二人暮らし(dr/臨也)
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その日、何だか俺は、そわそわしていた。
いつものように臨也からの着信を知らせる音が鳴る。着信といってもメールだが。
ぱっとメール画面を開くと、一言、
『明後日19時、新宿で』
「……うーん」
そういう文面は珍しくない。彼はよくチャットをやっている――遠巻きにしか見たことがないが――、その中では結構饒舌な様だけれど。
普段、帰ってくる時だって、『帰る』くらいしか寄越さないことがあるし。一体いつどこから『帰る』のかくらい教えてほしいのだが。もう慣れたけど。
俺はソファに身を預け、天井を見ながら考えた。明後日といえば土曜日だ。
「土曜日の夜、19時か」
何でかなのか分からないが、そのメールを見た瞬間、いつもと違う何かを感じた。
決して文体が異なるわけではない。家に帰る時でなくて外食してから帰ろうという時もこういうメールを寄越す。その素っ気なさは嫌いじゃない。
でもとにかく、いつもと何か違うのか。それが何なのか、まだぼんやりとし過ぎていて、言葉にしようと逃げていくのだけれど。
「……まあ、その時になれば分かるか」
もしかしたら分からない間に忘れてしまうかもしれないが、それはそれ。
そう切り替え、俺は洗い物をするために立ち上がった。
そうして迎えた土曜日の夜18時半。
いつもの待ち合わせ場所に着いたのだが、こんなにも待ち合わせに早く着いたのは初めてかもしれない。というほど早くはないのだが。
そして俺は、この間の「なんか変」の答えを、ようやく見つけていた。
「……前々日から予定入れるの、珍しいな」
普段、臨也は今日の予定しか言わない。メールだってそうだ。これから帰るとか、ご飯に行こうとか。
口頭で「今週は忙しい」とか言う時もあるけれど、メールで「来週ご飯に行こう」と言われたことはない。
「つまり、これは相当大事な用ってことだ」
時刻を鑑みるに、恐らく夕食を共にする誘いだろう。それは間違ってはいない筈だ。
では当日ではなく前々日にメールする用とは何か? ……大体想像は付く。
普段から臨也は謎のコネを使ってかなり並んでいる店にするりと入ったりすることはあるが、それもできない、正攻法でしか入れない店ということだろう。もしくは予約をちゃんと取ったか。
そうなるとファミレスとか只のチェーンの居酒屋ってことは有り得ない。
つまり、だ。
「俺は適当な格好はしてこれない、と」
今日は白いシャツに綺麗めの黒いパンツを合わせてきている。念の為ジャケットも持ってきているという気合の入れようだ。もし想定しているような場所ではなくて臨也に何か言われたら「肌寒い時期だから」と答えるつもりだ。実際そうだし。
そこまで言い訳を完璧に考えて、さてまだ来ないだろうな、と思っていると、人影が1つこちらへ向かってきた。
「澪士、お待たせ」
「え、臨也、早いね」
相変わらず黒くてよく分からなかったが、近くへ来るとそれが臨也だと分かった。
心なしか彼もいつものようなカジュアルな服装ではないように思えて、どきりと胸が鳴る。
「俺、格好のこと何か言ったっけ?」
「え? いや何も。もしかしてドレスコードある?」
「いや、完璧だよ、澪士。その服で」
行こうか、と微笑む彼は、何だか別人に見えた。俺はこくりと頷いて後に着いていく。
そしてその服装のチョイスが間違っていなかったのだ、と気づいたのは、高層ビルの中のレストランに着いてからだった。
「わあ……!」
店員の後に着いていく俺たち。女子のように思わず息を呑んだのは理由がある。
壁部分が全面窓になっていて、夜景が見えるようになっていたのだ。
奥の窓際の席へ案内される。手が届きそうな所に夜景が見えていて、店員さんが去るのと同時に、マナー違反だと知りつつも外を覗き込んだ。
「喜んでもらえた?」
「勿論!」
臨也のスマートな誘いに最早酔い知れるしかなかった。男の俺でもこんなにクラクラくるのに、女性がやられたらもう落ちるしかないだろう。
そんなことを考えているとグラスに食前酒が注がれた。俺たちは目で乾杯し合い、これからくるであろう甘美な世界を予感し静かに香りと味を楽しんだ。
食事中、臨也とはそれ程話さなかった。こんな場所に連れてこられて緊張しているのもあるが、男同士でなぜこんな所に来ているのだろう、と思われるのが怖かったのもある。
