花(オムニバス)
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「クレス、今日も狩り行く?」
「ああ、行くけど」
「チェスター来れないって言ってたよ」
「え」
今日も平和なトーティスの村。
レイシは剣を提げるクレスのことが気になって声を掛けると、案の定、狩りに行こうとしていたらしい。
「何でも急にユークリッドに行かないといけない用事が出来たとか言ってたけど」
「そんな……本当に急だな」
レイシの情報にクレスは困ったように立ち止まる。
いくらクレスが剣を使えるからといって、トーティス村の南の森は決して安全ではない。時折魔物が出るのだ。
クレスとチェスター、2人居ればまだ危険も減るが、1人でも無理に行こうと考える程、クレスは愚かではなかった。
「ねえ、もしよかったら、俺も行きたいんだけど」
「え? レイシが? 何で」
「花」
「……ああ」
レイシはこの小さなトーティス村で花屋を営んでいた。たまにユークリッドにも売りに行っているらしい。
勿論自分の畑も持っておりそこでも花を育てているのだが、南の森にしか咲かない花があるとかで、クレスとチェスターの狩りに着いてくることもあった。
「そういうことなら、僕が1人で行って採ってくるよ。わざわざ危険を冒す必要はないよ」
「大丈夫だって、俺も戦えるから。大体クレスが1人で行くのが危ないって話だし」
「そんな弱くはないつもりだけど……」
「万が一ってことがあるだろ?」
レイシにそう言われ、クレスはその反対を押しきれず、そうだね、と漏らした。
「よし、決まり。武器取ってくるから待ってて」
「分かった」
すぐ近くの自宅に帰り、少ししてから戻ってくるレイシ。
腰に提げているのは剣、手に持っているのは杖。
「……法術使えたんだっけ? レイシ」
「練習中」
「なるほどね」
じゃあ行こうか、と2人は言いながら村を出る。南の森までは直ぐだ。
「今は外に出るだけで魔物も多いから、何かしら武器が扱えないとダメだと思ってさ」
「でも何で法術?」
「クレスが剣、チェスターが弓だから」
「そういう理由なのか」
今までレイシが南の森に同行した際には、クレスとチェスター、2人が居る時を選んでいた。また、せめて迷惑にならない様、小刀を持っていた。
それでも自分だって男だし何にも出来ないのもどうかと思うので、ひっそりと練習していたのだ。
「今日はどんな花を探すつもり?」
「そうだな。白とか青とか、寒色系の花が少ないから、そういう花が採ってこれればいいけど」
「なるほど」
「クレスは? 何が目標なんだ?」
「本当は猪を持って帰りたいんだけど、どうかな」
剣はこちらに向かってくる猪を仕留めるには良い武器だが、ウサギを獲るのは難しい。小さいし逃げるからだ。そういう動物はチェスターの弓に任せるに限る。
だから猪と言ったわけだが、あんまり大きな猪が向かってきても、クレス1人で倒せるかどうか。レイシだってどこまで戦力になるか分からないし。
それでも、何があってもレイシだけは護ろう。
そう考えながら、クレスは剣の柄をきゅっと握る。
「着いたな」
2人は南の森へたどり着く。いつもと変わらない人のいない静けさ、獣だけが存在する森。
「僕はレイシに着いていくよ」
「本当か? じゃああっちへ行こう」
あまり森の深くへは分け入らないよう注意を払いながら進む。
「あ、ウサギ」
「本当だ」
クレスが指を指す、レイシもつられて声を上げる。
おもむろにレイシは杖を握ると、法術を唱え始めた。
「えいっ! ピコハン!」
レイシの言葉と同時にピコピコハンマーがウサギの上に降る。
見事に命中するとウサギはすっかり動かなくなった。
「レイシ、すごいね!」
「これくらいなら出来るようになった。他のもっと有用そうなものはまだだけど」
「いや、狩りなら十分だよ」
クレスはウサギを拾い上げる。足を掴んでいるので、気絶から立ち直ったとしても逃げることはできない。
とりあえずこれでチェスターへの土産は出来た。
「そうそう、花を探してるんだった」
「ごめんね、邪魔して」
「いや、ウサギが獲れてよかった」
俺の法術もそれなりに使えることが分かったし、とレイシは笑う。
「でも猪には効かなそうだよな」
「そう?」
「猪大きいからさ。なんか小さい獣には効果ありそうだけど、大きいとこんな物では何ともならなさそう」
大丈夫と答えるクレス。
「猪が出た時は僕が何とかするよ。……サポートはしてもらえたら嬉しいけど」
