花(オムニバス)
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「何だ? こんなとこに花屋なんてあったか?」
ある日、いつものようにトリコがグルメタウンを歩いていると、見慣れない店を見つけた。
客はそれ程多くないが、全くいないわけではない。
この満腹都市に花屋があるなんて、と思い、トリコはその店に近づいた。
「いらっしゃいませ」
どうやらそこそこ賑わっているのは、食用の花を主に取り扱っているためらしかった。トリコも何度か見かけたことのある花が並んでいる。
暇つぶしがてら店頭を眺めていると、目立たない一角に、本か何かで見た事のある花を見つけて、ぎょっとした。
「これは……!」
思わず声を上げるトリコに、店員が近づいてくる。
「お客さん、ご存知です? この花」
「当たり前だろう! これは、」
「どうかご内密に」
店員はにっこりと笑ってトリコを静止する。
「はるか昔に絶滅したと言われるフラワアンです。価値の分かる方にしかお売りしていません」
「いや、そんなことはいい」
どうやら取引を持ちかけたかったようだったが、トリコの興味は別のところにあった。
「この花はどこで?」
「それは言えません」
「多分、自然には咲いてないよな。ずっと昔に絶滅した筈なんだから。誰かが種を持っていて育てたってことか?」
「それは存じ上げません」
「そうか」
トリコは観念したように言う。
「……ですがあなたは、美食屋四天王のトリコ様。あなたなら秘密を守ってもらえそうですね」
店員は続ける。
「そんなにお知りになりたいですか。この花がどこで育ったのか」
「ああ」
「なら、明日の陽の昇る前、ここへ」
そう答えると、手にメモを押し付けられる。
店員の笑顔は、さっさと出て行けと言っているように思えた。
「感謝する」
トリコはメモをポケットにしまい、花屋を出た。
翌日陽の昇る前、約束通りにそこを訪れたトリコを出迎えたのは1人の職員。
「本日の見学者様ですね。どうぞこちらへ」
職員は事務的にそれだけ告げ、一見何の変哲もない漆喰の壁のビルへ入っていく。トリコも後へ続いて入ると、受付などがある。どう見ても普通のオフィスビルだ。
ここでフラワアンを育てているというのか? そんな馬鹿な。
昨日花屋を出た後、そのままグルメ研究所のマンサム所長の許を訪れ、フラワアンのことをそれとなく聞いてみたのだが、彼は何も知らないと言っていた。
そのまま受付を通り抜け、エレベーターで2階へ上がる。
そういえば自分のことは何も聞かれておらず、身分を証明する物の提示も求められていないことに気づく。さて何かの罠か、上等だ、とトリコは思った。
「こちらが当社の工場となります。衛生管理が必要なため、こちらの部屋で服を着替えていただき、風のシャワーでゴミを吹き飛ばす必要があります」
「ああ」
言われた通りトリコは部屋に入り、服を着替える。トリコのサイズに見合う衛生服があったのには驚いた。
万が一のことを考え重要な物や高価な物は持ってこなかったが正解だったかもしれない。
「ではこちらへ。ここから先は自由に行動していただけます」
「そうなのか」
「ただし写真などは撮らないように願います」
着替えて部屋を出た後は壁がガラスになっている部屋に入り、強い風を吹き付けられる。これは食品工場ではよくある光景だろう。
それらを終えて1人で部屋を通り抜けると、考えてもいなかった光景が広がっており、思わず息を呑んだ。
「何だここは……!」
ここは小さなオフィスビルの筈だ。それが何故こんなに広いんだ?
