二人暮らし(dr/臨也)
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「なー臨也、そういえばさ、俺たちって喧嘩したことないよね」
「そうだね」
どうしたの突然、と言われる。
「いや、何となく。思った」
「まあ俺達が喧嘩する理由もないじゃん?」
「そうだけどさ」
俺たちは、全然違う。多分誰が見たって、全然違うって言うだろう。一緒なのは人間だとか男だとか、そういったところくらいだ。
臨也は結構傲慢で身勝手な性格だと思ってるけど、俺は自分では気まぐれで適当で、子供っぽい奴だと思ってる。……あれ、もしかして結構似てる?
「なんか、喧嘩しないと、いつかどこかで爆発するのかなって」
別に、そんな予兆があるわけではない。
「だって俺たち、付き合ってもう……3年くらい? 結構長いよね」
「もうそんなになるっけ」
「なんか、色々あったけど、本気で喧嘩したことないよな」
些細なことはいくつもある。でもそれって大抵、俺が一方的に腹を立てているだけで。
臨也が俺に対して怒ったことは一度たりともない。
「まあ喧嘩はしないに越したことはないんじゃない?」
「確かに」
そんなことを話している内に、この話題は流れていった。
ある休みの日、臨也は仕事だと言っていたので、俺は1人で池袋駅に降り立つ。
池袋はあまり来ないのだが――大抵の用事は新宿で済んでしまうからだ――今日はどうしても欲しい物があった。
そんな中迷ってうろうろしていると、多くの人が俺と逆の方向に進んできた。
「わっ何?」
さっきまで人の流れは半々だったのに、突然8対2くらいになる。人々が足早に俺と反対方向へ向かっている。
何だか慌てているようなその様子を見て、間違っている方に進んでいるのかと不安になるが、逃げている源から聞こえてきたのは、低く人を罵る声と、何かがぶつかっているような音。
本当なら、逃げるべきだろう。危ないことが起こっているに違いない。
でも何だか胸騒ぎがして、逃げるべきではないような気がして、俺は人の波をかき分けて行った。
その先には。
「臨也……?」
野次馬が何人か、その中心を成しているのは見覚えのある人。
金髪の男が振り回しているのは……標識か?
「うぜえんだよ!」
「あっ!」
ブン、と男が軽々とそれを振り回す。何であんな物、どこから。
それも思ったが、臨也は臨也で軽く避けている。
しかし俺が大声を上げると、気づいた臨也がこっちを見た。
それが命取りだった。
「澪士……何で」
「死ね!」
聞くに耐えない言葉が臨也を襲い、標識が風を薙ぐ。
臨也は避けようとしたが間に合わず、腹に食らって吹っ飛んだ。
「臨也!」
俺は走り出した。もう何も考えていなかった。
常識的に考えて、こんなおかしな戦いに割り込むなんてことは危険すぎた。警察に電話すべきだった筈だ。
でも俺は走って行って、臨也を背中に庇い、両手を広げて金髪の男の前に立った。
「あ? 何だテメェ」
「臨也を……臨也をこれ以上、傷付けないで」
「はあ?」
男は凄む。
でも俺は負けない。睨み返す。
「あなたにとっての臨也は……憎むべき存在なのかもしれないけど、俺にとっては、臨也は大事な人だから」
沈黙が流れる。後ろの臨也も何も言わない。
「……今回は見逃してやる」
だが、次現れてみろ。そいつも一緒に潰してやる。
そう言い、男は標識をまるで紙ゴミでも捨てるかのようにそこに投げ捨てて、どこかへ歩いていった。
男を止める者は誰もいなかった。
「……臨也」
俺は振り返る。臨也は俯いたまま、表情は見えなかった。
「……ごめん」
「臨也」
「先帰ってて」
そう言いながら立ち上がる臨也。
「病院は」
「大丈夫。行く」
「……わかった」
俺は臨也と反対方向へ歩き出す。
本当は限定商品を買うために池袋に来たのだが、もうそんな気分じゃなくなった。
そのまま何もせず、大人しく新宿の自宅へ帰った。
夜、臨也はようやく帰ってきた。丁度俺が風呂に入っている間に家に入ってきて、いつの間にかソファに座っていた。
俺は何も言わず違う方のソファに座る。おかえり、も言わない。
