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終末の日(オムニバス)

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「もし、明日が地球最後の日だとしたら、どうする」

 かつての下らない問いかけを思い出す。
 船の上からは呆れるくらい同じ水平線しか見えず、新しいニュースも知らない。
 弛みきった思考の末に、出てきた言葉はそんなもので。

「何だよ、突然」
「何でも。別に理由なんてないけど」

 俺と隣り並んで海を見ていたエースは、んーと悩ましげな声を出す。
 全く真剣に考えていないのは知っていたし、真剣に考えるようなことでもないからそれで構わないのだが、多少気を遣っているのかもしれない、と思ってそんなところに嬉しくなった。

「――海に、潜る、かな」

 考え考え、紡ぎ出された言葉。
 意外と真剣さを帯びていて、俺は思わずエースを見た。

「え」
「何だよその反応。聞いたのはそっちだろ?」
「いや、そうだけど。ちゃんと答えてくれるとは……」

 エースがちらっとこちらを見て、目が合う。

「よく分かったな、俺がちゃんと考えたって」
「妙に現実的だなーと思って」
「どうせ死ぬんなら、俺は海で死にたいね」

 それってつまり、受動的にただ死を待つのではなく、能動的に死のうということなのか。それとも、自分は海賊だから、最後まで海で生きたい、ということなのか。
 恐らく後者だろうが、それにしても、何も海に潜らなくたって。

「……もう二度と、俺は、海には入れねェからな。最後くらい、思い出したいんだ」

 そうか。エースも、昔は海に潜れたのだ。
 エースの昔の話など、俺は何ひとつ知らないけれど。

「で、レイシは?」

 そんな考えに沈んでいると、エースの問いかけにふっと思考から引き戻される。

「んー」
「……何だよ、人に聞いたくせに、考えてなかったのかよ?」
「そりゃそうじゃん。別に聞いた意味なんてないし」
「なんかあるだろ、なんか」

 何か。そうそれは、死んでも尚手放したくないもの。死後も縋りたいもの。
 ああ、そうだ。俺には、ある。そういうものが。

「俺も潜ろうかなー、海に」
「はあ? 適当だな」
「適当じゃない。ちゃんと理由ある」
「嘘つけ。俺のパクリだろ」
「ちがーう!」

 いや、正確には、そういうのとは違う。元々手に入れてないから、手放したくないものっていうのは適切ではなく、縋るというのも少し違うような。

「エースが居る海に、俺も行きたい」

 海は広く、後を追ったところで、能力者ではない俺は深く潜ることはできないから、すぐにはぐれてしまうだろう。
 きっとそれは、涙が止まらなくなるほどつらいことだろうし、俺だけが死にきれずに浮き上がってきてしまったら、やり切れなくてどうしていいか分からなくなると思う。
 けれど、ただ独りで陸で終末を待つよりは、ずっといい。

「俺の後を追ってくるってことか? 遠慮しとく」
「えっ何で」
「溺死って、あんまり綺麗じゃないじゃん」
「あんまりっていうか……そうだね……」
レイシが一緒に居るんなら、そうだな」

 少し悩んで、エースは答える。

「2人で海を眺めてるのも、いいかもな」

 最後に俺たちが還りたいのは、海。生まれは違っても、死に場所は海と恋い焦がれる。
 あの広い海原に抱かれたいのだ。

「ああ、それいいな。賛成。決定」
「まあ、そんな日なんて来ないと思うけどな」
「多分ね。そうだといいな」

 そんな日は来なくていいのだ。想像するだけで、心が張り裂けてしまいそうだから。
 この人と永遠に別れる日が来るなんて、今はまだ、知らなくていい。
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