ムーンストーンの溜息(FEH/ヴァルター)
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「レイシさん、大変大変!」
「ん? どうしたのリズ?」
「いいから来て来て!」
ある日、レイシが自室で今後の育成計画について考えていると、ノックもせずにリズが飛び込んできた。
人の部屋に入る時はノックしないと駄目だよ、と教えようとするが、尋常ではない様子にレイシは口を閉ざす。
リズはかなり早とちりで心配性な性格で、今までも何度か振り回されてきた。
だから今回もそうではないかと思いたかったのだが、それにしても、かなり焦っているように見える。
「どうしたの?」
「うう……エフラムさんとヴァルターさんが……」
「えっ?」
その組み合わせに嫌な予感がする。彼は頭の中で2人の関係性を組み立てる。
そうだ。2人とも、聖魔の光石の世界からやってきたのだ。その中でも、2人は。
「許さないぞ、ヴァルター!」
「……エフラム! ヴァルター!」
王城の広間に2人は居た。野次馬も何人かいる。
レイシはリズの肩に優しく触れ、大丈夫だからと言って、2人の近くへ歩いていった。
「レイシ!」
「落ち着いてくれ、2人とも。何があったのか、順番に聞かせてくれないか?」
彼がそう言うとヴァルターは黙り込んでしまったので、必然的にエフラムが先に話すことになる。
「……こいつは、俺たちの祖国を滅ぼしたんだ」
「!」
息が詰まる。分かっていた、ことなのに。
先程脳内で組み立てたパズルにその答えは書いてあった。レイシは分かっていて2人に声を掛けた筈なのに。
「今更責めたところで国は帰ってはこないが……」
「分かっているのなら私に突っかかってくるのはやめろ?」
「貴様……ッ」
「2人とも喧嘩はやめて!」
レイシは大きな声を上げる。まだこの城にエイリークを迎えていなくてよかった、と思った。
「次はヴァルターの言い分を聞くよ」
「いや、いい」
「だめ。話して」
踵を返そうとしたヴァルターの肩を掴む。
振り返った彼は驚くほど無表情で、レイシは一瞬怯んだが、ここで負けてはならないと自身を奮い立たせた。
「どちらもの言い分を聞かないとフェアじゃない」
正直、フェアかフェアでないかはヴァルターにとってはどちらでもよかった。そんな不公平など世の中にいくらでも蔓延しているからだ。
けれどそう思いながらも、胸に残るこの高まりは何だろう。先程までエフラムと言い合っていた胸糞悪さを押しのけて、そこに存在している高まり。
「……確かに私はルネス王国を滅ぼした」
レイシの手を払い除け、どこか遠くを見ながらヴァルターは言う。
「しかしそれを今更どうと言われる筋合いもあるまい?」
「……」
沈黙が訪れる。レイシは何を言うべきか迷う。
しかしエフラムが再び何か言おうとしたのを見て、急いで言葉を紡いだ。
「2人とも、今日は部屋から出るの禁止!」
「なっ……」
「これからこれを喧嘩した人への罰にする」
さっさと戻って2人とも、と冷たい声で言う。
エフラムは何か言いたそうだったが、諦めて自室へ戻っていく。
ヴァルターはようやく解放された、とでも言うかのように悠然と歩を進めていった。
不安そうに見ていたリズがレイシに近づいてくる。
「レイシさん……」
「ごめんね、リズ。怖い思いさせて」
「ううん……それより、レイシさん」
手を伸ばしてレイシの頬に触れるリズ。
「どうして……泣いてるの?」
「! ……」
確かに拭われた指先には雫が付いている。驚いて彼は自身の頬に触れた。
何故だろう、自分自身は泣いていることに全く気づかなかった。
「……少し、外の風に当たってくるよ」
「うん、それがいいと思う」
ごめんね、と。
リズにも謝られ、レイシはどうしていいか分からなくなった。
王宮のバルコニーに出ると陽は既に傾き始めていて、山々を赤く染めていた。
手すりに腕と顎を載せレイシは遠くを見る。涙が流れるのは止めようもなかった。
「……はあ……」
分かっていた。分かっていたつもりだった。こうして英雄たちを各地から集める時、その中に怨恨を持つ者同士が含まれることも覚悟していたつもりだった。
けれど実際は、自分にはそんな覚悟なんてなかった。ただただ英雄たちに我慢を強いていただけだったのだ。
「馬鹿だなあ、俺……」
英雄たちは皆優しくて、それを自分の"強さ"だと勘違いしていた。本当は彼らの優しさに甘えていただけだったのに。
自分は本当は何の力も持っていない。彼はそう気付かされた。
「本当につらいのはエフラムの方なのに」
