ムーンストーンの溜息(FEH/ヴァルター)
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ルフレに押されたその勢いのまま、彼は男の部屋の扉をノックする。
誰だ、と低い声が聞こえたので答えぬままドアを開けた。
「……レイシか?」
相変わらずカーテンを閉め切って暗い部屋のベッドに男は座っていた。
彼は部屋に入った後ドアを閉める。明るいところから入ってきたのですぐには目が慣れない。
「何をしに来た?」
「あの……謝りたいと思って」
「謝る?」
ふん、と男は鼻で笑った。その言動に彼は少なからず傷つく。
が、多分自分は昨日、それ以上に男を傷つけている。
だから何も言わず、ベッドに近づいた。
「俺はヴァルターの気持ち、何も考えていなかった」
男は何も答えない。
「俺は皆のことをずっと平等に扱っているつもりだった。そうでなきゃこれからの戦いはもっと厳しくなる。……でも本当は、あの時から」
「あの時?」
「初めて一緒に修練の塔に行った時」
目を閉じればすぐに思い出せるあの日のこと。
ヴァルターのレベル上げをするから集合してくれと言ったのに時間になっても来ないからレイシが呼びに行った。すると部屋に引き込まれ、壁に押し付けられた。
その後、一緒に塔に上って鍛錬した。それからずっと第一線で活躍してくれていたのだ。
「あの時から、俺はヴァルターのこと、多分ずっと特別扱いしていた」
戦う術を持たない彼にとって全ての英雄達はオンリーワンであり、それ故に全ての英雄達が平等に大切だった。
けど彼が男にあの日、「魅力的だ」と伝えたあの日から、全ては変わってしまった。
「それ以来、俺はずっとヴァルターのことが気になってしょうがなかったんだ。でも、夢が折角叶ったっていうのに、ヴァルターは俺に応えてくれたっていうのに、今度は俺が突き放してしまったんだよね」
今なら分かる。何が悪かったのか、自分は何を望んでいたのか。
「俺はいつも、皆のためと言っていたけど、全部違った。それは、俺が皆に好かれたいための嘘だ。」
男は黙っている。聞いているのか、聞いていないのか。
「俺にとってヴァルターはとても大切だ。もうヴァルターが居ないことなんて考えられないくらい。でも……この国での責務ももう、投げ捨ててはいけないくらい大きくなっている。だから、もう公にしたくないなんて言わないから、一緒に居てほしい。俺が皆を大事にする以上にヴァルターのことを大事にするから、俺の側に居て」
「……そんなことを考えていたとはな?」
「ヴァルター?」
男はベッドから立ち上がり彼の方に近づいた。
彼は何故か後ずさる。その内、壁に背中がくっついた。
「貴様、今言ったその全ての言葉の意味を分かっているんだろうな?」
「え……勿論」
「私が貴様を支えた覚えはないが、反省はできているようだな?」
喉元に噛み付く。息を呑む。
「貴様がそんなに言うのなら、私の伴侶として側に置いておいてやろう。それで満足か、レイシ?」
「え、あ、伴侶って、」
「貴様の言った言葉だ」
深い口づけ。生のために吸い込んだ息すら奪われるような。
それでもいつよりずっと慈しみ深いそれに、少しおかしいかもしれないけれど彼は安堵のため息を吐いた。大切な人を失うことなど出来ないんだと。
その男と彼とが出会ったのは、ある意味では偶然だったし、またある意味では運命だった。
でも彼にとってその男との出会いは無数にある出会いの中のたった一つで、さほど気にかけるようなものでもなかった。
しかし男にとって彼との出会いは、そんな単純なものではなかった。
――そう思っていたが。
「いつからこうなったんだろうね」
「どうした、いきなり?」
「先に囚われたのはどちらなんだろうね?」
男を真似て彼は笑う。
「さあ、どちらだろうな?」
「……今となってはどっちでもいい? そんなこと」
「同時だったかもしれないな?」
偶然じゃない、これはきっと運命だ。今ならそう言い切れるのに。
長い長い道のりを共に来て、全てを終わらせてしまえばまた道が分かれることを知ってしまった。
それでも歯車を止めることはできない。止める気もない。
「ありがとう、ヴァルター」
「何だ?」
「こうして共に居てくれて」
