ムーンストーンの溜息(FEH/ヴァルター)
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月が昇り、人目を避ける様にヴァルターの部屋に滑り込んだ晩、レイシは声を押し殺すために男の肩口を強く噛んだ。
ヴァルターの性格上、それを嫌がるのではないかと最初の内レイシは思っていたが、それ以外に上手く声を抑える方法を思いつかなかったし、ヴァルターも決して嫌だとは言わなかった。その内、こうして息を重ねる夜は、毎度そうすることが恒例になっていた。
そしてレイシの上がった息がすっかり落ち着いた頃、男は笑った。
「今日は一段と、強い噛み方をするな?」
「……ごめん……」
そう言いながら彼は横のヴァルターを見る。
暗かったが、まじまじとその首元を見て、ぎょっとした。
「えっそんなに噛んでた?」
光源は窓から差し込む月明かりしかない。
それでも本人が思わず驚くくらい、その痕は深々と残っていた。
「ごめん、ほんとに」
「ならば、私にもさせてくれ?」
「えっ、ちょっ……」
そう言いながら覆いかぶさってきたヴァルターに抵抗しようとするが、そもそもの腕力として敵う筈もなく。
首筋に唇を寄せられ、力が抜けた。
「ちょっとヴァルター、なにそれ……!」
「何だ?」
翌日、城の廊下で出会ったレイシは目を剥いた。
昨日自分が付けた赤いその痣が服の隙間から露わになっていたからだ。
「ちょ、ちょっと! こっち来て!」
彼は男の腕を掴み、近くの空き部屋に連れ込む。
心臓をバクバク鳴らしながらその乱れた服を直した。
「何てもの見せてるんだ、」
「貴様が付けたものだろう?」
「いやまあそれはそうなんだけど!」
誰にも見られなかった? と聞いた瞬間、レイシはさっと血の気が引いた。
そういえば飛行する生き物たちに乗る者たちのミーティングがあった筈だ。
レイシは頭をフル回転させる。他のメンバーといえば、カミラ、エスト、ツバキ、ミシェイルくらいだろうか?
けれど確か皆用事があるとか言っていて、カミラと2人ならばやる必要もないかもね、と先日ヴァルターに告げたような記憶が甦ってきた。
「今日会ったのはカミラとレイシだけだ」
「えっ、そうなの? ミーティングは?」
「ミーティングはカミラと2人だったから、少し話して終えてきたぞ?」
「あ、そうなの」
まだ良かった。まだ。彼は安堵する。
「あとでカミラに口止めしておかないと……」
「何か言ったか?」
「いや何も」
しかしそういう問題ではない、と彼は男を睨みつける。
「あのさ、この痕見られたらどうなるか分かってる?」
「どういう意味だ?」
「一体何があったのかって思われるでしょう」
闇夜でも驚いたが、この白日の下ならば尚更だ。ヴァルターは元々肌が白い方なので、痕が赤いせいで余計に目立つ。
勿論自分が強く噛んでしまったのが悪いのだが、とレイシは苦々しい気持ちで思う。
「……あの」
悩みながら、彼は言った。
「俺は、ヴァルターとのこと、あまり公にしたくないんだ」
ぴくりとヴァルターの眉が上がったが、見ないようにしながら続ける。
「俺は皆のことを見なければいけない立場だ。……ヴァルターも知っていると思うけど。それなのに、誰か1人と特別に親密になっているなんて、本当はいけないことだと思う」
先程までは和やかな空気だったのに、急に険悪な雰囲気になる。
少しの沈黙ののち、男が口を開いた。
「……それは、私とこんな関係にはなりたくなかった、と言っているように聞こえるが?」
「いや、そういうつもりでは、」
「そうにしか聞こえぬな?」
彼の言葉を遮り、男は壁際に追い詰める。
まるでいつかと同じ様に、レイシの背中は壁に押さえつけられた。
「ヴァルター、」
「黙れ。喉を食い千切られたいのか?」
「!」
その目はいつものものとは違った。
男のその言葉通り、いつ食い千切られてもおかしくないような、獰猛な獣の目をしていた。
怯えたレイシは脱兎の如く脱出を図る。
ぐい、と肩を押すと抵抗を予測していなかったのか、思った以上に簡単に拘束が揺らぐ。
「レイシ!」
急いで扉を開け、レイシは廊下を走り抜ける。すれ違う人々に、一体何があったのかと問われるが、立ち止まることさえせず、一心不乱に走り、自分の部屋へ飛び込んだ。
「はあ……はあ……」
普段、殆ど鍛えていない身では、こんな少し走っただけですっかり息が上がってしまう。
何かあった時のために基礎訓練くらいはした方がいいかもしれないな、と考えながら、彼はベッドの縁に座った。
「……ヴァルター……」
今になって冷静に考えれば、自身の言葉がヴァルターを傷付けてしまったことはよく理解できる。それを謝りたかった。事実自体は否定せずとも。
