誓いの日(オムニバス)
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俺は幾度も生と死の狭間の時をゆき、漸く望む結末を得られた後、不満そうに帰っていく黒衣の影を見送った。
傍らのレイシは朝からずっとそわそわしている。確かに本番に強くない方だということは知っているが、それでもあまりの落ち着かなさに、俺は思わず苦笑した。
「うっ、笑わないでよ、エレフ……」
「いや、可愛いなと思って」
「エレフは平気なの? 緊張していない?」
「緊張はするさ。でも、レイシがそんなに不安そうなのに、俺まで狼狽えるわけにはいかないだろう」
そう答えると、ごめん、と小さく返ってきた。そういうつもりではないと答えて頭を撫でた。
温もりが触れると少し安心するのか、忙しなく部屋の端から端まで行き来していたその足を止める。
「……でも、漸く、なんだね」
「ああ」
思えばレイシとは長い付き合いだ。俺が奴隷として風の都の城壁を築いていた時、レイシと出会った。そして妹のミーシャと偶然出会い、命からがら逃げだしたものの、沖の嵐によって離れ離れになった。俺とレイシは運よく同じところに流れ着いたけれど。
長い旅を続け、ミーシャが殺されたことを知った俺は、ますます国を牛耳る者たちへの憎しみの炎が燃え上がった。何も出来ない犬だと思うな。奴隷たちを集め、王都へ迫った。
その時に俺は何度も失敗をし、黒衣の男が自分の許へ誘うためにやってきたのだが、ミーシャを失った今、レイシさえも手放すことはできないと思って固く拒絶していた。そうして繰り返す内、こうして平和の頂へと上り詰めた。これは血で塗り固められた道だ。
思い返せば、いつも傍らには、レイシが居た。
「長かったな」
「うん」
「待たせたな、レイシ」
「待ってないよ。俺もずっと一緒に来たから」
そう言って笑うレイシに、ああそうだったな、と答える。
「色々な命を失ったけれど、俺たちが今こうして生きていることは、彼らへの手向けになるのかな? ……」
当然、奴隷として働く間に見知った仲間も、戦に出た時の戦友も、多くの命が俺たちの前で散っていった。俺たちの手は伸ばしても届かなかった。次々とさらっていくその姿が見えるだけ悔しくもあった。
だからこそ、その命を背負った俺たちが簡単に死ぬわけにはいかないのだ。
「どうかな」
しかし正直なところ、レイシのその言葉を完全に肯定してやることは出来なかった。沢山の人の死を見る中で、そんな楽観的な発想はできなかった。
とはいえ幸せになる権利がないとは思わない。だから、俺たちは、今日。
「でも、こうして結婚式を挙げることは、大目に見てもらえるんじゃないのか」
新たな世界を作ろうとして戦った俺は、今後はこの国を率いていかなければならない立場になってしまった。これは正直不本意な結果だ。軍を統率することはできたが、国が同じ様に回せるとは思えない。
だからその前にレイシという人が俺と一生を共にすることを内外に示さなければならないと思った。まだ戦が終わって日が浅いが、それでもこのタイミングしかないと思った。
「……そうだといいね」
俺はレイシを抱きしめる。
「エレフ?」
「レイシ、ずっと側に居てくれて、ありがとう。俺1人じゃここまで来ることは不可能だった」
「……うん」
「でも、これからも一緒に居てくれないか。俺がレイシを守るから、俺がどうしてもつらくなった時、支えてほしい」
「勿論」
どうしても愛しくなって俺はレイシに口づける。
唇が離れた後、腕の中で笑った。
「エレフ、早いよ」
「我慢できなかった」
「俺は、今までもこれからも、ずっと一緒に居るから。安心して。ね?」
そう言って笑うレイシを見て、ああこの人を選んでよかった、と心の底から思った。
傍らのレイシは朝からずっとそわそわしている。確かに本番に強くない方だということは知っているが、それでもあまりの落ち着かなさに、俺は思わず苦笑した。
「うっ、笑わないでよ、エレフ……」
「いや、可愛いなと思って」
「エレフは平気なの? 緊張していない?」
「緊張はするさ。でも、レイシがそんなに不安そうなのに、俺まで狼狽えるわけにはいかないだろう」
そう答えると、ごめん、と小さく返ってきた。そういうつもりではないと答えて頭を撫でた。
温もりが触れると少し安心するのか、忙しなく部屋の端から端まで行き来していたその足を止める。
「……でも、漸く、なんだね」
「ああ」
思えばレイシとは長い付き合いだ。俺が奴隷として風の都の城壁を築いていた時、レイシと出会った。そして妹のミーシャと偶然出会い、命からがら逃げだしたものの、沖の嵐によって離れ離れになった。俺とレイシは運よく同じところに流れ着いたけれど。
長い旅を続け、ミーシャが殺されたことを知った俺は、ますます国を牛耳る者たちへの憎しみの炎が燃え上がった。何も出来ない犬だと思うな。奴隷たちを集め、王都へ迫った。
その時に俺は何度も失敗をし、黒衣の男が自分の許へ誘うためにやってきたのだが、ミーシャを失った今、レイシさえも手放すことはできないと思って固く拒絶していた。そうして繰り返す内、こうして平和の頂へと上り詰めた。これは血で塗り固められた道だ。
思い返せば、いつも傍らには、レイシが居た。
「長かったな」
「うん」
「待たせたな、レイシ」
「待ってないよ。俺もずっと一緒に来たから」
そう言って笑うレイシに、ああそうだったな、と答える。
「色々な命を失ったけれど、俺たちが今こうして生きていることは、彼らへの手向けになるのかな? ……」
当然、奴隷として働く間に見知った仲間も、戦に出た時の戦友も、多くの命が俺たちの前で散っていった。俺たちの手は伸ばしても届かなかった。次々とさらっていくその姿が見えるだけ悔しくもあった。
だからこそ、その命を背負った俺たちが簡単に死ぬわけにはいかないのだ。
「どうかな」
しかし正直なところ、レイシのその言葉を完全に肯定してやることは出来なかった。沢山の人の死を見る中で、そんな楽観的な発想はできなかった。
とはいえ幸せになる権利がないとは思わない。だから、俺たちは、今日。
「でも、こうして結婚式を挙げることは、大目に見てもらえるんじゃないのか」
新たな世界を作ろうとして戦った俺は、今後はこの国を率いていかなければならない立場になってしまった。これは正直不本意な結果だ。軍を統率することはできたが、国が同じ様に回せるとは思えない。
だからその前にレイシという人が俺と一生を共にすることを内外に示さなければならないと思った。まだ戦が終わって日が浅いが、それでもこのタイミングしかないと思った。
「……そうだといいね」
俺はレイシを抱きしめる。
「エレフ?」
「レイシ、ずっと側に居てくれて、ありがとう。俺1人じゃここまで来ることは不可能だった」
「……うん」
「でも、これからも一緒に居てくれないか。俺がレイシを守るから、俺がどうしてもつらくなった時、支えてほしい」
「勿論」
どうしても愛しくなって俺はレイシに口づける。
唇が離れた後、腕の中で笑った。
「エレフ、早いよ」
「我慢できなかった」
「俺は、今までもこれからも、ずっと一緒に居るから。安心して。ね?」
そう言って笑うレイシを見て、ああこの人を選んでよかった、と心の底から思った。
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