二人暮らし(dr/臨也)
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「ねえ、臨也?」
「んー?」
「もうすぐ、俺たちが一緒に住み始めて1年じゃない?」
「……そういえばそうだね」
俺の問いかけに、本を読んでいた臨也は顔を上げた。
「早いね」
「ついでに付き合い始めてそろそろ3年」
光陰矢のごとしとはよく言ったものだ。意味はあんまりよく分かってないけど。
それでも区切りの様な言葉を言えば、付き合い立ての往時のことを、何となく思い出す。
「あの頃はさー、全然会えなかったよね」
「俺も澪士も忙しかったからね」
「で、会ったら会ったで、ずっと一緒に居たよね」
「なんか、バランスおかしかったよね」
そんなことを話しながら、俺はより深く、その頃のことを思い出していった。
俺と臨也が初めて出会ったのは新宿だった。
当時、俺はまだ新入社員で、ストレスも多くすっかり酒に溺れた日々を送っていた。
渋谷に本社を構えるそれなりに大きい会社の営業をやっており、夜は先輩に連れられ接待に付き合うことも多かったが、そうでなくたって俺は肝臓をいじめぬこうとひたすら夜の新宿に通っていた。
そんな中、俺は新宿によく居る人たちに噂されるようになった。なんか変わった奴がいると。
自分で言うのも何だが、男にしては割と綺麗な顔をしていると思う。勿論それは自覚しているわけで、それを分かっていて、夜の新宿、週に3日は酔い潰れていた。
それを放っておく人がいないのも、分かっていた。
「君、澪士でしょ?」
「……ん?」
ペットボトルの水を与えられ、二日酔いに効くというドリンク剤を与えられ。
いつもと違う、何だか筋骨隆々の男たちに囲まれていた俺は多少怯えていたのだが、そこに現れた黒い影。
あっという間に男たちをナイフで制し、そこのコンビニで買ってきたらしい袋をポケットから取り出して手渡されたのだ。
「最近、有名だよ」
その得体の知れない男に言われ、俺の中には2つの思いが駆け巡った。
まず1つ目。それは俺の今後のことだ。俺はしがない会社員であり、接待のない日にも酒に溺れたくて新宿を渡り歩いているだけである。決して借金はしてないし、派手なお姉さんのいる所で派手に飲み食いしたわけではない。けれどこの行為が会社に伝われば少なからず今の地位は揺らぐだろう。だから、「有名」と言われて激しく動揺した。
次に2つ目。この男は何者なのだろうということだ。普段、俺を無粋に誘う声は多いが、今日の男たちは明らかに違った。下手をすれば今頃海の底だったかもしれない。で、そんな男たちを簡単に圧してしまった男は、更にやばいのではないか。身体だけで済めばいいけど。
そんな風に色々考えていると、苛立ったのか、男の方が先に口を開いた。
「あのさ、あんまり危ないことしない方がいいよ?」
「危ないこと……って?」
「夜の新宿で酔い潰れるとか。何があっても文句は言えないよ」
あまりに新宿に精通したような言い方をするので、俺は思わず、笑う。
「ねえ、あんたの名前は? 何て言うの?」
「臨也。折原臨也」
「ふうん、いざや。何で俺のこと助けてくれたの?」
「……それは」
早くもドリンク剤が効いてきたのか、さっきよりは大分意識がクリアになった。
自分が何を言っているかも、自分で理解できるようになってきた。
「あまりに綺麗だったから」
「……?」
今まで俺に背を向けていた男はぱっと向き直り、俺の顎を掴んで持ち上げる。
「その可愛い顔を汚したくないんだったら、もう二度と、新宿に立ち入らないべきだよ。……澪士」
「それは無理かも」
俺の取引先は新宿に多いし、となぜか突然真剣な返答をする。
「呆れた。それで普通の会社員なわけ?」
「大正解」
「それなら尚更。夜の新宿、危ないの知ってるでしょ? あんたみたいなのには」
「じゃあ守ってよ」
「……はあ?」
大分自分の言っていることは分かるようになってきたものの、制御が出来るかどうかはまた別の話だ。
俺自身も考えていないような言葉がぺらぺらと滑り出す。
「俺、新宿好きなんだよ。この雑多な感じが、もう誰も誰のことも気にしないで、自分の好きに生きてるような感じが。でもそこにものすごく強い個性が詰まってて、それがこの強烈な街のネオンの1つになってる」
呂律もあまり回っていない。
「いざやもそうでしょ? 新宿に詳しそうだもの」
「……詳しくないとは言わないけど」
「じゃあ、想いは1つってことで」
ドリンク剤は地面に置き、鞄とペットボトルを持ったまま、片方の手を臨也に向かって差し出す。