「勿論! クレスを置いて1人で逃げるとかするわけないだろ」
「ありがとう」
相変わらず辺りを見回しながら、そんなことを話しながら歩いていくと、いつの間にか少し開けた場所にたどり着いた。
きょろきょろと何かを探しているらしいレイシは、あっと突然小さく声を上げる。
「何かあった? レイシ」
「これ。俺が探してたやつ」
「ん?」
小走りするレイシの後を歩いて着いていくクレス。
「これは……」
「ミスミソウ。綺麗な花でしょ?」
「うん、綺麗なラベンダー色だ」
丁度俺が探してた花なんだよね、とレイシは言う。確かに寒色系で小さくとも凛々しく咲いているような花だ。
レイシは持ってきた袋を広げ、根っこから引き抜いたミスミソウをその中に入れる。
その間もクレスは辺りの警戒を怠らない。
「あ、あっちにもミスミソウが」
そう言いながらクレスはレイシから数m離れる。
そして足元のミスミソウを見て、少し考えた後、花の1本だけを手折った。
「? クレス、何してんの?」
「これ、」
クレスはレイシの髪の毛をかき上げる。その手の優しさにレイシの胸はきゅっと縮む。
そして耳の上、丁度髪の毛を分けたところに、手に持っていたミスミソウの1本を挿した。
「うん、やっぱり似合う」
「え? 何いきなり、」
「ミスミソウ、レイシに似合うと思って」
「!」
そう言いながらクレスは笑う。その顔をするのは反則だ、もうレイシは何も反論できないのだから。
それでも恥ずかしさの余り言葉を絞り出す。
「そういうの、女の子にやるもんだろ……」
「でもここにはレイシしか居ないし、僕はレイシに似合うと思ったから」
可愛いよ。
クレスの何の飾り気もないその言葉が、レイシの羞恥心を更に煽る。
「……帰ろう、クレス」
「もういいのかい? まだミスミソウ1つしか採ってないのに」
「ああ、今日はいいや」
レイシは思った、自分は頬まで真っ赤になっているだろうと。それを見たところで鈍感な彼は特に何とも思わないだろうが。
俯いたままクレスの腕を掴む。
「レイシ?」
「何も聞かないで」
「わかった」
きっと彼は本当は何も分かっていないだろう。でもそれでいい、とレイシは思う。
どうして自分がこんな風に思うのか、それを彼に話す日は、きっとそう遠くない筈だから。
ミスミソウ///信頼・優雅・高貴
「ああ、行くけど」
「チェスター来れないって言ってたよ」
「え」
今日も平和なトーティスの村。
レイシは剣を提げるクレスのことが気になって声を掛けると、案の定、狩りに行こうとしていたらしい。
「何でも急にユークリッドに行かないといけない用事が出来たとか言ってたけど」
「そんな……本当に急だな」
レイシの情報にクレスは困ったように立ち止まる。
いくらクレスが剣を使えるからといって、トーティス村の南の森は決して安全ではない。時折魔物が出るのだ。
クレスとチェスター、2人居ればまだ危険も減るが、1人でも無理に行こうと考える程、クレスは愚かではなかった。
「ねえ、もしよかったら、俺も行きたいんだけど」
「え? レイシが? 何で」
「花」
「……ああ」
レイシはこの小さなトーティス村で花屋を営んでいた。たまにユークリッドにも売りに行っているらしい。
勿論自分の畑も持っておりそこでも花を育てているのだが、南の森にしか咲かない花があるとかで、クレスとチェスターの狩りに着いてくることもあった。
「そういうことなら、僕が1人で行って採ってくるよ。わざわざ危険を冒す必要はないよ」
「大丈夫だって、俺も戦えるから。大体クレスが1人で行くのが危ないって話だし」
「そんな弱くはないつもりだけど……」
「万が一ってことがあるだろ?」
レイシにそう言われ、クレスはその反対を押しきれず、そうだね、と漏らした。
「よし、決まり。武器取ってくるから待ってて」
「分かった」
すぐ近くの自宅に帰り、少ししてから戻ってくるレイシ。
腰に提げているのは剣、手に持っているのは杖。
「……法術使えたんだっけ? レイシ」
「練習中」
「なるほどね」
じゃあ行こうか、と2人は言いながら村を出る。南の森までは直ぐだ。
「今は外に出るだけで魔物も多いから、何かしら武器が扱えないとダメだと思ってさ」
「でも何で法術?」
「クレスが剣、チェスターが弓だから」
「そういう理由なのか」
今までレイシが南の森に同行した際には、クレスとチェスター、2人が居る時を選んでいた。また、せめて迷惑にならない様、小刀を持っていた。
