その他
▼ Name change!
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
見てしまった。
八神さんがアクセサリーショップで綺麗な女の人と話しているのを。
話しているだけならこんなには気にならない、問題はその表情だった。とても優しそうな…慈しむような顔をしていたのだ。
明確な言葉などないこの関係に不安がないと言えば嘘になる。でもいつも八神さんが私に向けてくれる声、表情や仕草が私を想ってのことだと分かっていたから。でも、そんな表情を私以外の人に向けられているのを見てしまった。心がぎゅっとなって、沸々と暗い感情が湧き上がってくるのが自分でも分かる。
八神さんからも自分の感情からも逃げるように、私はその場を後にした。
逃げたのは良いものの、その夜は八神さんに会いに行くと言ってしまっていた。その後にあの光景を見てしまったのだ。なんとタイミングの悪い。
都合が悪いと連絡も出来たけれど、突然断ったら不自然に思われるかなと思って、意を決して向かった…のは良かった。けれど、まともに八神さんの顔は見れず、つーちゃんの相手ばかりをしていた。そんな私の様子に八神さんが気付かない訳もなく。
「貴様…何故こちらを見ない?」
「そ、そうですか?そんなことないですよ…」
どんどん声が小さくなる。チラリと見た八神さんは怪訝そうな顔をしていた。だが、それ以上問いただしてこないのが八神さんの優しさだ。…いつまで持つかは分からないけれど。
このままでは八神さんにも迷惑がかかるし…私の気持ちにも整理がつかない。いくら考えても悪い答えが返ってくることしか浮かんでこないが、いっそのことハッキリしてもらおうと、ベッドに座る八神さんの前に立った。
「あの!その…今日、アクセサリーショップで女性とお話しされてましたよね…?」
「…あぁ」
「その女性は…八神さんの大切な方、ですか?」
「…は?」
初めて聞いたかもしれない、八神さんの間の抜けた声。少し見開かれた目も一瞬で、少し考えるような仕草をしてから口を開いた。
「どうしてそう思った?」
「え?えっと…八神さん、とても優しそうな顔をされていたので…」
あの光景を思い出した途端、またぎゅっと心が締め付けられる。自分の心臓がドクドクと鳴っているのが、胸に置いた手に伝わる。握り締めた手のひらはじわりと汗ばんできた。
「俺はそんな顔をしていたか?」
「は、はい…」
「ナマエ」
胸に置いていた手をそっと取られる。私より一回りも大きな手。でもその手は優しく私の手を包んだ。
「あれは店の店員だ。…お前の話をしていたんだ」
「え…?」
スルッと指に何かをはめられる感覚。
そっと視線を落とせば、右手の薬指には小さな星が施されたシンプルなシルバーリング。
「お前に似合うものを探していたんだ」
やはりよく似合っている、と小さく微笑んだ八神さんは月明かりに照らされて、とても…とても綺麗で、なんだか泣きそうになった。
「私、勘違いしてて…」
「構わん」
「でも…」
「ふん…少しでも悪いと思っているのなら、こちらはその時まで空けておけ」
そう言った八神さんは、私の左手の薬指にキスをひとつ落とした。