「……ごめん、澪士」
十数分の沈黙ののち、重たく口を開いたのは、臨也だった。
「澪士には何も言いたくなかった」
「池袋に行くなって言ってたの、ああいうことだったんだ」
「そう」
勝手な話しだ。俺たちは目を合わせない。
「あの男は平和島静雄。色々あるけど、話すと長いから、やめる」
「何してたの」
「喧嘩」
「そう」
喧嘩、あれが。そうか、あれが喧嘩か。
口の中で何度か呟く。まるで自分に言いきかせるかのように。
「澪士、俺、澪士に秘密にしてること、まだ沢山ある」
「知ってるよ」
間髪入れずそう答えると、臨也がこちらを見た。
「臨也が俺のこと、心配してるのも全部知ってる。俺自身、臨也のことを全然知らないのも分かってる。分かってる上でこうして付き合ってるんだけど、知らなかった?」
そう言い、ようやく目を合わせた。
「臨也、馬鹿だほんとに。俺のこと、なんか愛玩動物か何かだとでも思った? まるで何も知らない奴だと思ってた? 俺が守ればいいや、とか思ってた?」
俺は立ち上がる。臨也を見ながら近づく。
「池袋に行くなとか深入りするなとか。あんな危ないことしてるのを実際に見たのは初めてだったけど、何も知らないで臨也と付き合うほど、俺は馬鹿じゃないから」
バン、と臨也の頭の隣に腕を突いた。
ソファは呆れるほど柔らかい。
「澪士」
「臨也が思ってる以上に俺は色々知ってるし、色々考えてる。その上で言わせてほしいことがたった1つ」
息を吸い込む。
「……俺を置いて行かないで」
臨也は驚いたように目を少し、見開いた。
「馬鹿じゃないの? こんなんだって、俺は臨也のこと好きなんだよ。男同士とか色々あるけど、それでもいいやって思うくらい、俺は臨也のこと好き。危ない橋沢山渡ってるんだろうなって思うよ。でも俺はその世界では臨也のこと守ってあげられないから、置いて行かないでって言うしかない」
「……澪士、ごめん」
俺は震える声で言いながら臨也の隣に深く座り、両手で顔を覆った。
「澪士が何も知らないなんて思ってない。でも……俺が思ってるより、知りすぎちゃったのかもしれない」
まあ俺と付き合ってる限り仕方ないか、いつかはこういう日が来るって分かってた、と言って。
俺の首に手を回し引き寄せる。俺はそれに逆らわず、臨也の太股の上に座り、キスを受け入れた。
「……そういえばさ、病院行くって言ってたけど、本当に行った?」
「行ったけど。なんで?」
「だってあれさ……見てたけど、肋骨かなりイッたでしょ、絶対。普通入院して手術だと思うんだけど」
思わず抱きしめそうになり、俺はハタと止まって考えたのだ。彼が怪我人であることを思い出した。
「まあ世の中には色んな病院があるから」
「何それ怖いんだけど」
俺は臨也のことを知っている、とは言ったけど、当然知らないことも沢山ある。彼が危ない橋を常に渡り続け、そしてそういう橋を好みがちであることも、長く付き合っていれば知っている。
それでも俺は、それも含めて臨也のことを、好きになってしまったのだ。
「……ねえ、臨也」
「ん?」
「さっきも言ったけどさ」
「うん」
「ちゃんと帰ってきて。置いてかないで」
「うん、わかってるよ」
可愛い澪士。置いて行ったりしないから。そう言いながら、彼は俺の頭を撫でる。
そういえば前、喧嘩の話をしていたことをふと思い出した。俺と臨也は目立った喧嘩をしたことがない。
でも彼はこうして恨みを買うことが多いのだろう。外では常に神経を張っているような人だから。
それなら俺は、彼と喧嘩をしないようにしよう。臨也はきっと、安息を求めて俺と会ってくれているのだから。
そう思った。
「そうだね」
どうしたの突然、と言われる。
「いや、何となく。思った」
「まあ俺達が喧嘩する理由もないじゃん?」
「そうだけどさ」
俺たちは、全然違う。多分誰が見たって、全然違うって言うだろう。一緒なのは人間だとか男だとか、そういったところくらいだ。
臨也は結構傲慢で身勝手な性格だと思ってるけど、俺は自分では気まぐれで適当で、子供っぽい奴だと思ってる。……あれ、もしかして結構似てる?