それでも自分だって男だし何にも出来ないのもどうかと思うので、ひっそりと練習していたのだ。
「今日はどんな花を探すつもり?」
「そうだな。白とか青とか、寒色系の花が少ないから、そういう花が採ってこれればいいけど」
「なるほど」
「クレスは? 何が目標なんだ?」
「本当は猪を持って帰りたいんだけど、どうかな」
剣はこちらに向かってくる猪を仕留めるには良い武器だが、ウサギを獲るのは難しい。小さいし逃げるからだ。そういう動物はチェスターの弓に任せるに限る。
だから猪と言ったわけだが、あんまり大きな猪が向かってきても、クレス1人で倒せるかどうか。レイシだってどこまで戦力になるか分からないし。
それでも、何があってもレイシだけは護ろう。
そう考えながら、クレスは剣の柄をきゅっと握る。
「着いたな」
2人は南の森へたどり着く。いつもと変わらない人のいない静けさ、獣だけが存在する森。
「僕はレイシに着いていくよ」
「本当か? じゃああっちへ行こう」
あまり森の深くへは分け入らないよう注意を払いながら進む。
「あ、ウサギ」
「本当だ」
クレスが指を指す、レイシもつられて声を上げる。
おもむろにレイシは杖を握ると、法術を唱え始めた。
「えいっ! ピコハン!」
レイシの言葉と同時にピコピコハンマーがウサギの上に降る。
見事に命中するとウサギはすっかり動かなくなった。
「レイシ、すごいね!」
「これくらいなら出来るようになった。他のもっと有用そうなものはまだだけど」
「いや、狩りなら十分だよ」
クレスはウサギを拾い上げる。足を掴んでいるので、気絶から立ち直ったとしても逃げることはできない。
とりあえずこれでチェスターへの土産は出来た。
「そうそう、花を探してるんだった」
「ごめんね、邪魔して」
「いや、ウサギが獲れてよかった」
俺の法術もそれなりに使えることが分かったし、とレイシは笑う。
「でも猪には効かなそうだよな」
「そう?」
「猪大きいからさ。なんか小さい獣には効果ありそうだけど、大きいとこんな物では何ともならなさそう」
大丈夫と答えるクレス。
「猪が出た時は僕が何とかするよ。……サポートはしてもらえたら嬉しいけど」
「勿論! クレスを置いて1人で逃げるとかするわけないだろ」
「ありがとう」
相変わらず辺りを見回しながら、そんなことを話しながら歩いていくと、いつの間にか少し開けた場所にたどり着いた。
きょろきょろと何かを探しているらしいレイシは、あっと突然小さく声を上げる。
「何かあった? レイシ」
「これ。俺が探してたやつ」
「ん?」
小走りするレイシの後を歩いて着いていくクレス。
「これは……」
「ミスミソウ。綺麗な花でしょ?」
「うん、綺麗なラベンダー色だ」
丁度俺が探してた花なんだよね、とレイシは言う。確かに寒色系で小さくとも凛々しく咲いているような花だ。
レイシは持ってきた袋を広げ、根っこから引き抜いたミスミソウをその中に入れる。
その間もクレスは辺りの警戒を怠らない。
「あ、あっちにもミスミソウが」
そう言いながらクレスはレイシから数m離れる。
そして足元のミスミソウを見て、少し考えた後、花の1本だけを手折った。
「? クレス、何してんの?」
「これ、」
クレスはレイシの髪の毛をかき上げる。その手の優しさにレイシの胸はきゅっと縮む。
そして耳の上、丁度髪の毛を分けたところに、手に持っていたミスミソウの1本を挿した。
「うん、やっぱり似合う」
「え? 何いきなり、」
「ミスミソウ、レイシに似合うと思って」
「!」
そう言いながらクレスは笑う。その顔をするのは反則だ、もうレイシは何も反論できないのだから。
それでも恥ずかしさの余り言葉を絞り出す。
「そういうの、女の子にやるもんだろ……」
「でもここにはレイシしか居ないし、僕はレイシに似合うと思ったから」
可愛いよ。
クレスの何の飾り気もないその言葉が、レイシの羞恥心を更に煽る。
「……帰ろう、クレス」
「もういいのかい? まだミスミソウ1つしか採ってないのに」
「ああ、今日はいいや」
レイシは思った、自分は頬まで真っ赤になっているだろうと。それを見たところで鈍感な彼は特に何とも思わないだろうが。
俯いたままクレスの腕を掴む。
「レイシ?」
「何も聞かないで」
「わかった」
きっと彼は本当は何も分かっていないだろう。でもそれでいい、とレイシは思う。
どうして自分がこんな風に思うのか、それを彼に話す日は、きっとそう遠くない筈だから。
ミスミソウ///信頼・優雅・高貴