花(オムニバス)
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永久に終わりなど来ないのではないかと思うような戦いの中、バッツはたった1人で歩いている時に、ピンクの花を見つけた。
さながらフジのような、逞しく咲いている花。
「こんな所に花なんて……珍しいな」
その時、どこかで見たような、とバッツは考える。でもこの世界に花なんてない筈だし、ここで花を見たのは初めての筈だ。
なんだっけ、と思い出そうとする内に、深い深い思考の波に囚われた。
「おはよう」
「あ、バッツ、おはよう」
バッツが声を掛けると、彼はにっこりと笑う。
彼はいつものようにプランターを運んでいる。
手伝うよ、とバッツが言うと、彼は大丈夫と答えた。
「いいよ、俺ひまだし」
「そう? じゃあお願いしようかな。いつもありがとう」
荷馬車からプランターを下ろしたのはいいのだが、彼の経営する花屋まで運ぶのに、1人だと少し大変なように見えた。
2人で黙々と往復するとあっという間に終わる。
「よし、終わりっと」
「いつもありがとう、バッツ。本当に助かるよ」
「良いって」
いっつも手伝ってもらってるのにお礼したことないよね、と。
彼はばつの悪そうな表情で言うから、いいって、と再びバッツは答える。
そんなことで気を遣われては堪らない。自分でやったことなのだから。
「あー、そうだ。バッツいいものあるよ」
「いいもの?」
「食べ物じゃなくて申し訳ないけど。ちょっと待ってて」
「ああ」
そう言って彼は花屋の裏に引っ込む。
戻ってくるまでに少し時間が掛かりそうだったので、バッツは先程運んだプランターを少し片付けた。
彼に色々習ったので、並べ方は何となく分かる。綺麗に見えるように、お客さんが手に取りやすいように、試行錯誤しながら並べていく。
「お待たせ――って、またやってくれてたの、バッツ」
「俺まだ全然分かんないんだけどさ、こんなもんでいいの?」
「完璧だよほんとに。お礼これだけじゃ足りないかなあ?」
ほら手を出して、と言われたので素直に手を出すと、握らされたのは数粒の種。しかしバッツが知っている種より幾分大きい感じがした。
「これは?」
「ルピナスの種。多分種から育てれば育てやすいと思う、多少はね」
「ルピナス?」
「そう。綺麗だから育ててみてー」
多分バッツの家の庭でも育てられると思うよ。すごく綺麗な花を咲かせるんだ。
彼は笑ってそう言う、なのでバッツは頷いてその種をポケットにしまった。
「ありがとう」
「普段のお礼のつもりだから。種だけで申し訳ないけど」
「いや、もう今から帰ってやってみる」
「本当に? 嬉しいな。分からないことあったら聞きに来て」
「わかった。それじゃ」
そう言ってバッツは花屋を後にする。
あの日、彼から種を貰った翌日、バッツは衝動的に旅に出ることになる。誰にも何も告げずに。
結局ルピナスの種は撒くこともできず、家に置いてきてしまった。
時が経ち、バッツが再び故郷の村に戻ってきた時は共に旅した仲間たちも一緒で、でも村は変わっていないところもあったし、変わっているところもあった。
「よーバッツ、お帰りー」
「ただいま」
「あのさお前、お前ん家見てみろよ」
「え?」
あいつがさ、花、育ててくれてたんだよずっと。
その言葉を聞き、バッツは足早に自宅へ戻る。
「あ……」
懐かしい家ではあったが、当時の記憶とは少し違う光景だ。
フジのような、ピンクの花が咲き乱れ、主の帰宅を待っていたかのようだった。
「あのさ」
「ん?」
「――は? どこにいるんだ?」
バッツは知人に問う、彼の居所を。
「さあねぇ。ほんの少し前、ちょっと出かけてくるって言ってたけど」
「そっか」
じゃあ家で待つか。
そう考えバッツは自宅に入り、あまりの懐かしさにベッドに寝転んでみて、思わず目を閉じてしまった。
次に目を開けた時は、全く知らない世界にいた。
バッツはそこまで思い出した後、漸くその深い思考の渦から帰ってくることが出来た。
今まで自分がどうしてこの世界に来たのか全く分からなかったのだがそういうことか、もしかしてあの花のせいか、と思ってバッツは花を探したが、何故かもうそこにはなかった。
「……何だったんだ、一体」
夢でも見ていたのだろうか? いや、あの思い出していたことは夢ではない。思い出してみれば全て現実に起こったことなのだ。
よく考えればさっきここで見たような気がしていた花も、あの時見たルピナスによく似ていた。もしかしたら幻想かもしれないけど。
(――彼の、名前が)
そしてバッツはそこまで思い出したのだけれど、その記憶に出てきた"彼"の名前が思い出せなかった。
バッツにとって彼は重要な人だった。花屋を手伝ったのだって偶然そこを通りかかったのではなく、彼に会いたいからというだけだ。
だけどそんな人の名前を思い出せないなんて、と思う。
「!」
その時、カチャ、と鎧の音が聞こえる。
バッツは反射的に剣を抜き構えた。
「……出たな」
イミテーション。いつの間にかバッツの近くに迫っている。
そうだ、こいつを倒し、クリスタルを手に入れ、早くこの世界を出なければ。再び彼に会い、彼の名前を思い出すために。謝らなければ。ルピナスを育てることができず、綺麗に育ててくれたことを。そしてその花が、記憶を呼び覚ましてくれたことを。
