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ムーンストーンの溜息(FEH/ヴァルター)

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「ねえヴァルター、このチラシ見た?」
「……何だこれは?」

ヴァルターが漸く起きてきた午後4時――本当は起きていたのかもしれないが部屋から出てきたのはその時間だった――待ち構えていたレイシは男に紙を押し付けた。

「鉱石採掘ツアー……?」

眉を顰めるのも無理はない。そのチラシを見せられた者は殆どがその反応を示した。
彼が事細かに説明する前に興味を示したのはオーディンくらいのものである。

「そう。この近くに鉱石の採れる洞窟が見つかったんだって。カミラが見つけてくれたんだけど」
「ほう?」
「で結構採れるみたいだから、気分転換も兼ねて、行きたい人いないかなーって」
「断る」
「ええ!?」

2人が廊下でそんなことを話していると、たまたま近くを通りかかったアルフォンスが気づき、すごい剣幕で歩いてきた。

レイシ!」
「あ、アルフォンス! 丁度よかった、君に会いたかったんだよ。ほらこの鉱石採掘ツアー、もう知ってると思うけど――」
「何を考えているんだ一体……」

アルフォンスは呆れたように言う。

「もしこのツアーに皆が参加したいと言ったらどうするんだ? この城は無人になってしまうじゃないか。それにこの間にエンブラ王国が攻め入ってきたら……」
「大丈夫、現に今ヴァルターには断られたし」

断られたというのにレイシはにこにこしている。

「いやそういう問題じゃ……」
「アルフォンスとシャロンも興味なさそうだし、今まで声を掛けた中では5人くらいだよ、行きたいって言ってくれた人」
「しかしレイシ、君は行くんだろう?」
「俺は引率者だから」

そう言っても、彼が一番行きたがっているであろうことは、ヴァルターとアルフォンスには容易に分かった。

「……わかったよ。君を止めても無駄なことは分かってるからね……アンナ隊長も一緒に行くんだろう?」
「もちろん!」

それもアルフォンスには簡単に理解できることだった。
頷くと、それ以上何を言っても無駄であることを分かっている2人は、彼を黙って見送った。






「じゃあ1時間後に入り口に集合!」
「あら、みんな別行動なの?」
「何か文句でもある? カミラ」
「だって危険があるかもしれないのよ?」

レイシがヴァルターに声を掛けた翌日の朝、レイシと5人の仲間たちは鉱石採掘場に辿り着いていた。採掘場と言っても見た目はただの洞窟だ。
城から調達してきたヘルメットを各々身につけ、つるはしとハンマーを持っている。

「でもカミラ、前に君が来た時は敵はいなかったって」
「それは前の話よ、それに前はたまたま運が良かっただけかもしれない」
「うーん、それはそうだけど」
「特にレイシ、あなたのことは心配だわ。私たちと違って戦えないのだから」
「そうよレイシ

他はアンナ、カミラ、オーディン、マシュー、ゼトだ。純粋に鉱石に興味があったり、鉱石を売却した金が目当てだったりと、目的は色々である。

「うーん……じゃあ、危なくなったら呼ぶから。それでいい?」
「私が着いていくわ、レイシ
「大丈夫だって、カミラ。じゃあ俺先行くからっ」
「ちょっと、レイシ!」

レイシは一番に洞窟に入っていく。その他の4人も慌てて後に着いていった。
しかし普段の彼は無理して他人を遠ざけるようなタイプではない。アンナには大体の見当が付いていた。

「もう……じれったいわね」

ふふ、と笑いながらアンナも彼らの後へ続き、洞窟の中へ入っていった。



レイシがめちゃくちゃに走ってから後ろを振り返ると、もう誰の足音も近くにはないようだった。
彼は安心してつるはしを持ち直す。彼には探している物があった。

(探している物がある、なんて恥ずかしいから、絶対に見られたくない……)

彼はカミラからこの採掘場の話を聞いた時からずっとここに来たかった。しかし場所が明確には分かっていなかったのでこの時を待っていた。
ここに来る前に、目的の鉱石の特徴やどういった所で多く見つかるのかということを調べてきた。それを基に、1時間以内に何とか探し出す必要がある。
1時間なんて恐らくあっという間に過ぎ去ってしまうだろう、現物を見たことのない石を探すのも大変だし、そもそもつるはしを上手く使えるかどうかだって分からない。
けれど1時間という制限を付けたのは、アルフォンスが言った通りアスク王国が危険に陥る可能性だってあったからだった。

「でもずっと、城に居るか戦うかなんていう毎日、嫌だよねっ」

こういう息抜きは必要だ、と呟きながら、レイシはつるはしを打ち付けた。





採掘は予定通り1時間で終え、彼らは王城に帰ってきていた。

「ヴァルター」

陽も暮れた頃、ヴァルターの部屋を訪ねるレイシ
ノックしてから暫くしてから返事が返ってくる。

「採掘に行ってきたのか? レイシ
「覚えててくれたの」
「騒がしかったからな?」

じゃあこれ、お土産、と。
部屋の入り口まで出てきたヴァルターに彼は右手を突き出す。

「何だこれは?」
「お土産」
「!」

ヴァルターが受け取るために手を差し出すと、その手の上に載せられたのは小さな石。
専門家によって磨かれた石ではないのは明白だったが、きちんと人に見せられる程の輝きは放っていた。
薄っすらと青みがかったその白い石の名をヴァルターは知っている。驚きに少し目を見開いた。

「月長石……だな?」
「正解。さすがヴァルター」

彼は笑う。

「当たり前だ。私の二つ名を知っているのだろう?」
「うん。知っていて、取りに行った」
「その言い方だと、私にこれを渡したくて採掘に行ったように聞こえるな?」
「うん、そうだよ」
「……は?」

ぽろっと自身が零したその言葉の意味が、彼自身には一瞬分かっていなかったように見えた。
まさか肯定の言葉が返ってくるとは思わず――採掘の過程で見つけたからついでなのだとか言われることを想定していた――ヴァルターも言葉を失う。

「あっいや! 何でもない忘れてヴァルター!」
「……貴様、今」
「ごめん俺用事思い出したから! じゃあね!」

彼は自分の頬に熱が集まっているのを分かって、さっさと踵を返してその場から逃げ出した。当たり前かもしれないがヴァルターが追いかけてくる様子はない。
自室に急いで逃げ込んだ後、思わず口を滑らせたその失態を悔いた。そんなことを言うつもりはなかったのに。

「……俺も、大概だな」

多分アンナ辺りにはバレているのだろう、と思いながらレイシは座り込んだ。
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