トリコが見た光景はまるで草原のように緑がいっぱいに広がっている状態だった。
勿論ビルらしく向こう側には壁も見えるのだが、外からビルを見て得た印象よりはかなり広く思える。いや、確実にそうだろう。
困惑しながら右手に備え付けられていた階段を降りていき、その畑に足を踏み入れた。
「触らない方がいいよ」
「!?」
草原だと思っていたものはよく見れば畑で、きちんと畝があって緑が規則正しく手入れされていた。
しかし見たことのない植物ばかりでトリコが思わず手を伸ばすといきなり声がして、あまりに驚いて慌てた。
「だ、誰だ!?」
「レイシ。ここの工場長」
「工場……」
振り向けばいつの間にか男性がそこにいた。トリコと同じような衛生服を着ており、マスクもしているため、どんな人物なのかは外見からは判断が付かない。
「また見学者入れたんだ、これだからこの会社は嫌なんだよね」
「え、えーと……」
「何を見に来たの。どこから?」
「グルメタウンの花屋でフラワアンを見て」
「フラワアンか」
それだったらこっち、と言ってレイシは先に歩いていく。
その背中に向かって、俺はトリコだ、と名乗っていなかったことを思い出したので名乗ってみた。
「そう」
興味ないとでも言いたげな返事が返ってくる。
「君は運がいいよ」
「運がいい?」
「今までフラワアンを見に来た人はいなかったから」
それが何故「運がいい」に繋がるのか分からず、トリコは沈黙を返す。
「これ」
「!」
そう言って案内された一角に咲いていたのは確かにフラワアンだった。あの花屋で見た物、図鑑で見た物と同じだ。
フラワアンは見た目は可憐な花なのだが、食べると和菓子の餡のような味がするため「フラワアン」と名前が付いている。
トリコは食べてみたい衝動に駆られたが、それよりも知りたいことがあった。
「フラワアンは絶滅危惧種の筈だ。それを何故こんな所で育てている?」
「え? 公認だよ、IGOの」
「何だって!?」
さらっと答えるレイシに信じられないという声を出すトリコ。
「でも本当に貴重な物だから選ばれた人しか知ることはできない」
「まさか……」
「君は運がいいって言ったのはそういうこと」
昨日、あの花屋でフラワアンについて尋ねていなければ、トリコはここに来ることは叶わなかったのだという。
「でも、もうとっくに種なんかなかったんじゃ……」
「それは秘密」
僕の専売特許だから、とつれない返事。
「君にフラワアンをあげてもよかったんだけど、気が変わった」
「え!?」
「はい、これ」
「……これは?」
「種。植物の」
「それは分かる」
その申し出はいいのか悪いのか分からなかった。フラワアンを一度食べてみたいという気持ちになっていたからだ。
トリコは思わず手を出し、レイシのポケットから出てきたその種を受け取る。
「これは結構育てやすいから初心者でも大丈夫。水やりは土が乾いてから、あと暑すぎるところは苦手だからできるだけ明るい日陰で育ててやって」
「えーと」
「今から育てれば2ヶ月後には花が楽しめると思うよ。花が咲いたらまた来て」
そう言って追い出される、トリコにはこの種が、何の植物なのかという情報も与えられず。
仕方なく園芸用品の売っている店によって、じょうろなどを買い揃えてから帰宅した。
言われた通り2ヶ月後、彼から貰った種は無事に赤い花を咲かせた。茎の先に花が密集しており茎が折れそうにも見える。
トリコはその内のいくつかを手折り、以前と同じように陽の昇る前、漆喰の目立たないビルへ向かった。
「お待ちしておりました」
こちらへ、と職員が案内する方へついていく。
すると前回とは違い工場ではなく、どこかの会議室のような場所へ連れて行かれた。
職員がノックして扉を開けると、そこには誰かが既に座っていた。
「失礼いたします」
トリコは足早にその人に近づく。
彼が顔を上げたとき、あっと声を上げる。そうだ、あの時の。
「まさか……レイシか?」
「そうだよ」
「久しぶりだな」
「その様子を見ると無事に花が咲いたようだけど」
「ああ」
急く気持ちを抑えながら、トリコはレイシに花を差し出した。
「へえ……綺麗な花が咲いたね。随分育て方がよかったみたいだ」
ふっと笑みを見せる。
以前はマスクで全く見えなかったのだが、結構幼い顔立ちだ。
それをカバーするかのように少し冷たい響きのする声色のことが多いように感じたが、その笑顔はトリコにギャップを感じさせ胸を高鳴らせた。