いつか隣に居られる日が来なくなっても、この幸せな日々を思い出してため息を吐くようなことは避けられる気がするのだ。きっと後悔はしないと。
誰だ、と低い声が聞こえたので答えぬままドアを開けた。
「……レイシか?」
相変わらずカーテンを閉め切って暗い部屋のベッドに男は座っていた。
彼は部屋に入った後ドアを閉める。明るいところから入ってきたのですぐには目が慣れない。
「何をしに来た?」
「あの……謝りたいと思って」
「謝る?」
ふん、と男は鼻で笑った。その言動に彼は少なからず傷つく。
が、多分自分は昨日、それ以上に男を傷つけている。
だから何も言わず、ベッドに近づいた。
「俺はヴァルターの気持ち、何も考えていなかった」
男は何も答えない。
「俺は皆のことをずっと平等に扱っているつもりだった。そうでなきゃこれからの戦いはもっと厳しくなる。……でも本当は、あの時から」
「あの時?」
「初めて一緒に修練の塔に行った時」
目を閉じればすぐに思い出せるあの日のこと。
ヴァルターのレベル上げをするから集合してくれと言ったのに時間になっても来ないからレイシが呼びに行った。すると部屋に引き込まれ、壁に押し付けられた。
その後、一緒に塔に上って鍛錬した。それからずっと第一線で活躍してくれていたのだ。
「あの時から、俺はヴァルターのこと、多分ずっと特別扱いしていた」
戦う術を持たない彼にとって全ての英雄達はオンリーワンであり、それ故に全ての英雄達が平等に大切だった。
けど彼が男にあの日、「魅力的だ」と伝えたあの日から、全ては変わってしまった。
「それ以来、俺はずっとヴァルターのことが気になってしょうがなかったんだ。でも、夢が折角叶ったっていうのに、ヴァルターは俺に応えてくれたっていうのに、今度は俺が突き放してしまったんだよね」
今なら分かる。何が悪かったのか、自分は何を望んでいたのか。
「俺はいつも、皆のためと言っていたけど、全部違った。それは、俺が皆に好かれたいための嘘だ。」
男は黙っている。聞いているのか、聞いていないのか。
「俺にとってヴァルターはとても大切だ。もうヴァルターが居ないことなんて考えられないくらい。でも……この国での責務ももう、投げ捨ててはいけないくらい大きくなっている。だから、もう公にしたくないなんて言わないから、一緒に居てほしい。俺が皆を大事にする以上にヴァルターのことを大事にするから、俺の側に居て」
「……そんなことを考えていたとはな?」
「ヴァルター?」
男はベッドから立ち上がり彼の方に近づいた。
彼は何故か後ずさる。その内、壁に背中がくっついた。
「貴様、今言ったその全ての言葉の意味を分かっているんだろうな?」
「え……勿論」
「私が貴様を支えた覚えはないが、反省はできているようだな?」
喉元に噛み付く。息を呑む。
「貴様がそんなに言うのなら、私の伴侶として側に置いておいてやろう。それで満足か、レイシ?」
「え、あ、伴侶って、」
「貴様の言った言葉だ」
深い口づけ。生のために吸い込んだ息すら奪われるような。
それでもいつよりずっと慈しみ深いそれに、少しおかしいかもしれないけれど彼は安堵のため息を吐いた。大切な人を失うことなど出来ないんだと。
その男と彼とが出会ったのは、ある意味では偶然だったし、またある意味では運命だった。
でも彼にとってその男との出会いは無数にある出会いの中のたった一つで、さほど気にかけるようなものでもなかった。
しかし男にとって彼との出会いは、そんな単純なものではなかった。
――そう思っていたが。
「いつからこうなったんだろうね」
「どうした、いきなり?」
「先に囚われたのはどちらなんだろうね?」
男を真似て彼は笑う。
「さあ、どちらだろうな?」
「……今となってはどっちでもいい? そんなこと」
「同時だったかもしれないな?」
偶然じゃない、これはきっと運命だ。今ならそう言い切れるのに。
長い長い道のりを共に来て、全てを終わらせてしまえばまた道が分かれることを知ってしまった。
それでも歯車を止めることはできない。止める気もない。
「ありがとう、ヴァルター」
「何だ?」
「こうして共に居てくれて」
いつか隣に居られる日が来なくなっても、この幸せな日々を思い出してため息を吐くようなことは避けられる気がするのだ。きっと後悔はしないと。
10/10ページ