ムーンストーンの溜息(FEH/ヴァルター)
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翌日、エスト、カイン、ユリア、オリヴィエを従えて闘技場へ向かった。軍師としてルフレにも付いてきてもらった。
「レイシさん、今日は一体どうしたんですか?」
「え?」
幾戦かの途中、ルフレは不意に口を開き、そんなことを問う。
戦闘中に彼女が全く関係のないことを言い出すのなんて珍しいので、彼は少しどきりとした。
「いつもの様な采配ではない様に感じますが」
「え、そ、そうかな……」
レイシとしては、いつもの様に、いつも通りにやっているつもりだった。
それでももう幾度も共に戦闘を指揮している彼女にはそうは映らなかったらしい。
「……ヴァルターさんと、何かありました?」
「!」
その言葉に、レイシは口から心臓が飛び出そうなくらい、驚いた。
「え、ル、ルフレ……?」
「レイシさーん! 次の指示をお願いしまーす!」
「あっ、ごめん、エスト!」
そんな風に話している間に、相手のターンが終わってしまったらしい。
ルフレももう口を閉ざしてしまったので、彼は気を取り直し、その戦闘に勝利することに集中した。
闘技場から帰ってきて、レイシとルフレは何となく一緒に外に出て、開けた草原で座った。
暫く沈黙が支配した後、先に口を開いたのは、レイシ。
「……あのさ、ルフレ」
「なんです?」
「どうして俺とヴァルターに何かあったんだと思うわけ?」
これでは暗に認めているみたいじゃないか、という気持ちも拭えない。
それでもどうしてそう思ったのか聞いてみたい。彼はそういう衝動に駆られた。
「わかりますよ、そのくらい。ヴァルターさんも何だかいつもと違う様子でしたし。……あ、でも、他の方は多分気づいてはいないと思うので、安心してくださいね」
「……本当に?」
本当に、と尋ねたのは、ルフレがそのくらい分かると口にしたことと、他の人が気づいていないということと、その両方の点が気になったからだった。
「……その様子を見るに、レイシさんが何かを言って、傷付けてしまったのでしょうか?」
「うっ……何で分かるの? ルフレ」
「ふふ」
私もだてに軍師をやっていたわけではありませんよ、と彼女は笑う。
観念した彼は、昨日の出来事をかいつまんで話した。勿論痕の話は避けたが。
「俺は、ここ以外の世界に居た時の記憶がないし、ここに来てからは皆を率いていかなければいけないと考えていた……だから、どうしたらいいのか、分からない。俺個人としても、召喚師としても」
頷いた後、ルフレは言う。
「私も同じでした。私も軍を代表する立場でしたから」
「ああ、そうか。イーリス聖王国で、クロムを支えて軍師として働いていたんだっけ」
「ええ、そうです」
以前クロムとルフレから聞いた。自分たちの居た世界はこんなに美しく、けれど未来は全く暗く、僅かに見える遠くの光を追いかけていたのだと。
「私にも愛する人はいました。けど、今のレイシさんと同じ様に悩んでいました。皆に弱いところは見せたくなかったし、誰か特定の人と親密になることで、他の人が悩みを抱えてほしくなかった。少なくとも戦を終え平和になるまでは、そんなことで皆を煩わせてはいけないと考えていました。けれどそれは物凄く長い道のりでした」
「ルフレ……」
物凄く長い道のりだった、と口にはするが、その表情から苦悶は読み取れなかった。
今はもう乗り越えたのかもしれない。彼も、彼女も。
「私、今なら分かります。上に立っている人は弱みを見せてはいけないって思っていた。けど、皆も分かってるんです。こんな激しく長い戦いの中で、ただただ強くあれる人は居ないのだと」
「それは、どういう……?」
「レイシさん自らがヴァルターさんという大切な人が居る、と公にする必要はありません。それはレイシさんを苦しめることになるだろうと私は思うので。でも、もし聞かれたら答える、それでいいと思います」
「え、でも……」
困惑する彼にルフレは笑って答える。
「レイシさんが凄く頑張っていることは皆知っています。皆、レイシさんに支えられている。だからレイシさんを支える人が居ても良いって、皆思ってますよ」
「!」
驚いて口を噤んだ。自分を支える人が居ても良いって思っている? そんな馬鹿な。
とはいえ、それを全く否定できるわけではなかった。だって皆優しいのだ。
いつだって彼はアスク王国の平和を願い、英雄達を元の世界に帰せる時を待ち望み、戦ってきた。そんな彼を、皆は息抜きに誘い、時に癒してくれた。
「……信じてもいい? ルフレ」
「勿論です!」
「だったら俺、ヴァルターにちゃんと、謝る」
彼がこんなに悩むくらい、いつの間にか彼の中で、ヴァルターは大きな存在になっていた。本当はちゃんと大事にしたい、でも、皆の前では。
その葛藤をルフレが解かす。
「早い方がいいですよ! 今すぐ行っちゃいましょう!」
「え、でも……」
「さあ、レッツゴーです!」
ルフレが背中を押す。戸惑うが歩き出す。