「これはなんていう植物なんだ?」
「ノコギリソウ。傷薬にもなる花だよ」
「ノコギリソウか」
レイシは返そうとしてくるが、やる、とトリコは答える。
「家に帰ったらまだたくさんあるしな」
「そう。ありがとう」
そう言いながらレイシは机の上にその花を置く。
「ノコギリソウの花言葉、「勇敢」って言うんだ」
「へえ」
「本当はフラワアンをあげてもよかったんだけど、君にはその花言葉がよく似合いそうだったから」
そうだ、フラワアン。2ヶ月前のことだがすっかり忘れてしまっていた。
それだけトリコは園芸に夢中になれたということでもある。
「あのさ、レイシ」
「何?」
「よかったら他の花の育て方も教えてくれないか」
できれば食用がいいが、とトリコは冗談のように付け加えるが、いいよ、と即座に返事がくる。
「マジか? ありがとう」
「僕も少し興味があるんだ」
君に、と言うレイシの言葉はよく分からない。
それでもトリコとしては、彼に会う口実ができたようで、結構嬉しかった。
ノコギリソウ///勇敢
ある日、いつものようにトリコがグルメタウンを歩いていると、見慣れない店を見つけた。
客はそれ程多くないが、全くいないわけではない。
この満腹都市に花屋があるなんて、と思い、トリコはその店に近づいた。
「いらっしゃいませ」
どうやらそこそこ賑わっているのは、食用の花を主に取り扱っているためらしかった。トリコも何度か見かけたことのある花が並んでいる。
暇つぶしがてら店頭を眺めていると、目立たない一角に、本か何かで見た事のある花を見つけて、ぎょっとした。
「これは……!」
思わず声を上げるトリコに、店員が近づいてくる。
「お客さん、ご存知です? この花」
「当たり前だろう! これは、」
「どうかご内密に」
店員はにっこりと笑ってトリコを静止する。
「はるか昔に絶滅したと言われるフラワアンです。価値の分かる方にしかお売りしていません」
「いや、そんなことはいい」
どうやら取引を持ちかけたかったようだったが、トリコの興味は別のところにあった。
「この花はどこで?」
「それは言えません」
「多分、自然には咲いてないよな。ずっと昔に絶滅した筈なんだから。誰かが種を持っていて育てたってことか?」
「それは存じ上げません」
「そうか」
トリコは観念したように言う。
「……ですがあなたは、美食屋四天王のトリコ様。あなたなら秘密を守ってもらえそうですね」
店員は続ける。
「そんなにお知りになりたいですか。この花がどこで育ったのか」
「ああ」
「なら、明日の陽の昇る前、ここへ」
そう答えると、手にメモを押し付けられる。
店員の笑顔は、さっさと出て行けと言っているように思えた。
「感謝する」
トリコはメモをポケットにしまい、花屋を出た。
翌日陽の昇る前、約束通りにそこを訪れたトリコを出迎えたのは1人の職員。
「本日の見学者様ですね。どうぞこちらへ」
職員は事務的にそれだけ告げ、一見何の変哲もない漆喰の壁のビルへ入っていく。トリコも後へ続いて入ると、受付などがある。どう見ても普通のオフィスビルだ。
ここでフラワアンを育てているというのか? そんな馬鹿な。
昨日花屋を出た後、そのままグルメ研究所のマンサム所長の許を訪れ、フラワアンのことをそれとなく聞いてみたのだが、彼は何も知らないと言っていた。
そのまま受付を通り抜け、エレベーターで2階へ上がる。
そういえば自分のことは何も聞かれておらず、身分を証明する物の提示も求められていないことに気づく。さて何かの罠か、上等だ、とトリコは思った。
「こちらが当社の工場となります。衛生管理が必要なため、こちらの部屋で服を着替えていただき、風のシャワーでゴミを吹き飛ばす必要があります」
「ああ」
言われた通りトリコは部屋に入り、服を着替える。トリコのサイズに見合う衛生服があったのには驚いた。
万が一のことを考え重要な物や高価な物は持ってこなかったが正解だったかもしれない。
「ではこちらへ。ここから先は自由に行動していただけます」
「そうなのか」
「ただし写真などは撮らないように願います」
着替えて部屋を出た後は壁がガラスになっている部屋に入り、強い風を吹き付けられる。これは食品工場ではよくある光景だろう。
それらを終えて1人で部屋を通り抜けると、考えてもいなかった光景が広がっており、思わず息を呑んだ。
「何だここは……!」
ここは小さなオフィスビルの筈だ。それが何故こんなに広いんだ?
