伏黒 恵
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「伏黒くん!!」
倒したと思った呪霊の大きな口の中から、身を潜めていた小さな呪霊の触手の攻撃が飛んで来る。
それは、逃げ遅れた一般人の対応をしている伏黒くんに真っ直ぐ向かっていた。
きっと伏黒くんは、その一般人を守ることも呪霊の攻撃を防ぐことも出来ただろう。そう思ったのは、もっと後のことで。
私は身を挺して、伏黒くんと一般人を守ることしか考えてなかった。
2人に向かう攻撃の前に飛び出した私の横腹を触手が貫いた。その痛みに一瞬顔を顰める。
そのまま呪霊を掴んで引き摺り出し仕留めるが、じんわりと温かいものが衣服に染み込んでいく。
「ミョウジ!」
「伏黒くん、その人も怪我はない?」
「俺達よりお前だろ!血が…!」
「浅かったから、思ったよりは痛くないよ」
「馬鹿が!今はアドレナリン出てんだろ!」
怒ったような焦ったような顔をしながらも、私に止血処置を施し、外で待機している補助監督に連絡を取り、てきぱきと安全確保に動く伏黒くんをぼーっと見ていた。
「歩けるか?」
「うん、大丈夫…」
と一歩を踏み出したその足は、うまく力が入らなく膝から崩れ落ちた。
でも、伏黒くんが咄嗟に手を取って支えてくれたので、地面に膝を突くことはなかった。
「ほら」
そう言って、伏黒くんは屈んで背中を見せた。おんぶをしてくれるのだろう。
「でも、伏黒くんの服汚れちゃうよ」
「そんなこと気にしてる場合じゃないだろ。止血したって一時的だ、早く家入さんに見てもらわないと」
そうこう話しているうちに、貫かれた横腹がじわじわと痛くなっている気がした。無事に事が終わって気が抜けたのだろうか。
「ごめん、お世話になります…」
膝から崩れ落ちた手前、まともに歩ける気がしないので、素直に伏黒くんにおんぶをしてもらうことにする。
「重たいよね?ごめんね」
「思ったより重くない」
「そこは嘘でも軽いって言っといて!」
「…………軽い」
「間が長いよ!」
大きな声を出した事で、また傷が痛んだ。その痛みに少し身じろぐと伏黒くんに伝わってしまったのか、チラリと見えた伏黒くんの眉間には皺が寄っていた。
「もう喋るな。黙って掴まってろ」
細いと思っていた伏黒くんの体は、思いの外筋肉が付いていて、しっかりとした体をしていた。同じ歳でも男女でこんなに体つきが違うんだ。
なんだか、男の人ということを妙に意識してしまって、心臓がうるさい。伏黒くんに伝わってしまっていないだろうか。
心臓のうるささとズキズキと広がっていった傷の痛さで、そこからはよく覚えていない。次に目が覚めたら、高専の治療室だった。
「目、覚めたか」
声のする方を向くと、ベッドの隣にある椅子に伏黒くんが腰掛けていた。
「大丈夫か?」
「うん、もう平気。運んでくれてありがと、伏黒くん」
別に、と言った伏黒くんは、先程と変わらずなんだか不機嫌そうだった。そして、おもむろに口を開いた。
「…俺はお前1人守れない程、弱くないつもりだ」
「分かってるよ。あれは私が勝手にやっただけたがら」
「それも分かってる。でも、もうお前があんなことになるのは見たくないんだ。
…だから、俺にお前を守らせてくれ」
「なんだかプロポーズみたいだよ伏黒くん」とそう笑って言えば、違う、と顔を赤くして返してくれると思っていた。
けれど、そんな予想とは異なり、伏黒くんは少し考える素振りをしてから、こちらを真っ直ぐと見た。
「…そう捉えてもらっても構わない」
「え!?」
思いもよらない返答に驚いて勢いよく体を起こせば、まだ寝てろ、とベッドに押し返されてしまった。
伏黒くんは済ました顔をしているけれど、その耳は真っ赤に染まっていた。
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