そうか、自分はこうして、誰かに背中を押してもらいたかったのだ。答えが欲しいわけではなく、唯々応援してほしかったのだ。
頷いてヴァルターの部屋を目指した。
「レイシさん、今日は一体どうしたんですか?」
「え?」
幾戦かの途中、ルフレは不意に口を開き、そんなことを問う。
戦闘中に彼女が全く関係のないことを言い出すのなんて珍しいので、彼は少しどきりとした。
「いつもの様な采配ではない様に感じますが」
「え、そ、そうかな……」
レイシとしては、いつもの様に、いつも通りにやっているつもりだった。
それでももう幾度も共に戦闘を指揮している彼女にはそうは映らなかったらしい。
「……ヴァルターさんと、何かありました?」
「!」
その言葉に、レイシは口から心臓が飛び出そうなくらい、驚いた。
「え、ル、ルフレ……?」
「レイシさーん! 次の指示をお願いしまーす!」
「あっ、ごめん、エスト!」
そんな風に話している間に、相手のターンが終わってしまったらしい。
ルフレももう口を閉ざしてしまったので、彼は気を取り直し、その戦闘に勝利することに集中した。
闘技場から帰ってきて、レイシとルフレは何となく一緒に外に出て、開けた草原で座った。
暫く沈黙が支配した後、先に口を開いたのは、レイシ。
「……あのさ、ルフレ」
「なんです?」
「どうして俺とヴァルターに何かあったんだと思うわけ?」
これでは暗に認めているみたいじゃないか、という気持ちも拭えない。
それでもどうしてそう思ったのか聞いてみたい。彼はそういう衝動に駆られた。
「わかりますよ、そのくらい。ヴァルターさんも何だかいつもと違う様子でしたし。……あ、でも、他の方は多分気づいてはいないと思うので、安心してくださいね」
「……本当に?」
本当に、と尋ねたのは、ルフレがそのくらい分かると口にしたことと、他の人が気づいていないということと、その両方の点が気になったからだった。
「……その様子を見るに、レイシさんが何かを言って、傷付けてしまったのでしょうか?」
「うっ……何で分かるの? ルフレ」
「ふふ」
私もだてに軍師をやっていたわけではありませんよ、と彼女は笑う。
観念した彼は、昨日の出来事をかいつまんで話した。勿論痕の話は避けたが。
「俺は、ここ以外の世界に居た時の記憶がないし、ここに来てからは皆を率いていかなければいけないと考えていた……だから、どうしたらいいのか、分からない。俺個人としても、召喚師としても」
頷いた後、ルフレは言う。
「私も同じでした。私も軍を代表する立場でしたから」
「ああ、そうか。イーリス聖王国で、クロムを支えて軍師として働いていたんだっけ」
「ええ、そうです」
以前クロムとルフレから聞いた。自分たちの居た世界はこんなに美しく、けれど未来は全く暗く、僅かに見える遠くの光を追いかけていたのだと。
「私にも愛する人はいました。けど、今のレイシさんと同じ様に悩んでいました。皆に弱いところは見せたくなかったし、誰か特定の人と親密になることで、他の人が悩みを抱えてほしくなかった。少なくとも戦を終え平和になるまでは、そんなことで皆を煩わせてはいけないと考えていました。けれどそれは物凄く長い道のりでした」
「ルフレ……」
物凄く長い道のりだった、と口にはするが、その表情から苦悶は読み取れなかった。
今はもう乗り越えたのかもしれない。彼も、彼女も。
「私、今なら分かります。上に立っている人は弱みを見せてはいけないって思っていた。けど、皆も分かってるんです。こんな激しく長い戦いの中で、ただただ強くあれる人は居ないのだと」
「それは、どういう……?」
「レイシさん自らがヴァルターさんという大切な人が居る、と公にする必要はありません。それはレイシさんを苦しめることになるだろうと私は思うので。でも、もし聞かれたら答える、それでいいと思います」
「え、でも……」
困惑する彼にルフレは笑って答える。
「レイシさんが凄く頑張っていることは皆知っています。皆、レイシさんに支えられている。だからレイシさんを支える人が居ても良いって、皆思ってますよ」
「!」
驚いて口を噤んだ。自分を支える人が居ても良いって思っている? そんな馬鹿な。
とはいえ、それを全く否定できるわけではなかった。だって皆優しいのだ。
いつだって彼はアスク王国の平和を願い、英雄達を元の世界に帰せる時を待ち望み、戦ってきた。そんな彼を、皆は息抜きに誘い、時に癒してくれた。
「……信じてもいい? ルフレ」
「勿論です!」
「だったら俺、ヴァルターにちゃんと、謝る」
彼がこんなに悩むくらい、いつの間にか彼の中で、ヴァルターは大きな存在になっていた。本当はちゃんと大事にしたい、でも、皆の前では。
その葛藤をルフレが解かす。
「早い方がいいですよ! 今すぐ行っちゃいましょう!」
「え、でも……」
「さあ、レッツゴーです!」
ルフレが背中を押す。戸惑うが歩き出す。
そうか、自分はこうして、誰かに背中を押してもらいたかったのだ。答えが欲しいわけではなく、唯々応援してほしかったのだ。
頷いてヴァルターの部屋を目指した。