龍如
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▼トリップ夢
▼峯視点、生存IF
「生まれ変わったら、俺も…」
リチャードソンを抱え飛び降りようとした矢先、物陰から黒い影が飛び出してきた。
勢いをつけ、こちらに走って近付いてくる。ライトに照らされたその影の主は、あの陽だまりのような笑顔をする女だった。
一瞬の油断の隙を突かれ、リチャードソンが腕から離れた。すかさず彼女がリチャードソンの手を掴み、そのままの勢いでビルから飛び降りた。
「どうか、どうか…あなたは幸せに!」
最後に見た彼女の顔は、あの陽だまりのような笑顔だった。いつもと違うのは、その目に涙が浮かんでいたこと。
彼女がビルから落ちていく。だんだんと姿が小さくなっていく。
何故、どうして、ここに。疑問ばかりが残る。
誰も彼女がいることに気付いていなかったのか。
飛び出してきたタイミング、あの状況でリチャードソンを連れ飛び降りたその判断、最後の言葉。
なんだか、彼女がまるで何もかも知っていたかのような。
***
彼女との出会いは数ヶ月前。なんとなく入った会社近くのカフェに彼女は勤めていた。
「今日も一日、頑張ってください!」
そう言ってテイクアウトしたコーヒーを、笑顔で差し出してきたのが彼女だった。どうやら新人らしい。エプロンに付いている名札の下に、研修中の文字がぶら下げられている。
店員としてのありふれた対応。なのに、どうしてかその笑顔と言葉の心地よさが頭に残った。
彼女に接客してもらった時は、朝に寄っても、夜に寄っても、コーヒーと共に一言添えてくれた。「寒いのでお気を付けて」だとか「今日もお疲れ様でした」とか、そんなありふれた一言。
それなのにそんな心地良さを求めて、いつの間にかカフェに寄る回数がだんだんと増えた。
あの一言が添えられるのは俺だけだと気付いたのは、カフェに通い始めて1ヶ月経った頃だったかと思う。
コイツも結局…と思ったけれど、彼女はそれ以上何もしてこなかった。誘われることもなく、連絡先を渡されることもない。あの一言だけだった。
軽口を交わすこともあった。だが、それだけだ。店員と客、それだけだった筈だ。
「峯、大丈夫か?一体、彼女は…」
大吾さんに声をかけられ、ハッとする。すぐに後ろへ振り向き、扉へとエレベーターへと向かう。
2人が落ちたであろう場所。そこにはリチャードソンの死体しかなかった。彼女の死体も血痕さえも何もなかった。
まるで、落ちていく途中で消えてしまったかのように。
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