終末の日(オムニバス)
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明日、目覚めた瞬間には、もうこの世界は存在していないのだという。ということはつまり、今日眠ってしまえば、明日は来ないらしい。
そんな中、もう世界中はとんでもない混乱に陥っていて――うちの両親とて例外ではなかったのだけれど――でも俺と涼太だけはいつものように会っていた。
「澪士っち、明日、本当に世界が終わると思う?」
「さあなー」
当然学校は休み。けれど俺たちは制服を着て、自分たちの教室に来ていた。
こんな繰り返しに何の意味があるのだろう? 今日みたいな特別な日にさえ、ルーチンワークをこなしたがる俺たちのことを、人はきっと笑うだろう。いや、今はもう、笑う余裕もないか。
でも俺たちは、心のどこかで思っていた。もしこれで、世界が終わらなかったらどうなるのだろう、と。
「でもさ、本当に衛星は迫ってきてるみたいだよね」
「そうらしいな。ま、ニュース見ても俺にはあんまりよく分かんないけど」
適当な会話を続ける。これでもし終わってしまったら、俺は後悔するんだろうか? いや、する前に死んでるな、きっと。
「……もし、本当に終わったら……」
窓を開け放ち、カーテンははためく。外はこんなに晴れているのに。
俺はいつもの豆乳を飲みながら、隣で同じく外を見ている涼太に目を向けた。
「涼太、あのさ」
涼太の言葉を遮る。
「……やっぱ何でも無い」
「え? 超気になるんだけど何?」
どうせ終わってしまうなら、今日どんなことを言ってしまったとしても、もう俺に後悔はないだろう。
でももし何かの手違いで、俺の命が明日以降も存続してしまうのなら、こんなことを言ってしまえば後悔するだろう。
でも、多分俺は馬鹿なんだろうな。本当に世界が終わるって毎日ニュースでもやってるし、外は不気味なくらい静かなのに、家族とでなく涼太と過ごしているなんて。
「何でも無い」
この気持ちは墓場まで持っていこう、と決めたのに。うっかり言ってしまうところだった。
只のクラスメイト、しかも同性に好意を抱いているなんて、死んでも言いたくない。
「じゃあ澪士っち、俺から澪士っちに言いたいことあるんだけど、いい?」
「え? 何だよ急に」
突然改まって言われる。俺はびびる。
しかもこちらを向いた涼太の顔がやけに真剣で、こいつもやはり明日世界は滅びると信じているのだろうか、と思った。
「結婚して」
「……はあああ?」
発せられた言葉が理解できず、変な声が出る。
「本気だよ。俺、澪士っちのことずっと好きだったんだけど、今まで言えなかったから。後悔ないように言っとこうと思って」
「……えーと、あの」
「明日本当に世界が終わるなら、付き合う時間も勿体ないから、結婚してほしい」
俺は思わず目を逸らした。
頬に熱が集まっているのは分かる。だからきっと、返答しなくたって、涼太は全部分かっているだろう。
「……俺たち、まだ18歳じゃないから、日本の法律的には結婚できないけど」
「そうだった。残念」
焦りのあまり、頓珍漢な返答をする。
「じゃあせめて、婚約指輪だけでも。買いに行こう」
「いやいやいや、明日世界が終わるっつってんのに、開いてる店なんかないだろ」
「それもそうか。……あ、そうだ」
恥ずかしい。物凄く。
俺は言うことと言わないことの後悔を天秤にかけていたのに、彼は迷いなく、言うことを選んでいた。
「もしものために、持ってきてたんだ」
涼太は自分の鞄の中を漁り、きらめいた何かを取り出す。
そして俺の前に跪き、優しい手つきで、俺の左手を持ち上げた。
「一生愛すると誓います。だから、結婚してください、澪士」
心臓が止まりそうになる。明日を待たずに、俺は死ぬかもしれない。
バクバクと鳴り続ける鼓動を止めることもできず、何も声が出せないまま、こくりと頷いた。
「嬉しい。ありがとう、大事にする」
そう言って指にするりと嵌め込まれたおもちゃの指輪。
これは、彼への忠誠を誓う証。それでも、今は。
「……ごめん、めっちゃ嬉しい」
感極まって涙が滲む。
すると、涼太は立ち上がって、俺のことを抱きしめた。
「もう1日しかなくても、生涯の伴侶って決めたから。ずっと側に居るよ。世界が終わるその時まで」
「……うん」