トリコが見た光景はまるで草原のように緑がいっぱいに広がっている状態だった。
勿論ビルらしく向こう側には壁も見えるのだが、外からビルを見て得た印象よりはかなり広く思える。いや、確実にそうだろう。
困惑しながら右手に備え付けられていた階段を降りていき、その畑に足を踏み入れた。
「触らない方がいいよ」
「!?」
草原だと思っていたものはよく見れば畑で、きちんと畝があって緑が規則正しく手入れされていた。
しかし見たことのない植物ばかりでトリコが思わず手を伸ばすといきなり声がして、あまりに驚いて慌てた。
「だ、誰だ!?」
「レイシ。ここの工場長」
「工場……」
振り向けばいつの間にか男性がそこにいた。トリコと同じような衛生服を着ており、マスクもしているため、どんな人物なのかは外見からは判断が付かない。
「また見学者入れたんだ、これだからこの会社は嫌なんだよね」
「え、えーと……」
「何を見に来たの。どこから?」
「グルメタウンの花屋でフラワアンを見て」
「フラワアンか」
それだったらこっち、と言ってレイシは先に歩いていく。
その背中に向かって、俺はトリコだ、と名乗っていなかったことを思い出したので名乗ってみた。
「そう」
興味ないとでも言いたげな返事が返ってくる。
「君は運がいいよ」
「運がいい?」
「今までフラワアンを見に来た人はいなかったから」
それが何故「運がいい」に繋がるのか分からず、トリコは沈黙を返す。
「これ」
「!」
そう言って案内された一角に咲いていたのは確かにフラワアンだった。あの花屋で見た物、図鑑で見た物と同じだ。
フラワアンは見た目は可憐な花なのだが、食べると和菓子の餡のような味がするため「フラワアン」と名前が付いている。
トリコは食べてみたい衝動に駆られたが、それよりも知りたいことがあった。
「フラワアンは絶滅危惧種の筈だ。それを何故こんな所で育てている?」
「え? 公認だよ、IGOの」
「何だって!?」
さらっと答えるレイシに信じられないという声を出すトリコ。
「でも本当に貴重な物だから選ばれた人しか知ることはできない」
「まさか……」
「君は運がいいって言ったのはそういうこと」
昨日、あの花屋でフラワアンについて尋ねていなければ、トリコはここに来ることは叶わなかったのだという。
「でも、もうとっくに種なんかなかったんじゃ……」
「それは秘密」
僕の専売特許だから、とつれない返事。
「君にフラワアンをあげてもよかったんだけど、気が変わった」
「え!?」
「はい、これ」
「……これは?」
「種。植物の」
「それは分かる」
その申し出はいいのか悪いのか分からなかった。フラワアンを一度食べてみたいという気持ちになっていたからだ。
トリコは思わず手を出し、レイシのポケットから出てきたその種を受け取る。
「これは結構育てやすいから初心者でも大丈夫。水やりは土が乾いてから、あと暑すぎるところは苦手だからできるだけ明るい日陰で育ててやって」
「えーと」
「今から育てれば2ヶ月後には花が楽しめると思うよ。花が咲いたらまた来て」
そう言って追い出される、トリコにはこの種が、何の植物なのかという情報も与えられず。
仕方なく園芸用品の売っている店によって、じょうろなどを買い揃えてから帰宅した。
言われた通り2ヶ月後、彼から貰った種は無事に赤い花を咲かせた。茎の先に花が密集しており茎が折れそうにも見える。
トリコはその内のいくつかを手折り、以前と同じように陽の昇る前、漆喰の目立たないビルへ向かった。
「お待ちしておりました」
こちらへ、と職員が案内する方へついていく。
すると前回とは違い工場ではなく、どこかの会議室のような場所へ連れて行かれた。
職員がノックして扉を開けると、そこには誰かが既に座っていた。
「失礼いたします」
トリコは足早にその人に近づく。
彼が顔を上げたとき、あっと声を上げる。そうだ、あの時の。
「まさか……レイシか?」
「そうだよ」
「久しぶりだな」
「その様子を見ると無事に花が咲いたようだけど」
「ああ」
急く気持ちを抑えながら、トリコはレイシに花を差し出した。
「へえ……綺麗な花が咲いたね。随分育て方がよかったみたいだ」
ふっと笑みを見せる。
以前はマスクで全く見えなかったのだが、結構幼い顔立ちだ。
それをカバーするかのように少し冷たい響きのする声色のことが多いように感じたが、その笑顔はトリコにギャップを感じさせ胸を高鳴らせた。
「これはなんていう植物なんだ?」
「ノコギリソウ。傷薬にもなる花だよ」
「ノコギリソウか」
レイシは返そうとしてくるが、やる、とトリコは答える。
「家に帰ったらまだたくさんあるしな」
「そう。ありがとう」
そう言いながらレイシは机の上にその花を置く。
「ノコギリソウの花言葉、「勇敢」って言うんだ」
「へえ」
「本当はフラワアンをあげてもよかったんだけど、君にはその花言葉がよく似合いそうだったから」
そうだ、フラワアン。2ヶ月前のことだがすっかり忘れてしまっていた。
それだけトリコは園芸に夢中になれたということでもある。
「あのさ、レイシ」
「何?」
「よかったら他の花の育て方も教えてくれないか」
できれば食用がいいが、とトリコは冗談のように付け加えるが、いいよ、と即座に返事がくる。
「マジか? ありがとう」
「僕も少し興味があるんだ」
君に、と言うレイシの言葉はよく分からない。
それでもトリコとしては、彼に会う口実ができたようで、結構嬉しかった。
ノコギリソウ///勇敢