その意味が彼は分かっていなかったようだったが、一瞬の間の後にぱっと引かれ、俺を立たせてくれる。
「はあ。あんた多分馬鹿だよ。澪士」
「そうかも」
「でも面白いね」
付き合う? と。
「付き合う? 誰と?」
「俺と」
「いいよ」
新宿の暗い路地の中、肩を寄せ合って俺たちは馬鹿なことを言い、笑う。
「そんな軽くていいんだ?」
「別に減るもんじゃねーし。ま、今彼女もいないし、臨也と一緒に居たら、面白いこと起きそうだし」
「彼女いないんだ。まあアル中に彼女いたら可哀想だよね」
「飽きるまで一緒に居てやってもいいよ」
「はいはい」
新宿の駅の近くまで送られ、ここからは分かるから、と俺は答える。
まだ頭の芯は酒にやられているが、記憶は何とか留めておけそうだ。
「また俺に会いたくなったら新宿来て」
「ん。明日また来る」
「少し肝臓休めた方がいいんじゃない?」
「いざや、おやすみ」
俺は臨也の頬に触れるだけのキスを残し、終電へと向かう人々の群れに紛れる。
そういえば携帯番号聞いてなかったな、と気づいたのは、翌朝のことだった。
「……今考えたら、とんでもない話だよな」
振り返ってみるととてつもない黒歴史だ。まだ付き合っているからいいけど。
これで別れていたとしたって、友達に笑い話として話すこともできないだろう。
「確かに。これでよく続くよね」
「この適当さ加減が良いってことなのかな……?」
人の愛の形には千差万別あること、俺も知っている。世の中には羨まれるような、完全と思しきそれがあることも。
でも俺たちの場合は、多分誰の手本にもならないだろう。出会い方が特殊だったし、ちょっと頭がおかしかったなと思えるからだ。
「でもいつの間にか、臨也と一緒に居るのが当たり前になったもんなー」
こうして一緒に住んで、たまに休みが合えば遠出して。
描いていた幸せな日常に少しずつ近づいている、気がする。隣は女の子ではないけれど。
「まあ俺も、澪士に出会えてよかったなって思うよ」
「それは良かった」
「これからもずっとそう思うと思う」
この愛の形は可視化できれば、多分、とんでもなく歪な形をしているだろう。でも俺たちにはそれが丁度居心地が良かった。
いつの間にか傍にいるようになった、それが丁度よかった。
そんな幸せって、なかなか出会えないものじゃないだろうか。
「んー?」
「もうすぐ、俺たちが一緒に住み始めて1年じゃない?」
「……そういえばそうだね」
俺の問いかけに、本を読んでいた臨也は顔を上げた。
「早いね」
「ついでに付き合い始めてそろそろ3年」
光陰矢のごとしとはよく言ったものだ。意味はあんまりよく分かってないけど。
それでも区切りの様な言葉を言えば、付き合い立ての往時のことを、何となく思い出す。
「あの頃はさー、全然会えなかったよね」
「俺も澪士も忙しかったからね」
「で、会ったら会ったで、ずっと一緒に居たよね」
「なんか、バランスおかしかったよね」
そんなことを話しながら、俺はより深く、その頃のことを思い出していった。
俺と臨也が初めて出会ったのは新宿だった。
当時、俺はまだ新入社員で、ストレスも多くすっかり酒に溺れた日々を送っていた。
渋谷に本社を構えるそれなりに大きい会社の営業をやっており、夜は先輩に連れられ接待に付き合うことも多かったが、そうでなくたって俺は肝臓をいじめぬこうとひたすら夜の新宿に通っていた。
そんな中、俺は新宿によく居る人たちに噂されるようになった。なんか変わった奴がいると。
自分で言うのも何だが、男にしては割と綺麗な顔をしていると思う。勿論それは自覚しているわけで、それを分かっていて、夜の新宿、週に3日は酔い潰れていた。
それを放っておく人がいないのも、分かっていた。
「君、澪士でしょ?」
「……ん?」
ペットボトルの水を与えられ、二日酔いに効くというドリンク剤を与えられ。
いつもと違う、何だか筋骨隆々の男たちに囲まれていた俺は多少怯えていたのだが、そこに現れた黒い影。
あっという間に男たちをナイフで制し、そこのコンビニで買ってきたらしい袋をポケットから取り出して手渡されたのだ。
「最近、有名だよ」
その得体の知れない男に言われ、俺の中には2つの思いが駆け巡った。
まず1つ目。それは俺の今後のことだ。俺はしがない会社員であり、接待のない日にも酒に溺れたくて新宿を渡り歩いているだけである。決して借金はしてないし、派手なお姉さんのいる所で派手に飲み食いしたわけではない。けれどこの行為が会社に伝われば少なからず今の地位は揺らぐだろう。だから、「有名」と言われて激しく動揺した。