祖国を滅ぼした元凶と出会い、エフラムはどんな気持ちになったのだろう。勿論幾分か前から彼らは同じ城で暮らしていたが、何かその感情を爆発させるようなことでもあったのかもしれない。
もしかしたらヴァルターがエフラムに何かを言ったのかもしれない。そうではないと信じたいけれど。
「アルフォンス達に相談した方がいいかな……」
俺はここの軍師に相応しくないと思う、と。
「はあ……どうしようかな……」
そんなことを考えていると、不意に夕陽に手が届きそうな気がしてきた。
彼がふっと左手を伸ばすと、突然後ろから聞こえる足音。
「レイシ!」
「え……エフラム?」
「頼むから、早まらないでくれ」
ぐい、と腕を掴まれ内側に引き戻される。突然の展開に彼は目を白黒させた。
「えー……えーと……?」
「……死ぬつもりじゃなかったのか? レイシ」
「え!?」
そこに居たのはエフラム。……と、ヴァルター。
しかし彼の腕を掴んだのはエフラムであり、ヴァルターは少し遠くから見ているだけのようだ。
「ち、違うよ、俺は少し……」
「そうか……違うなら良かった」
「それより、部屋から出るなって言ったのに」
まだ滲んでいた涙を袖で拭き取り、レイシは紛らわすように言う。
「……少し、考えたんだ。俺が何の為にこの世界に来たのか」
エフラムはレイシの手を放し、目を伏せた。
「それを考えた時に、俺が前に居た世界のことは、今は忘れた方が良いと思った。確かにルネス王国は滅びたが、それで全てが終わったわけではない。それに今は、ここでやるべき事がある」
「エフラム……」
「レイシにもつらい思いをさせたと思った。ヴァルターを伴って謝りに行こうと思ったら……外に手を伸ばしていたから、驚いたんだ」
歯切れの悪い言葉にレイシは否定する。
「違うよ。俺が紛らわしいことをしていたから……ごめん」
「レイシ、俺の方こそ悪かった。まだ奴と阿吽の様に共闘する自信は無いが、今後喧嘩はしないと約束する」
「……私も、少し大人気ない部分があった事を認めよう?」
「エフラム、ヴァルター」
彼らの言葉を噛み締めた。その時に、やはり自分は彼ら英雄たちの優しさに救われているのだ、と思った。
それを踏まえて尚、心が折れないように戦い続けなければ。それが自分の使命だ。
「……ごめんね、2人とも。ありがとう」
そして勝手なお願いだけれども、これからも力を貸してほしい、と彼は言った。
「ん? どうしたのリズ?」
「いいから来て来て!」
ある日、レイシが自室で今後の育成計画について考えていると、ノックもせずにリズが飛び込んできた。
人の部屋に入る時はノックしないと駄目だよ、と教えようとするが、尋常ではない様子にレイシは口を閉ざす。
リズはかなり早とちりで心配性な性格で、今までも何度か振り回されてきた。
だから今回もそうではないかと思いたかったのだが、それにしても、かなり焦っているように見える。
「どうしたの?」
「うう……エフラムさんとヴァルターさんが……」
「えっ?」
その組み合わせに嫌な予感がする。彼は頭の中で2人の関係性を組み立てる。
そうだ。2人とも、聖魔の光石の世界からやってきたのだ。その中でも、2人は。
「許さないぞ、ヴァルター!」
「……エフラム! ヴァルター!」
王城の広間に2人は居た。野次馬も何人かいる。
レイシはリズの肩に優しく触れ、大丈夫だからと言って、2人の近くへ歩いていった。
「レイシ!」
「落ち着いてくれ、2人とも。何があったのか、順番に聞かせてくれないか?」
彼がそう言うとヴァルターは黙り込んでしまったので、必然的にエフラムが先に話すことになる。
「……こいつは、俺たちの祖国を滅ぼしたんだ」
「!」
息が詰まる。分かっていた、ことなのに。
先程脳内で組み立てたパズルにその答えは書いてあった。レイシは分かっていて2人に声を掛けた筈なのに。
「今更責めたところで国は帰ってはこないが……」
「分かっているのなら私に突っかかってくるのはやめろ?」
「貴様……ッ」
「2人とも喧嘩はやめて!」
レイシは大きな声を上げる。まだこの城にエイリークを迎えていなくてよかった、と思った。
「次はヴァルターの言い分を聞くよ」
「いや、いい」
「だめ。話して」
踵を返そうとしたヴァルターの肩を掴む。
振り返った彼は驚くほど無表情で、レイシは一瞬怯んだが、ここで負けてはならないと自身を奮い立たせた。
「どちらもの言い分を聞かないとフェアじゃない」
正直、フェアかフェアでないかはヴァルターにとってはどちらでもよかった。そんな不公平など世の中にいくらでも蔓延しているからだ。
