花(オムニバス)
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彼は眠れない病を抱えていたのだ、と俺はのちに思う。
「出かけてくる」
「ちょっとヴァン、どこに行くつもり?」
「そこまで」
そう言い残し、ふらっと居なくなってしまう時の行き先は、俺とパンネロだけが知っていた。
パンネロは溜息を吐く。俺はヴァンの出て行った扉を見ているが、その目が俺を捉えていることは知っている。
「レイシ、お願い。ヴァンを連れ戻してきて」
「分かった」
「……止めろなんて、言えないもの」
「ああ」
分かっている。俺は飲みかけのコーヒーを置き、立ち上がった。
「これ」
「いいよ、ヴァンの分は」
「じゃ、俺とパンネロで割り勘な」
3人で会ったのは久しぶり、かもしれない。最近は俺が忙しかった。
だからこそこうして珍しくコーヒーなんぞを飲みながら話していたのだが、途中からヴァンがそわそわと落ち着きをなくしていったのだった。
俺は少し笑って、自分の分とヴァンの分の金貨をきっかり半分テーブルの上に置いた。
「ダウンタウン連れてくわ」
「分かった。私はミゲロさんのお店に寄ってから帰るね」
「ああ」
俺は店の扉を押し開け、蒸し暑い屋外へと出た。
「……居た」
ラバナスタより暑いダルマスカ砂漠で、漸く目的の影を見つける。
安心しきっていたのか、俺が声を掛けると露骨に驚いた。
「レイシ!」
「お前、何してんの? パンネロが心配してるよ。早く戻ろうぜ」
ヴァンは睫毛を伏せる。
「――どうしても」
「ん?」
「たまに、どうしても。……ガルバナの花を探さなきゃいけないって、そんな気持ちになるんだ」
その理由はもう心の底に刻まれるほど分かっているつもりだったから、ヴァンが絞り出すように言うその言葉に、一々胸を抉られては堪らないのだった。
けど。
ヴァンのその悲痛な姿は、分かっていても、俺やパンネロを更に不幸にさせる。
「帰ろう、ヴァン」
「……そうだな」
ヴァンが立ち上がるのを見計らい、俺は努めて明るく言った。
「ヴァン、忘れたか? 俺は花屋やってるんだから。ガルバナの花が欲しいなら、無料でいくらでも採ってきてやるよ」
「ありがとう、レイシ。……でもそれじゃ、意味ないんだ」
俺の浅はかな言葉に、笑顔を返すヴァン。
(――分かってるよ)
言うつもりはない。けど。
俺が花屋を始めたのはそんな理由じゃない。この砂漠の真ん中で、オアシスになりたいとかそんなロマンチックな話ではない。
「――パンネロが、待ってる」
俺は促す、ヴァンに本当のことを言うつもりはない。
俺にもその罪を共に背負わせてほしい。罪悪感を弔い、そしてその墓前に赤い花を備えたいのだ、なんて。
ガルバナ///
「出かけてくる」
「ちょっとヴァン、どこに行くつもり?」
「そこまで」
そう言い残し、ふらっと居なくなってしまう時の行き先は、俺とパンネロだけが知っていた。
パンネロは溜息を吐く。俺はヴァンの出て行った扉を見ているが、その目が俺を捉えていることは知っている。
「レイシ、お願い。ヴァンを連れ戻してきて」
「分かった」
「……止めろなんて、言えないもの」
「ああ」
分かっている。俺は飲みかけのコーヒーを置き、立ち上がった。
「これ」
「いいよ、ヴァンの分は」
「じゃ、俺とパンネロで割り勘な」
3人で会ったのは久しぶり、かもしれない。最近は俺が忙しかった。
だからこそこうして珍しくコーヒーなんぞを飲みながら話していたのだが、途中からヴァンがそわそわと落ち着きをなくしていったのだった。
俺は少し笑って、自分の分とヴァンの分の金貨をきっかり半分テーブルの上に置いた。
「ダウンタウン連れてくわ」
「分かった。私はミゲロさんのお店に寄ってから帰るね」
「ああ」
俺は店の扉を押し開け、蒸し暑い屋外へと出た。
「……居た」
ラバナスタより暑いダルマスカ砂漠で、漸く目的の影を見つける。
安心しきっていたのか、俺が声を掛けると露骨に驚いた。
「レイシ!」
「お前、何してんの? パンネロが心配してるよ。早く戻ろうぜ」
ヴァンは睫毛を伏せる。
「――どうしても」
「ん?」
「たまに、どうしても。……ガルバナの花を探さなきゃいけないって、そんな気持ちになるんだ」
その理由はもう心の底に刻まれるほど分かっているつもりだったから、ヴァンが絞り出すように言うその言葉に、一々胸を抉られては堪らないのだった。
けど。
ヴァンのその悲痛な姿は、分かっていても、俺やパンネロを更に不幸にさせる。
「帰ろう、ヴァン」
「……そうだな」
ヴァンが立ち上がるのを見計らい、俺は努めて明るく言った。
「ヴァン、忘れたか? 俺は花屋やってるんだから。ガルバナの花が欲しいなら、無料でいくらでも採ってきてやるよ」
「ありがとう、レイシ。……でもそれじゃ、意味ないんだ」
俺の浅はかな言葉に、笑顔を返すヴァン。
(――分かってるよ)
言うつもりはない。けど。
俺が花屋を始めたのはそんな理由じゃない。この砂漠の真ん中で、オアシスになりたいとかそんなロマンチックな話ではない。
「――パンネロが、待ってる」
俺は促す、ヴァンに本当のことを言うつもりはない。
俺にもその罪を共に背負わせてほしい。罪悪感を弔い、そしてその墓前に赤い花を備えたいのだ、なんて。
ガルバナ///