夢みたいだ。ずっと願っていながらも、叶わないと思っていた想いがここで成就するなんて。
左手のおもちゃの指輪、紫色の宝石みたいな部分が、きらりと光った。
そんな中、もう世界中はとんでもない混乱に陥っていて――うちの両親とて例外ではなかったのだけれど――でも俺と涼太だけはいつものように会っていた。
「澪士っち、明日、本当に世界が終わると思う?」
「さあなー」
当然学校は休み。けれど俺たちは制服を着て、自分たちの教室に来ていた。
こんな繰り返しに何の意味があるのだろう? 今日みたいな特別な日にさえ、ルーチンワークをこなしたがる俺たちのことを、人はきっと笑うだろう。いや、今はもう、笑う余裕もないか。
でも俺たちは、心のどこかで思っていた。もしこれで、世界が終わらなかったらどうなるのだろう、と。
「でもさ、本当に衛星は迫ってきてるみたいだよね」
「そうらしいな。ま、ニュース見ても俺にはあんまりよく分かんないけど」
適当な会話を続ける。これでもし終わってしまったら、俺は後悔するんだろうか? いや、する前に死んでるな、きっと。
「……もし、本当に終わったら……」
窓を開け放ち、カーテンははためく。外はこんなに晴れているのに。
俺はいつもの豆乳を飲みながら、隣で同じく外を見ている涼太に目を向けた。
「涼太、あのさ」
涼太の言葉を遮る。
「……やっぱ何でも無い」
「え? 超気になるんだけど何?」
どうせ終わってしまうなら、今日どんなことを言ってしまったとしても、もう俺に後悔はないだろう。
でももし何かの手違いで、俺の命が明日以降も存続してしまうのなら、こんなことを言ってしまえば後悔するだろう。
でも、多分俺は馬鹿なんだろうな。本当に世界が終わるって毎日ニュースでもやってるし、外は不気味なくらい静かなのに、家族とでなく涼太と過ごしているなんて。
「何でも無い」
この気持ちは墓場まで持っていこう、と決めたのに。うっかり言ってしまうところだった。
只のクラスメイト、しかも同性に好意を抱いているなんて、死んでも言いたくない。
「じゃあ澪士っち、俺から澪士っちに言いたいことあるんだけど、いい?」
「え? 何だよ急に」
突然改まって言われる。俺はびびる。
しかもこちらを向いた涼太の顔がやけに真剣で、こいつもやはり明日世界は滅びると信じているのだろうか、と思った。
「結婚して」
「……はあああ?」
発せられた言葉が理解できず、変な声が出る。
「本気だよ。俺、澪士っちのことずっと好きだったんだけど、今まで言えなかったから。後悔ないように言っとこうと思って」
「……えーと、あの」
「明日本当に世界が終わるなら、付き合う時間も勿体ないから、結婚してほしい」
俺は思わず目を逸らした。
頬に熱が集まっているのは分かる。だからきっと、返答しなくたって、涼太は全部分かっているだろう。
「……俺たち、まだ18歳じゃないから、日本の法律的には結婚できないけど」
「そうだった。残念」
焦りのあまり、頓珍漢な返答をする。
「じゃあせめて、婚約指輪だけでも。買いに行こう」
「いやいやいや、明日世界が終わるっつってんのに、開いてる店なんかないだろ」
「それもそうか。……あ、そうだ」
恥ずかしい。物凄く。
俺は言うことと言わないことの後悔を天秤にかけていたのに、彼は迷いなく、言うことを選んでいた。
「もしものために、持ってきてたんだ」
涼太は自分の鞄の中を漁り、きらめいた何かを取り出す。
そして俺の前に跪き、優しい手つきで、俺の左手を持ち上げた。
「一生愛すると誓います。だから、結婚してください、澪士」
心臓が止まりそうになる。明日を待たずに、俺は死ぬかもしれない。
バクバクと鳴り続ける鼓動を止めることもできず、何も声が出せないまま、こくりと頷いた。
「嬉しい。ありがとう、大事にする」
そう言って指にするりと嵌め込まれたおもちゃの指輪。
これは、彼への忠誠を誓う証。それでも、今は。
「……ごめん、めっちゃ嬉しい」
感極まって涙が滲む。
すると、涼太は立ち上がって、俺のことを抱きしめた。
「もう1日しかなくても、生涯の伴侶って決めたから。ずっと側に居るよ。世界が終わるその時まで」
「……うん」
夢みたいだ。ずっと願っていながらも、叶わないと思っていた想いがここで成就するなんて。
左手のおもちゃの指輪、紫色の宝石みたいな部分が、きらりと光った。