいだ気がする。
「で、ナマエちゃんはこんなところでどうしたんだ?これからサバイバーに行くのか?」
「あ、行こうと思ったんだけど…ちょっと調子が悪いから帰るね」
「大丈夫か!?」
大丈夫だよ、と言い終わる前に、彼の手が私へと真っ直ぐ伸びてくる。
前髪をさらりと分けられ、額をこつんと合わせられた。視界いっぱいに春日くんの顔が。
「んー、熱は無いみたいだな」
なんでもないような顔をして、すっと離れていく春日くん。何かひとつ文句を言いたいところだけれど、近すぎた異性との距離と突然の出来事で、ぱくぱくと口を動かすことしか出来ない。
「でも顔赤いじゃねぇか!家まで送る!」
「これは…!」
「春日さん、ナマエさん」
遮るように響いた春日くんでも、私でもないその声。
声のした方へと顔を向ければ、ハンくんがそこにいた。
「どうしました?こんなところで」
「ナマエちゃんが体調悪いらしくてさ、俺今から送ってくるわ」
「なら、その役目は私が。先程、マスターが春日さんに急用があると言っていたので」
「マジか。なら悪い、ハン・ジュンギ!ナマエちゃん送ってあげてくれ」
「分かりました」
口を挟む暇もなく、2人の間で会話が進んでいく。春日くんも気を付けてな、と手を振ってサバイバーへと向かって行ってしまった。
「さて、行きましょうか」
「あ、あの大丈夫だよ、ハンくん。1人で帰れるから」
「そんな赤い顔をさせて?」
すっと伸びてきた手が頬を滑る。赤くなった頬の熱より冷たかったハンくんの手に、ぴくりと少し肩が飛び跳ねてしまった。
「誰のせいでしょうね」
“何のせい”とは言わず“誰のせい”だと、彼は言った。先程の春日くんとのやりとりを見ていたかのような、どこか核心をついた言葉にどきりとした。
やましいことでも、責め立てられるようなことでもないというのに。
「やっぱり、熱があるようですね」
「これは…」
デジャヴ。言い終わる前に、目の前にはハンくんの顔が。額に感じる熱。伏せられた瞳。
春日くんと同じことをされていても、好きな人にされるというのはまた別のものだ。全身がかっと熱くなる。
「先程よりも赤くなりましたね」
ゆっくりと離れて行ったハンくんは、どこか満足気な顔をしてそう言った。
「…意地悪だ」
「すみません。どうやら私は、好きな子に意地悪をしてしまうタイプなようで」
好きな子。その言葉をゆっくりと噛み締める。聞き間違えではないだろうか、とハンくんの顔を見上げれば、彼は薄く笑う。
そうであればいいと何度思ったことだろうか。でも彼を深く知る度に、そうであるはずがない、と何度も思った。彼の一言一言に、喜んで、悩んで。
「ハンくんも…私と同じ気持ちなの?」
きっと私の気持ちはハンくんに筒抜けだ。でも彼はどうなのか分かるはずもない。
面と向かってハンくんの反応を見る勇気もなく、地面へと視線を向けてそう言った。
「そうですね…でもこんな往来では言いませんよ。どこか静かで、2人きりのところで、ね」
さぁ、行きましょう。そう目の前に差し出された手。見上げたハンくんの瞳は、どこか熱を帯びていて。
おずおずとその手に自分の手を重ねれば、途端に彼の方へと引き寄せられる。
「それに、これ以上赤くなった貴女の顔を他の男に見せたくありませんから」
耳元でそっと囁かれたその言葉。またもや顔を赤くさせることしか出来ない私を見つめながら、ハンくんは目を細めて笑った。
—————
title:icca
このまま家に帰るには少し勿体ないと思うほど、まだ気力が残っている。もしかしたら彼に会えるかもしれないと、淡い期待を抱きながらサバイバーへの道のりを歩く。
目的地へと近付くにつれ、店の前に2つの人影が見えてきた。店の明かりに照らされたその2人は、ハンくんとソンヒさんだった。
ぴたりと足が止まる。彼らの関係はそういうものではないと知っているけれど、並んだ2人は誰がどう見ても美男美女で。
私がハンくんの隣に並んでも恥ずかしくない女の子なら…とそこまでで考えるのをやめた。幾度となく繰り返した、不毛な思い。
浮き足だった気分は徐々に、もやもやと黒い感情に包まれていく。…今日はサバイバーに行くのはやめよう。