それでもレイシに今まで恋だとかそういった類の経験はない。どうするのが一番良いのかは、分からなかった。
ベッドに寝転び天井を仰ぐ。さてどうすべきだろう、とその白い天井に尋ねた。
ヴァルターの性格上、それを嫌がるのではないかと最初の内レイシは思っていたが、それ以外に上手く声を抑える方法を思いつかなかったし、ヴァルターも決して嫌だとは言わなかった。その内、こうして息を重ねる夜は、毎度そうすることが恒例になっていた。
そしてレイシの上がった息がすっかり落ち着いた頃、男は笑った。
「今日は一段と、強い噛み方をするな?」
「……ごめん……」
そう言いながら彼は横のヴァルターを見る。
暗かったが、まじまじとその首元を見て、ぎょっとした。
「えっそんなに噛んでた?」
光源は窓から差し込む月明かりしかない。
それでも本人が思わず驚くくらい、その痕は深々と残っていた。
「ごめん、ほんとに」
「ならば、私にもさせてくれ?」
「えっ、ちょっ……」
そう言いながら覆いかぶさってきたヴァルターに抵抗しようとするが、そもそもの腕力として敵う筈もなく。
首筋に唇を寄せられ、力が抜けた。
「ちょっとヴァルター、なにそれ……!」
「何だ?」
翌日、城の廊下で出会ったレイシは目を剥いた。
昨日自分が付けた赤いその痣が服の隙間から露わになっていたからだ。
「ちょ、ちょっと! こっち来て!」
彼は男の腕を掴み、近くの空き部屋に連れ込む。
心臓をバクバク鳴らしながらその乱れた服を直した。
「何てもの見せてるんだ、」
「貴様が付けたものだろう?」
「いやまあそれはそうなんだけど!」
誰にも見られなかった? と聞いた瞬間、レイシはさっと血の気が引いた。
そういえば飛行する生き物たちに乗る者たちのミーティングがあった筈だ。
レイシは頭をフル回転させる。他のメンバーといえば、カミラ、エスト、ツバキ、ミシェイルくらいだろうか?
けれど確か皆用事があるとか言っていて、カミラと2人ならばやる必要もないかもね、と先日ヴァルターに告げたような記憶が甦ってきた。
「今日会ったのはカミラとレイシだけだ」
「えっ、そうなの? ミーティングは?」
「ミーティングはカミラと2人だったから、少し話して終えてきたぞ?」
「あ、そうなの」
まだ良かった。まだ。彼は安堵する。
「あとでカミラに口止めしておかないと……」
「何か言ったか?」
「いや何も」
しかしそういう問題ではない、と彼は男を睨みつける。
「あのさ、この痕見られたらどうなるか分かってる?」
「どういう意味だ?」
「一体何があったのかって思われるでしょう」
闇夜でも驚いたが、この白日の下ならば尚更だ。ヴァルターは元々肌が白い方なので、痕が赤いせいで余計に目立つ。
勿論自分が強く噛んでしまったのが悪いのだが、とレイシは苦々しい気持ちで思う。
「……あの」
悩みながら、彼は言った。
「俺は、ヴァルターとのこと、あまり公にしたくないんだ」
ぴくりとヴァルターの眉が上がったが、見ないようにしながら続ける。
「俺は皆のことを見なければいけない立場だ。……ヴァルターも知っていると思うけど。それなのに、誰か1人と特別に親密になっているなんて、本当はいけないことだと思う」
先程までは和やかな空気だったのに、急に険悪な雰囲気になる。
少しの沈黙ののち、男が口を開いた。
「……それは、私とこんな関係にはなりたくなかった、と言っているように聞こえるが?」
「いや、そういうつもりでは、」
「そうにしか聞こえぬな?」
彼の言葉を遮り、男は壁際に追い詰める。
まるでいつかと同じ様に、レイシの背中は壁に押さえつけられた。
「ヴァルター、」
「黙れ。喉を食い千切られたいのか?」
「!」
その目はいつものものとは違った。
男のその言葉通り、いつ食い千切られてもおかしくないような、獰猛な獣の目をしていた。
怯えたレイシは脱兎の如く脱出を図る。
ぐい、と肩を押すと抵抗を予測していなかったのか、思った以上に簡単に拘束が揺らぐ。
「レイシ!」
急いで扉を開け、レイシは廊下を走り抜ける。すれ違う人々に、一体何があったのかと問われるが、立ち止まることさえせず、一心不乱に走り、自分の部屋へ飛び込んだ。
「はあ……はあ……」
普段、殆ど鍛えていない身では、こんな少し走っただけですっかり息が上がってしまう。
何かあった時のために基礎訓練くらいはした方がいいかもしれないな、と考えながら、彼はベッドの縁に座った。
「……ヴァルター……」
今になって冷静に考えれば、自身の言葉がヴァルターを傷付けてしまったことはよく理解できる。それを謝りたかった。事実自体は否定せずとも。
それでもレイシに今まで恋だとかそういった類の経験はない。どうするのが一番良いのかは、分からなかった。
ベッドに寝転び天井を仰ぐ。さてどうすべきだろう、とその白い天井に尋ねた。