ただ食事はとても美味しかった。眠らない街新宿の夜景を臨みながら食べるステーキは、いつもより数倍美味しく感じられた。
さて次はデザートか、と考えていると、不意に臨也が動く。
「ねえ、澪士」
「ん?」
「今日、何で俺が、ここに澪士を誘ったか分かる?」
「……?」
そういえば。頭の片隅に常にあった疑問が、あらためて臨也によって投げ掛けられる。
けれどそれは分からなかった。
今まで臨也は俺を高級な店に連れて行ってくれたことは何度かある。でもこういう雰囲気のあるような所は初めてだった。
だからこそ、彼の考えていることは分からなかった。
「分からない」
「これから教えてあげる」
臨也の笑い方はいつもより優しくて、胸がときめく。
これから何が行われるのか分からなかったが、何かを想像して、俺の鼓動は際限なく大きく鳴り始めた。
「澪士」
「?」
俺の名を呼びながら、臨也はテーブル上に両手を持ってくる。
その手の中には小さな箱が握られていた。
「一生大切にすると誓います。結婚してください」
「……え……?」
臨也の指がその箱を上下に開く。中から現れたのは、指輪。
「えっと……臨也……?」
「すぐには理解してもらえないかな」
少し困ったように笑う臨也の声が、うまく頭に入ってこない。目の前で起きていることが処理できていない。
これは、どういうこと?
「俺と結婚してほしいんだ、澪士」
「え……え……?」
「大切にするから」
「臨也……」
徐々に事態が飲み込めてきた、がそれと同時に、脳内はパニックに陥った。こんなレストランで取り乱すわけにもいかないけれど。
何の感情によってかは分からないが、俺は叫び出したい衝動に駆られた。
「臨也、本当に……?」
「当たり前でしょう? こんなところで指輪を出しておいて、嘘だなんて言わないよ」
「……俺……」
言葉に詰まる。自然と涙が溢れてくる。
いつもなら臨也が指で拭ってくれるけれど、こんなところにいてそんなことができる筈もない。
俺はナプキンで目頭を押さえ、気持ちを落ち着かせてから、言った。
「――すごく嬉しい。ありがとう」
この世界には2人しか存在しないような感覚に襲われる。
「臨也、あなたと共に、生きさせてください」
それはなんて、幸せなことなんだろう。
いつものように臨也からの着信を知らせる音が鳴る。着信といってもメールだが。
ぱっとメール画面を開くと、一言、
『明後日19時、新宿で』
「……うーん」
そういう文面は珍しくない。彼はよくチャットをやっている――遠巻きにしか見たことがないが――、その中では結構饒舌な様だけれど。
普段、帰ってくる時だって、『帰る』くらいしか寄越さないことがあるし。一体いつどこから『帰る』のかくらい教えてほしいのだが。もう慣れたけど。
俺はソファに身を預け、天井を見ながら考えた。明後日といえば土曜日だ。
「土曜日の夜、19時か」
何でかなのか分からないが、そのメールを見た瞬間、いつもと違う何かを感じた。
決して文体が異なるわけではない。家に帰る時でなくて外食してから帰ろうという時もこういうメールを寄越す。その素っ気なさは嫌いじゃない。
でもとにかく、いつもと何か違うのか。それが何なのか、まだぼんやりとし過ぎていて、言葉にしようと逃げていくのだけれど。
「……まあ、その時になれば分かるか」
もしかしたら分からない間に忘れてしまうかもしれないが、それはそれ。
そう切り替え、俺は洗い物をするために立ち上がった。
そうして迎えた土曜日の夜18時半。
いつもの待ち合わせ場所に着いたのだが、こんなにも待ち合わせに早く着いたのは初めてかもしれない。というほど早くはないのだが。
そして俺は、この間の「なんか変」の答えを、ようやく見つけていた。
「……前々日から予定入れるの、珍しいな」
普段、臨也は今日の予定しか言わない。メールだってそうだ。これから帰るとか、ご飯に行こうとか。
口頭で「今週は忙しい」とか言う時もあるけれど、メールで「来週ご飯に行こう」と言われたことはない。
「つまり、これは相当大事な用ってことだ」
時刻を鑑みるに、恐らく夕食を共にする誘いだろう。それは間違ってはいない筈だ。
では当日ではなく前々日にメールする用とは何か? ……大体想像は付く。
普段から臨也は謎のコネを使ってかなり並んでいる店にするりと入ったりすることはあるが、それもできない、正攻法でしか入れない店ということだろう。もしくは予約をちゃんと取ったか。
