K´
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▼サイドネタバレ少しアリ
▼エピローグ後時空
知り合いやら友人やら、立て続けに耳に入る結婚報告をすごいなぁ、と他人事のように聞く。
結婚願望が無いわけではない。でも、今はこの道場で皆さんと過ごすひと時が心地良い。それに、K´さんと…会って話して共に時間を過ごしているだけで充分に満ち足りているのだ。長らく会えない時はやっぱり寂しくはなるけれど。
「…今日はやけにスマホいじってんな」
縁側で2人で過ごす何気ない時間。携帯ゲームが一段落着いたのか、珍しくスマホをいじっていた私に不思議そうに問いかけるK´さん。
「昨日、立て続けに友人から結婚報告が来まして…それの返信やらに追われてます」
何かの日だったんですかね、と問いかけると、さぁな、と言ってK´さんはまたゲームに戻ってしまった。
少し目を離している間にも、次々と流れてくる友人達の通知に私も目を戻す。
「アンタは……」
最後に見た通知までちょうど遡った時、K´さんが口を開いた。ゲームに視線をやったまま、少し気難しそうな顔をしている。
「いや…なんでもない」
そう言って、止まっていた手も再び動き出した。またゲームと向き合っているようだけど、気難しいままの顔が気になった。でも、何も聞くことが出来なかった。それに、何かあればきっとK´さんから言ってくれるだろう、と信じて。
・
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「今、時間あるか?」
数日後の夜、珍しくK´さんから連絡が来た。
家事も掃除も終えていたので、大丈夫ですと返信をすると、あれよあれよと言う間にK´さんが迎えに来てくれて、海まで連れ出された。
「あんまりはしゃぐな」
「だって、とっても綺麗ですよ!」
誰もいない砂浜に、明るい月が海に反射して、綺麗な星空と共に輝いている。
視界一杯に広がる景色にうっとりしていると、後ろから優しい声で名前を呼ばれる。
「ナマエ」
振り向くと、K´さんはゆっくりと歩を進めて私の目の前に立った。そして、いつかの夜のように手を握られる。
「K´…さん…?」
「……俺は、アンタの思うような幸せを、与えることも叶えることも出来ない」
真剣な表情で言葉を紡ぐK´さん。
「でも今なら…思い出にすることだって出来る、だから」
選べ、と言われているような気持ちになった。この手を離せば、思い出に…今までの全てを過去に出来る、と。
数日前の縁側での話を気にしていたのだろうか。友人からの結婚報告の話を聞いて、K´さんなりに色々と考えてくれたのだろうか。
そして、K´さんは誰よりも…私よりも私のことを考えてくれた上で、そう言っているのだろう。
この関係に逃げ道を作ってくれている。
それでも私は、
「K´さん。私の幸せは…貴方といることです。貴方がいれば…それだけで私は幸せなんですよ」
握られた手を両手で握り返す。どうか私のこの想いがK´さんに伝わりますように。
「ナマエ…」
その先の言葉はなかった。代わりに強く引き寄せられ抱き締められる。夜の海辺の風のせいか、よりK´さんの体が熱く感じる。
「…K´さん、もし、不安な事とかあれば遠慮なく言ってくださいね」
「…それは俺のセリフだ」
どちらともなく見つめ合い、笑う。
いつかのあの夜から幾度も時を重ねて来たけれど…これからももっとたくさん、K´さんと思い出を積み上げていけますように。
「ナマエ、手出せ」
突然のお願いを不思議に思いつつも、両手を差し出す。右手だけを取られて、薬指に指輪がはめられていく。
「K´さん…!?」
「どんなのが良いか分かんねぇから、とりあえず…アンタに似合いそうなのを選んだつもりだ」
右手は握られたまま、左手も取られる。左手を取ったK´さんの右手の親指が、優しく薬指を撫でた。
「いつか…その…本物をやりたい、とは思ってる。けど、やるって確約は出来ねぇ」
「…はい。私はこれで充分です、ありがとうございます…」
言葉がだんだん小さくなる。嬉しくて嬉しくて、涙で視界が霞む。
今度はそっと、私の体を抱き締めてくれた。
トクントクンと少し早めの脈打つ鼓動は私のものか、それとも━━。