けれどそう思いながらも、胸に残るこの高まりは何だろう。先程までエフラムと言い合っていた胸糞悪さを押しのけて、そこに存在している高まり。
「……確かに私はルネス王国を滅ぼした」
レイシの手を払い除け、どこか遠くを見ながらヴァルターは言う。
「しかしそれを今更どうと言われる筋合いもあるまい?」
「……」
沈黙が訪れる。レイシは何を言うべきか迷う。
しかしエフラムが再び何か言おうとしたのを見て、急いで言葉を紡いだ。
「2人とも、今日は部屋から出るの禁止!」
「なっ……」
「これからこれを喧嘩した人への罰にする」
さっさと戻って2人とも、と冷たい声で言う。
エフラムは何か言いたそうだったが、諦めて自室へ戻っていく。
ヴァルターはようやく解放された、とでも言うかのように悠然と歩を進めていった。
不安そうに見ていたリズがレイシに近づいてくる。
「レイシさん……」
「ごめんね、リズ。怖い思いさせて」
「ううん……それより、レイシさん」
手を伸ばしてレイシの頬に触れるリズ。
「どうして……泣いてるの?」
「! ……」
確かに拭われた指先には雫が付いている。驚いて彼は自身の頬に触れた。
何故だろう、自分自身は泣いていることに全く気づかなかった。
「……少し、外の風に当たってくるよ」
「うん、それがいいと思う」
ごめんね、と。
リズにも謝られ、レイシはどうしていいか分からなくなった。
王宮のバルコニーに出ると陽は既に傾き始めていて、山々を赤く染めていた。
手すりに腕と顎を載せレイシは遠くを見る。涙が流れるのは止めようもなかった。
「……はあ……」
分かっていた。分かっていたつもりだった。こうして英雄たちを各地から集める時、その中に怨恨を持つ者同士が含まれることも覚悟していたつもりだった。
けれど実際は、自分にはそんな覚悟なんてなかった。ただただ英雄たちに我慢を強いていただけだったのだ。
「馬鹿だなあ、俺……」
英雄たちは皆優しくて、それを自分の"強さ"だと勘違いしていた。本当は彼らの優しさに甘えていただけだったのに。
自分は本当は何の力も持っていない。彼はそう気付かされた。
「本当につらいのはエフラムの方なのに」
祖国を滅ぼした元凶と出会い、エフラムはどんな気持ちになったのだろう。勿論幾分か前から彼らは同じ城で暮らしていたが、何かその感情を爆発させるようなことでもあったのかもしれない。
もしかしたらヴァルターがエフラムに何かを言ったのかもしれない。そうではないと信じたいけれど。
「アルフォンス達に相談した方がいいかな……」
俺はここの軍師に相応しくないと思う、と。
「はあ……どうしようかな……」
そんなことを考えていると、不意に夕陽に手が届きそうな気がしてきた。
彼がふっと左手を伸ばすと、突然後ろから聞こえる足音。
「レイシ!」
「え……エフラム?」
「頼むから、早まらないでくれ」
ぐい、と腕を掴まれ内側に引き戻される。突然の展開に彼は目を白黒させた。
「えー……えーと……?」
「……死ぬつもりじゃなかったのか? レイシ」
「え!?」
そこに居たのはエフラム。……と、ヴァルター。
しかし彼の腕を掴んだのはエフラムであり、ヴァルターは少し遠くから見ているだけのようだ。
「ち、違うよ、俺は少し……」
「そうか……違うなら良かった」
「それより、部屋から出るなって言ったのに」
まだ滲んでいた涙を袖で拭き取り、レイシは紛らわすように言う。
「……少し、考えたんだ。俺が何の為にこの世界に来たのか」
エフラムはレイシの手を放し、目を伏せた。
「それを考えた時に、俺が前に居た世界のことは、今は忘れた方が良いと思った。確かにルネス王国は滅びたが、それで全てが終わったわけではない。それに今は、ここでやるべき事がある」
「エフラム……」
「レイシにもつらい思いをさせたと思った。ヴァルターを伴って謝りに行こうと思ったら……外に手を伸ばしていたから、驚いたんだ」
歯切れの悪い言葉にレイシは否定する。
「違うよ。俺が紛らわしいことをしていたから……ごめん」
「レイシ、俺の方こそ悪かった。まだ奴と阿吽の様に共闘する自信は無いが、今後喧嘩はしないと約束する」
「……私も、少し大人気ない部分があった事を認めよう?」
「エフラム、ヴァルター」
彼らの言葉を噛み締めた。その時に、やはり自分は彼ら英雄たちの優しさに救われているのだ、と思った。
それを踏まえて尚、心が折れないように戦い続けなければ。それが自分の使命だ。
「……ごめんね、2人とも。ありがとう」
そして勝手なお願いだけれども、これからも力を貸してほしい、と彼は言った。