龍如
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最後に見た景色は、ものすごい勢いでこちらに向かってくる車だった。
来るであろう衝撃に目を瞑る。ドン、と肩にきた衝撃は思ったよりも軽かった。
恐る恐る目を開けると、通りすがりにこちらを睨んでくるおじさんと目があった。おそらく、おじさんと肩がぶつかったのだろう。
周りを見渡すと、数時間前まで画面の向こうで見ていた神室町だった。ネオンきらめくゲートにそう書いてあった。
トリップだと、ストンと腑に落ちた後の行動は早かった。だって、せっかくこの世界に来たのだ。
そして、まだあの夜の日まで時間があることが分かった。大好きな峯さん。彼が死んでしまうあの日まで。
まずは、峯さんの会社の近くのカフェで働き始めた。もしかしたら、会えないかなと思って。
働き始めて数週間、やっと会えた姿に叫びそうになるのを堪え、店員として接客した。
見ているだけでよかった。少し話をするだけでよかった。それだけで。
「どうか、どうか!あなたは幸せに!」
私は貴方に出会えて、一目見ることが出来て、一言交わすことが出来て、とても幸せでした。
一度は死んだ人生、二度目は貴方の為に。
自己満足でしかないけれど、それでも私は貴方に生きていて欲しかった。
体が落ちていく。彼の顔が、姿が、小さくなっていく。手を伸ばしても届くはずもない。これで、これで、よかったんだ。
いつかと同じように、来るであろう衝撃に目を瞑る。そこで意識は真っ暗闇へと沈んでいった。
***
「どうして?」
次に目を覚ました時、私はベッドの上にいた。白い天井、揺れるカーテンにサイドテーブル。どうやら病院らしい。あの高さから落ちて助かるはずがないのに。
聞けば、ここは東北地方にある田舎の病院らしい。山の中で倒れていた私に気付いた街の人が、病院に運んでくれたようだ。
外傷はなく、精密検査の結果も問題なし。原因不明の体調不良で倒れていた、と判断された。
無事に退院した後、元の世界に戻ったのかと調べてみれば、ここはまだ龍が如くの世界だった。神室町が存在していたのだ。
あの夜から一年ほど経っているらしい。
峯さんは元気にしているだろうか。ほんの少し姿を見るだけのつもりで神室町へ訪れた。
運良く、道路の脇に車を停め、大吾さんと話す峯さんを見ることが出来た。
ほっとした。話しかけたい気持ちはぐっと耐えた。
私なんて、覚えていないかもしれない。いや、こんな得体のしれない女なんて、忘れていた方がいいだろう。
峯さんの姿から背を向ける。これからどうしようか、と街に目をやりながら歩き出した。
「…っ、……くれ、待ってくれ!」
近付いてきた声と共に肩をガッと掴まれる。振り向けば、そこには峯さんの姿があった。
走ってきたのだろう、少し息は切れていて、峯さんらしからぬ、焦ったような表情を浮かべていた。
「なにか?」
「…君だろう。あの夜の」
「…人違いでは?」
「… ミョウジ、さん」
初めて呼ばれた名前に、ぴくりと反応してしまった。それと同時にしまった、と思った。
その変化を峯さんが見逃すはずもなく、確信めいた瞳を向けられる。
「ずっと…ずっと、君を探していたんだ」
熱い眼差しが私の瞳を捕らえる。逸らすことなんて出来るわけがない。
「君のことをもっと教えてくれないか」
三度目の人生は貴方と共に。