次に2つ目。この男は何者なのだろうということだ。普段、俺を無粋に誘う声は多いが、今日の男たちは明らかに違った。下手をすれば今頃海の底だったかもしれない。で、そんな男たちを簡単に圧してしまった男は、更にやばいのではないか。身体だけで済めばいいけど。
そんな風に色々考えていると、苛立ったのか、男の方が先に口を開いた。
「あのさ、あんまり危ないことしない方がいいよ?」
「危ないこと……って?」
「夜の新宿で酔い潰れるとか。何があっても文句は言えないよ」
あまりに新宿に精通したような言い方をするので、俺は思わず、笑う。
「ねえ、あんたの名前は? 何て言うの?」
「臨也。折原臨也」
「ふうん、いざや。何で俺のこと助けてくれたの?」
「……それは」
早くもドリンク剤が効いてきたのか、さっきよりは大分意識がクリアになった。
自分が何を言っているかも、自分で理解できるようになってきた。
「あまりに綺麗だったから」
「……?」
今まで俺に背を向けていた男はぱっと向き直り、俺の顎を掴んで持ち上げる。
「その可愛い顔を汚したくないんだったら、もう二度と、新宿に立ち入らないべきだよ。……澪士」
「それは無理かも」
俺の取引先は新宿に多いし、となぜか突然真剣な返答をする。
「呆れた。それで普通の会社員なわけ?」
「大正解」
「それなら尚更。夜の新宿、危ないの知ってるでしょ? あんたみたいなのには」
「じゃあ守ってよ」
「……はあ?」
大分自分の言っていることは分かるようになってきたものの、制御が出来るかどうかはまた別の話だ。
俺自身も考えていないような言葉がぺらぺらと滑り出す。
「俺、新宿好きなんだよ。この雑多な感じが、もう誰も誰のことも気にしないで、自分の好きに生きてるような感じが。でもそこにものすごく強い個性が詰まってて、それがこの強烈な街のネオンの1つになってる」
呂律もあまり回っていない。
「いざやもそうでしょ? 新宿に詳しそうだもの」
「……詳しくないとは言わないけど」
「じゃあ、想いは1つってことで」
ドリンク剤は地面に置き、鞄とペットボトルを持ったまま、片方の手を臨也に向かって差し出す。
その意味が彼は分かっていなかったようだったが、一瞬の間の後にぱっと引かれ、俺を立たせてくれる。
「はあ。あんた多分馬鹿だよ。澪士」
「そうかも」
「でも面白いね」
付き合う? と。
「付き合う? 誰と?」
「俺と」
「いいよ」
新宿の暗い路地の中、肩を寄せ合って俺たちは馬鹿なことを言い、笑う。
「そんな軽くていいんだ?」
「別に減るもんじゃねーし。ま、今彼女もいないし、臨也と一緒に居たら、面白いこと起きそうだし」
「彼女いないんだ。まあアル中に彼女いたら可哀想だよね」
「飽きるまで一緒に居てやってもいいよ」
「はいはい」
新宿の駅の近くまで送られ、ここからは分かるから、と俺は答える。
まだ頭の芯は酒にやられているが、記憶は何とか留めておけそうだ。
「また俺に会いたくなったら新宿来て」
「ん。明日また来る」
「少し肝臓休めた方がいいんじゃない?」
「いざや、おやすみ」
俺は臨也の頬に触れるだけのキスを残し、終電へと向かう人々の群れに紛れる。
そういえば携帯番号聞いてなかったな、と気づいたのは、翌朝のことだった。
「……今考えたら、とんでもない話だよな」
振り返ってみるととてつもない黒歴史だ。まだ付き合っているからいいけど。
これで別れていたとしたって、友達に笑い話として話すこともできないだろう。
「確かに。これでよく続くよね」
「この適当さ加減が良いってことなのかな……?」
人の愛の形には千差万別あること、俺も知っている。世の中には羨まれるような、完全と思しきそれがあることも。
でも俺たちの場合は、多分誰の手本にもならないだろう。出会い方が特殊だったし、ちょっと頭がおかしかったなと思えるからだ。
「でもいつの間にか、臨也と一緒に居るのが当たり前になったもんなー」
こうして一緒に住んで、たまに休みが合えば遠出して。
描いていた幸せな日常に少しずつ近づいている、気がする。隣は女の子ではないけれど。
「まあ俺も、澪士に出会えてよかったなって思うよ」
「それは良かった」
「これからもずっとそう思うと思う」
この愛の形は可視化できれば、多分、とんでもなく歪な形をしているだろう。でも俺たちにはそれが丁度居心地が良かった。
いつの間にか傍にいるようになった、それが丁度よかった。
そんな幸せって、なかなか出会えないものじゃないだろうか。