龍如
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「こんにちは」
「こんにちは!いらっしゃいませ!」
最近、私の働いている本屋によく来てくれるお方。今日も来てくれた。
最初見かけた時は怖い人だなと思ったけれど、本を眺めている姿や時折交わした会話の中で、そんなことはないと分かった。
でも、いつも綺麗で高そうな着物を羽織っているし、身分の高い人なんだなぁとは思う。
「すまない。何か、おすすめの本はないか?」
いつも通りに本の整理をしていると、珍しく彼に声をかけられた。新しく出たものは一通り読んでしまってな…と、彼は新作が置いているところへと目を向けた。
「こちらなんか人気ですよ!」
そう言って私が勧めたのは、料理屋に勤める主人公と、新撰組の局長、副長との三角関係の恋模様を描く小説だ。
架空の話しながらも、胸締め付けられる展開に、今若い女性に人気がある。かくいう私もこの前読んで涙した。
どういった作品か説明していると、彼は少し眉をひそめたがそれも一瞬で、興味深そうに私の話を聞いてくれた。
「あ、でも恋愛物は読まれませんかね…?」
「…いや、面白そうだ。それを1冊貰おう」
「ありがとうございます!」
本屋を出て行く彼の後ろ姿を見送る。自分が勧めた本を買ってもらえるのは嬉しいものだ。
温かい気持ちになりながら、再び本の整理を始めた。
***
「この間、君に勧めてもらった小説、面白かったよ」
あれから数日後、再度訪れるや否や、彼はこの前の小説の感想を教えてくれた。
「わぁ!気に入って頂いて良かったです!」
「それで、少し気になったんだが…君は、君だったら、どちらを選ぶ」
「選ぶとは?」
「局長か副長か、だ」
あの小説の最後では、主人公は局長と結ばれる。
それでももし、あの主人公が私だったら、どちらを選ぶのかということだろう。
「私は…そうですね、副長さんですかね」
「…それはなぜ?」
局長も副長も、主人公を想う気持ちは凄く伝わってきた。でもなんだか局長は俺についてこいって印象で、それとは逆に副長は共に歩んでくれそうな印象だった。
それなら私は、好きな人と隣に並んで歩んでいきたい。
思ったままを彼に話す。それを聞いた彼はほんの少しだけ笑った。
「…君と、この先も共に在りたい」
そう言った彼は、私にそっと手を差し伸べた。あの小説と同じ、副長が主人公に向けた台詞を言う彼に戸惑う。
「まだ名乗っていなかったね。…新撰組副長、土方歳三だ」
その名前を聞いた途端、腰を抜かしてしまった。私はとんでもない人に、あの小説を勧めてしまっていたのだ。下手をすれば斬られてもおかしくないのでは。
彼は差し伸べていた手を、そのまま腰を抜かした私に差し出してくれた。その厚意に甘え、その手を取る。自力では到底立ち上がれそうになかった。
「…この手を取ったね」
「えっ」
小説では、主人公は副長の手を取らなかった。悲しくも主人公と副長は結ばれなかったのだ。
その手を私は取ってしまった。その事の意味に気付き、再び腰を抜かすも、大きな手に腰を支えられた。
近付く彼との距離に体温が、心拍数が上がる。そして彼はそっと耳元で囁いた。
「もう逃してやれない」