バッツは剣を握り直した。
ルピナス///いつも幸せ、あなたは私の心にやすらぎを与える
さながらフジのような、逞しく咲いている花。
「こんな所に花なんて……珍しいな」
その時、どこかで見たような、とバッツは考える。でもこの世界に花なんてない筈だし、ここで花を見たのは初めての筈だ。
なんだっけ、と思い出そうとする内に、深い深い思考の波に囚われた。
「おはよう」
「あ、バッツ、おはよう」
バッツが声を掛けると、彼はにっこりと笑う。
彼はいつものようにプランターを運んでいる。
手伝うよ、とバッツが言うと、彼は大丈夫と答えた。
「いいよ、俺ひまだし」
「そう? じゃあお願いしようかな。いつもありがとう」
荷馬車からプランターを下ろしたのはいいのだが、彼の経営する花屋まで運ぶのに、1人だと少し大変なように見えた。
2人で黙々と往復するとあっという間に終わる。
「よし、終わりっと」
「いつもありがとう、バッツ。本当に助かるよ」
「良いって」
いっつも手伝ってもらってるのにお礼したことないよね、と。
彼はばつの悪そうな表情で言うから、いいって、と再びバッツは答える。
そんなことで気を遣われては堪らない。自分でやったことなのだから。
「あー、そうだ。バッツいいものあるよ」
「いいもの?」
「食べ物じゃなくて申し訳ないけど。ちょっと待ってて」
「ああ」
そう言って彼は花屋の裏に引っ込む。
戻ってくるまでに少し時間が掛かりそうだったので、バッツは先程運んだプランターを少し片付けた。
彼に色々習ったので、並べ方は何となく分かる。綺麗に見えるように、お客さんが手に取りやすいように、試行錯誤しながら並べていく。
「お待たせ――って、またやってくれてたの、バッツ」
「俺まだ全然分かんないんだけどさ、こんなもんでいいの?」
「完璧だよほんとに。お礼これだけじゃ足りないかなあ?」
ほら手を出して、と言われたので素直に手を出すと、握らされたのは数粒の種。しかしバッツが知っている種より幾分大きい感じがした。
「これは?」
「ルピナスの種。多分種から育てれば育てやすいと思う、多少はね」
「ルピナス?」
「そう。綺麗だから育ててみてー」
多分バッツの家の庭でも育てられると思うよ。すごく綺麗な花を咲かせるんだ。
彼は笑ってそう言う、なのでバッツは頷いてその種をポケットにしまった。
「ありがとう」
「普段のお礼のつもりだから。種だけで申し訳ないけど」
「いや、もう今から帰ってやってみる」
「本当に? 嬉しいな。分からないことあったら聞きに来て」
「わかった。それじゃ」
そう言ってバッツは花屋を後にする。
あの日、彼から種を貰った翌日、バッツは衝動的に旅に出ることになる。誰にも何も告げずに。
結局ルピナスの種は撒くこともできず、家に置いてきてしまった。
時が経ち、バッツが再び故郷の村に戻ってきた時は共に旅した仲間たちも一緒で、でも村は変わっていないところもあったし、変わっているところもあった。
「よーバッツ、お帰りー」
「ただいま」
「あのさお前、お前ん家見てみろよ」
「え?」
あいつがさ、花、育ててくれてたんだよずっと。
その言葉を聞き、バッツは足早に自宅へ戻る。
「あ……」
懐かしい家ではあったが、当時の記憶とは少し違う光景だ。
フジのような、ピンクの花が咲き乱れ、主の帰宅を待っていたかのようだった。
「あのさ」
「ん?」
「――は? どこにいるんだ?」
バッツは知人に問う、彼の居所を。
「さあねぇ。ほんの少し前、ちょっと出かけてくるって言ってたけど」
「そっか」
じゃあ家で待つか。
そう考えバッツは自宅に入り、あまりの懐かしさにベッドに寝転んでみて、思わず目を閉じてしまった。
次に目を開けた時は、全く知らない世界にいた。
バッツはそこまで思い出した後、漸くその深い思考の渦から帰ってくることが出来た。
今まで自分がどうしてこの世界に来たのか全く分からなかったのだがそういうことか、もしかしてあの花のせいか、と思ってバッツは花を探したが、何故かもうそこにはなかった。
「……何だったんだ、一体」
夢でも見ていたのだろうか? いや、あの思い出していたことは夢ではない。思い出してみれば全て現実に起こったことなのだ。
よく考えればさっきここで見たような気がしていた花も、あの時見たルピナスによく似ていた。もしかしたら幻想かもしれないけど。
(――彼の、名前が)
そしてバッツはそこまで思い出したのだけれど、その記憶に出てきた"彼"の名前が思い出せなかった。
バッツにとって彼は重要な人だった。花屋を手伝ったのだって偶然そこを通りかかったのではなく、彼に会いたいからというだけだ。
だけどそんな人の名前を思い出せないなんて、と思う。
「!」
その時、カチャ、と鎧の音が聞こえる。
バッツは反射的に剣を抜き構えた。
「……出たな」
イミテーション。いつの間にかバッツの近くに迫っている。
そうだ、こいつを倒し、クリスタルを手に入れ、早くこの世界を出なければ。再び彼に会い、彼の名前を思い出すために。謝らなければ。ルピナスを育てることができず、綺麗に育ててくれたことを。そしてその花が、記憶を呼び覚ましてくれたことを。
バッツは剣を握り直した。
ルピナス///いつも幸せ、あなたは私の心にやすらぎを与える