そうなるとファミレスとか只のチェーンの居酒屋ってことは有り得ない。
つまり、だ。
「俺は適当な格好はしてこれない、と」
今日は白いシャツに綺麗めの黒いパンツを合わせてきている。念の為ジャケットも持ってきているという気合の入れようだ。もし想定しているような場所ではなくて臨也に何か言われたら「肌寒い時期だから」と答えるつもりだ。実際そうだし。
そこまで言い訳を完璧に考えて、さてまだ来ないだろうな、と思っていると、人影が1つこちらへ向かってきた。
「澪士、お待たせ」
「え、臨也、早いね」
相変わらず黒くてよく分からなかったが、近くへ来るとそれが臨也だと分かった。
心なしか彼もいつものようなカジュアルな服装ではないように思えて、どきりと胸が鳴る。
「俺、格好のこと何か言ったっけ?」
「え? いや何も。もしかしてドレスコードある?」
「いや、完璧だよ、澪士。その服で」
行こうか、と微笑む彼は、何だか別人に見えた。俺はこくりと頷いて後に着いていく。
そしてその服装のチョイスが間違っていなかったのだ、と気づいたのは、高層ビルの中のレストランに着いてからだった。
「わあ……!」
店員の後に着いていく俺たち。女子のように思わず息を呑んだのは理由がある。
壁部分が全面窓になっていて、夜景が見えるようになっていたのだ。
奥の窓際の席へ案内される。手が届きそうな所に夜景が見えていて、店員さんが去るのと同時に、マナー違反だと知りつつも外を覗き込んだ。
「喜んでもらえた?」
「勿論!」
臨也のスマートな誘いに最早酔い知れるしかなかった。男の俺でもこんなにクラクラくるのに、女性がやられたらもう落ちるしかないだろう。
そんなことを考えているとグラスに食前酒が注がれた。俺たちは目で乾杯し合い、これからくるであろう甘美な世界を予感し静かに香りと味を楽しんだ。
食事中、臨也とはそれ程話さなかった。こんな場所に連れてこられて緊張しているのもあるが、男同士でなぜこんな所に来ているのだろう、と思われるのが怖かったのもある。
ただ食事はとても美味しかった。眠らない街新宿の夜景を臨みながら食べるステーキは、いつもより数倍美味しく感じられた。
さて次はデザートか、と考えていると、不意に臨也が動く。
「ねえ、澪士」
「ん?」
「今日、何で俺が、ここに澪士を誘ったか分かる?」
「……?」
そういえば。頭の片隅に常にあった疑問が、あらためて臨也によって投げ掛けられる。
けれどそれは分からなかった。
今まで臨也は俺を高級な店に連れて行ってくれたことは何度かある。でもこういう雰囲気のあるような所は初めてだった。
だからこそ、彼の考えていることは分からなかった。
「分からない」
「これから教えてあげる」
臨也の笑い方はいつもより優しくて、胸がときめく。
これから何が行われるのか分からなかったが、何かを想像して、俺の鼓動は際限なく大きく鳴り始めた。
「澪士」
「?」
俺の名を呼びながら、臨也はテーブル上に両手を持ってくる。
その手の中には小さな箱が握られていた。
「一生大切にすると誓います。結婚してください」
「……え……?」
臨也の指がその箱を上下に開く。中から現れたのは、指輪。
「えっと……臨也……?」
「すぐには理解してもらえないかな」
少し困ったように笑う臨也の声が、うまく頭に入ってこない。目の前で起きていることが処理できていない。
これは、どういうこと?
「俺と結婚してほしいんだ、澪士」
「え……え……?」
「大切にするから」
「臨也……」
徐々に事態が飲み込めてきた、がそれと同時に、脳内はパニックに陥った。こんなレストランで取り乱すわけにもいかないけれど。
何の感情によってかは分からないが、俺は叫び出したい衝動に駆られた。
「臨也、本当に……?」
「当たり前でしょう? こんなところで指輪を出しておいて、嘘だなんて言わないよ」
「……俺……」
言葉に詰まる。自然と涙が溢れてくる。
いつもなら臨也が指で拭ってくれるけれど、こんなところにいてそんなことができる筈もない。
俺はナプキンで目頭を押さえ、気持ちを落ち着かせてから、言った。
「――すごく嬉しい。ありがとう」
この世界には2人しか存在しないような感覚に襲われる。
「臨也、あなたと共に、生きさせてください」
それはなんて、幸せなことなんだろう。