花(オムニバス)
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いつも思うのは、彼が溜息を吐く時、そこには誰かの影があったということだ。
彼は決して、自分自身に関する悩みごとで、そんなに深く考え込んだことはない。
そしてカインが何故彼にそんなに詳しいのかといえば、それは勿論、常に目で追っているからだった。
「また悩みか? レイシ」
「ああ……カイン」
思案の世界から彼を無理やりにでも引きずりだすのは、カインにとっては少し楽しいことであった。いや、彼にそれをそのまま告げてしまえば、ただの性格の悪い奴ということになるのだが。
けれど寝起きのように、カインのことを認識するまでに少し時間がかかるというのは、あまり面白くなかった。
「今度はどんな悩みだ。聞かせてみろ」
「いや、いいよ。大したことじゃないし」
「とは言っても、レイシが悩みを持っているのは気になるし、大体レイシは悩み始めたら他のことに気が回らなくなるだろう」
「はは……カインには全部バレてるね」
そう言って彼は照れたように笑う。――そうなのだ。
そう、カインはレイシのことを、よく知り尽くしている。
それなのに、だ。
「あのさ、セシルがこの間、本が欲しいと言っていてね」
「本? どんな」
「何だったかな。確か――」
竜騎士による竜の飼い方、と彼は目線を右上に向けながら言った。
「何だそれは……何のために? まさかあいつ、竜騎士になりたいのか?」
「まさか、そんなことは言ってなかったけど」
カインは途端に不愉快になる。奴はまだ、下らないことを言い続けているのか。
セシルは暗黒騎士だからそもそも他人との関わりをあまり良しとしない。ただしカインとレイシに限っては別だ。ことカインに関しては、必要以上の関わりを求めてくる。
カインは竜騎士であり竜騎士は他にも何人かいるが、カインの性格として孤独を好む部分がある。そのため、あまり同じ竜騎士とは関わりたくない。長い付き合いのセシルと、特に想いを寄せているレイシが例外だ。
レイシは白魔道士であり、彼ら彼女らは他人と良いコミュニケーションを取ることが望まれる。そのためレイシには友人が多く、いつも周りには誰かいる印象だが、本当のことを打ち明けられるのはカインだけだと言う。レイシが焦がれるのはセシルだから、セシルには多くのことは話せない。
つまりこの3人は、微妙なバランスの中で、"友人関係"を保っている。
「そう、それで。その本が欲しいと思ったんだけれど、バロンの図書館にもなかったんだ。ここにもないんだったら、もうこの世界にはないんじゃないかと思って」
「むしろ、セシルの勝手な想像じゃないか? そんな本はそもそも存在しないとか」
「いやさすがにそれはないと思うけど」
レイシは甘い。そういうところだけは、カインも嫌いだった。
セシルに関することとなると、彼はちょっとだけ、おかしくなる。
大体竜騎士であるカインですら聞いたことのない本なのだから、適当に言ってあしらったとしか思えない。
「……はあ、まあいいや。カインにそう言ってもらえたら、ちょっと楽になったかも」
「そうか? それならよかった」
「そうだ。最近、部屋に花を飾るのが趣味になって」
「花? 女趣味だな」
「そう言われると思った」
実はさ、実家が花屋なんだよね。
そう言って椅子から立ち上がるレイシについていくカイン。
セシルのこととなると周りが見えなくなるのは嫌いだが、一しきりカインに吐き出してしまえばすぐに明るくなるのは、好きなところだ。
「そうなのか。知らなかった」
「まあ誰にも言ったことなかったからね。……花を飾ると何だかね、部屋も明るくなるし、気分も明るくなる気がするんだ」
螺旋階段を登り、レイシの部屋にたどり着く。
カインは、目を閉じていてさえ、自室からこの部屋にたどり着ける自信がある。もう何度も通った場所だ。
「ほら」
そう言って開け放たれたレイシの部屋。
見慣れた光景の中に、一輪の花を認める。
「黄色の……チューリップ、か?」
「そう」
チューリップか。カインは自室に花言葉の本があったことを思い出し、後で花言葉でも調べて教えてやるか、と思った。
恐らくレイシのことだから、花言葉など気にも留めていないのだろう。
「この間までは赤い花を飾ってたんだけどね。別の色はどうかなって思って」
「確かに、この部屋は白一色だから、色があった方がいいな」
「本当? よかった。カインにそう言ってもらえて」