踵を返すと同時に、どん!と誰かにぶつかってしまった。
「す、すみません!大丈夫ですか!?」
「俺は大丈夫だけどよ…ナマエちゃんは怪我ないか?」
ぶつかった誰かは、見知った顔の春日くんだった。大事にならなくて良かったと、少し胸を撫で下ろす。
「私も大丈夫だよ。ごめんね、春日くん」
「いやぁ声掛けようと思ったら、急に振り向くもんで驚いたぜ」
再度謝れば、全然良いって!とニカッと春日くんは笑う。少し眩しいくらいの彼の笑顔には、何度助けられたことだろう。
今も、少しもやもやとした気分が彼のおかげで和らいだ気がする。
「で、ナマエちゃんはこんなところでどうしたんだ?これからサバイバーに行くのか?」
「あ、行こうと思ったんだけど…ちょっと調子が悪いから帰るね」
「大丈夫か!?」
大丈夫だよ、と言い終わる前に、彼の手が私へと真っ直ぐ伸びてくる。
前髪をさらりと分けられ、額をこつんと合わせられた。視界いっぱいに春日くんの顔が。
「んー、熱は無いみたいだな」
なんでもないような顔をして、すっと離れていく春日くん。何かひとつ文句を言いたいところだけれど、近すぎた異性との距離と突然の出来事で、ぱくぱくと口を動かすことしか出来ない。
「でも顔赤いじゃねぇか!家まで送る!」
「これは…!」
「春日さん、ナマエさん」
遮るように響いた春日くんでも、私でもないその声。
声のした方へと顔を向ければ、ハンくんがそこにいた。
「どうしました?こんなところで」
「ナマエちゃんが体調悪いらしくてさ、俺今から送ってくるわ」
「なら、その役目は私が。先程、マスターが春日さんに急用があると言っていたので」
「マジか。なら悪い、ハン・ジュンギ!ナマエちゃん送ってあげてくれ」
「分かりました」
口を挟む暇もなく、2人の間で会話が進んでいく。春日くんも気を付けてな、と手を振ってサバイバーへと向かって行ってしまった。
「さて、行きましょうか」
「あ、あの大丈夫だよ、ハンくん。1人で帰れるから」
「そんな赤い顔をさせて?」
すっと伸びてきた手が頬を滑る。赤くなった頬の熱より冷たかったハンくんの手に、ぴくりと少し肩が飛び跳ねてしまった。
「誰のせいでしょうね」
“何のせい”とは言わず“誰のせい”だと、彼は言った。先程の春日くんとのやりとりを見ていたかのような、どこか核心をついた言葉にどきりとした。
やましいことでも、責め立てられるようなことでもないというのに。
「やっぱり、熱があるようですね」
「これは…」
デジャヴ。言い終わる前に、目の前にはハンくんの顔が。額に感じる熱。伏せられた瞳。
春日くんと同じことをされていても、好きな人にされるというのはまた別のものだ。全身がかっと熱くなる。
「先程よりも赤くなりましたね」
ゆっくりと離れて行ったハンくんは、どこか満足気な顔をしてそう言った。
「…意地悪だ」
「すみません。どうやら私は、好きな子に意地悪をしてしまうタイプなようで」
好きな子。その言葉をゆっくりと噛み締める。聞き間違えではないだろうか、とハンくんの顔を見上げれば、彼は薄く笑う。
そうであればいいと何度思ったことだろうか。でも彼を深く知る度に、そうであるはずがない、と何度も思った。彼の一言一言に、喜んで、悩んで。
「ハンくんも…私と同じ気持ちなの?」
きっと私の気持ちはハンくんに筒抜けだ。でも彼はどうなのか分かるはずもない。
面と向かってハンくんの反応を見る勇気もなく、地面へと視線を向けてそう言った。
「そうですね…でもこんな往来では言いませんよ。どこか静かで、2人きりのところで、ね」
さぁ、行きましょう。そう目の前に差し出された手。見上げたハンくんの瞳は、どこか熱を帯びていて。
おずおずとその手に自分の手を重ねれば、途端に彼の方へと引き寄せられる。
「それに、これ以上赤くなった貴女の顔を他の男に見せたくありませんから」
耳元でそっと囁かれたその言葉。またもや顔を赤くさせることしか出来ない私を見つめながら、ハンくんは目を細めて笑った。
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