そう笑う、そのレイシがこのまま自分のものになればいいのに、とカインは思った。
黄チューリップ///望みのない恋
彼は決して、自分自身に関する悩みごとで、そんなに深く考え込んだことはない。
そしてカインが何故彼にそんなに詳しいのかといえば、それは勿論、常に目で追っているからだった。
「また悩みか? レイシ」
「ああ……カイン」
思案の世界から彼を無理やりにでも引きずりだすのは、カインにとっては少し楽しいことであった。いや、彼にそれをそのまま告げてしまえば、ただの性格の悪い奴ということになるのだが。
けれど寝起きのように、カインのことを認識するまでに少し時間がかかるというのは、あまり面白くなかった。
「今度はどんな悩みだ。聞かせてみろ」
「いや、いいよ。大したことじゃないし」
「とは言っても、レイシが悩みを持っているのは気になるし、大体レイシは悩み始めたら他のことに気が回らなくなるだろう」
「はは……カインには全部バレてるね」
そう言って彼は照れたように笑う。――そうなのだ。
そう、カインはレイシのことを、よく知り尽くしている。
それなのに、だ。
「あのさ、セシルがこの間、本が欲しいと言っていてね」
「本? どんな」
「何だったかな。確か――」
竜騎士による竜の飼い方、と彼は目線を右上に向けながら言った。
「何だそれは……何のために? まさかあいつ、竜騎士になりたいのか?」
「まさか、そんなことは言ってなかったけど」
カインは途端に不愉快になる。奴はまだ、下らないことを言い続けているのか。
セシルは暗黒騎士だからそもそも他人との関わりをあまり良しとしない。ただしカインとレイシに限っては別だ。ことカインに関しては、必要以上の関わりを求めてくる。
カインは竜騎士であり竜騎士は他にも何人かいるが、カインの性格として孤独を好む部分がある。そのため、あまり同じ竜騎士とは関わりたくない。長い付き合いのセシルと、特に想いを寄せているレイシが例外だ。
レイシは白魔道士であり、彼ら彼女らは他人と良いコミュニケーションを取ることが望まれる。そのためレイシには友人が多く、いつも周りには誰かいる印象だが、本当のことを打ち明けられるのはカインだけだと言う。レイシが焦がれるのはセシルだから、セシルには多くのことは話せない。
つまりこの3人は、微妙なバランスの中で、"友人関係"を保っている。
「そう、それで。その本が欲しいと思ったんだけれど、バロンの図書館にもなかったんだ。ここにもないんだったら、もうこの世界にはないんじゃないかと思って」
「むしろ、セシルの勝手な想像じゃないか? そんな本はそもそも存在しないとか」
「いやさすがにそれはないと思うけど」
レイシは甘い。そういうところだけは、カインも嫌いだった。
セシルに関することとなると、彼はちょっとだけ、おかしくなる。
大体竜騎士であるカインですら聞いたことのない本なのだから、適当に言ってあしらったとしか思えない。
「……はあ、まあいいや。カインにそう言ってもらえたら、ちょっと楽になったかも」
「そうか? それならよかった」
「そうだ。最近、部屋に花を飾るのが趣味になって」
「花? 女趣味だな」
「そう言われると思った」
実はさ、実家が花屋なんだよね。
そう言って椅子から立ち上がるレイシについていくカイン。
セシルのこととなると周りが見えなくなるのは嫌いだが、一しきりカインに吐き出してしまえばすぐに明るくなるのは、好きなところだ。
「そうなのか。知らなかった」
「まあ誰にも言ったことなかったからね。……花を飾ると何だかね、部屋も明るくなるし、気分も明るくなる気がするんだ」
螺旋階段を登り、レイシの部屋にたどり着く。
カインは、目を閉じていてさえ、自室からこの部屋にたどり着ける自信がある。もう何度も通った場所だ。
「ほら」
そう言って開け放たれたレイシの部屋。
見慣れた光景の中に、一輪の花を認める。
「黄色の……チューリップ、か?」
「そう」
チューリップか。カインは自室に花言葉の本があったことを思い出し、後で花言葉でも調べて教えてやるか、と思った。
恐らくレイシのことだから、花言葉など気にも留めていないのだろう。
「この間までは赤い花を飾ってたんだけどね。別の色はどうかなって思って」
「確かに、この部屋は白一色だから、色があった方がいいな」
「本当? よかった。カインにそう言ってもらえて」
そう笑う、そのレイシがこのまま自分のものになればいいのに、とカインは思った。
黄チューリップ///望みのない恋