「なんか、喧嘩しないと、いつかどこかで爆発するのかなって」
別に、そんな予兆があるわけではない。
「だって俺たち、付き合ってもう……3年くらい? 結構長いよね」
「もうそんなになるっけ」
「なんか、色々あったけど、本気で喧嘩したことないよな」
些細なことはいくつもある。でもそれって大抵、俺が一方的に腹を立てているだけで。
臨也が俺に対して怒ったことは一度たりともない。
「まあ喧嘩はしないに越したことはないんじゃない?」
「確かに」
そんなことを話している内に、この話題は流れていった。
ある休みの日、臨也は仕事だと言っていたので、俺は1人で池袋駅に降り立つ。
池袋はあまり来ないのだが――大抵の用事は新宿で済んでしまうからだ――今日はどうしても欲しい物があった。
そんな中迷ってうろうろしていると、多くの人が俺と逆の方向に進んできた。
「わっ何?」
さっきまで人の流れは半々だったのに、突然8対2くらいになる。人々が足早に俺と反対方向へ向かっている。
何だか慌てているようなその様子を見て、間違っている方に進んでいるのかと不安になるが、逃げている源から聞こえてきたのは、低く人を罵る声と、何かがぶつかっているような音。
本当なら、逃げるべきだろう。危ないことが起こっているに違いない。
でも何だか胸騒ぎがして、逃げるべきではないような気がして、俺は人の波をかき分けて行った。
その先には。
「臨也……?」
野次馬が何人か、その中心を成しているのは見覚えのある人。
金髪の男が振り回しているのは……標識か?
「うぜえんだよ!」
「あっ!」
ブン、と男が軽々とそれを振り回す。何であんな物、どこから。
それも思ったが、臨也は臨也で軽く避けている。
しかし俺が大声を上げると、気づいた臨也がこっちを見た。
それが命取りだった。
「澪士……何で」
「死ね!」
聞くに耐えない言葉が臨也を襲い、標識が風を薙ぐ。
臨也は避けようとしたが間に合わず、腹に食らって吹っ飛んだ。
「臨也!」
俺は走り出した。もう何も考えていなかった。
常識的に考えて、こんなおかしな戦いに割り込むなんてことは危険すぎた。警察に電話すべきだった筈だ。
でも俺は走って行って、臨也を背中に庇い、両手を広げて金髪の男の前に立った。
「あ? 何だテメェ」
「臨也を……臨也をこれ以上、傷付けないで」
「はあ?」
男は凄む。
でも俺は負けない。睨み返す。
「あなたにとっての臨也は……憎むべき存在なのかもしれないけど、俺にとっては、臨也は大事な人だから」
沈黙が流れる。後ろの臨也も何も言わない。
「……今回は見逃してやる」
だが、次現れてみろ。そいつも一緒に潰してやる。
そう言い、男は標識をまるで紙ゴミでも捨てるかのようにそこに投げ捨てて、どこかへ歩いていった。
男を止める者は誰もいなかった。
「……臨也」
俺は振り返る。臨也は俯いたまま、表情は見えなかった。
「……ごめん」
「臨也」
「先帰ってて」
そう言いながら立ち上がる臨也。
「病院は」
「大丈夫。行く」
「……わかった」
俺は臨也と反対方向へ歩き出す。
本当は限定商品を買うために池袋に来たのだが、もうそんな気分じゃなくなった。
そのまま何もせず、大人しく新宿の自宅へ帰った。
夜、臨也はようやく帰ってきた。丁度俺が風呂に入っている間に家に入ってきて、いつの間にかソファに座っていた。
俺は何も言わず違う方のソファに座る。おかえり、も言わない。
「……ごめん、澪士」
十数分の沈黙ののち、重たく口を開いたのは、臨也だった。
「澪士には何も言いたくなかった」
「池袋に行くなって言ってたの、ああいうことだったんだ」
「そう」
勝手な話しだ。俺たちは目を合わせない。
「あの男は平和島静雄。色々あるけど、話すと長いから、やめる」
「何してたの」
「喧嘩」
「そう」
喧嘩、あれが。そうか、あれが喧嘩か。
口の中で何度か呟く。まるで自分に言いきかせるかのように。
「澪士、俺、澪士に秘密にしてること、まだ沢山ある」
「知ってるよ」
間髪入れずそう答えると、臨也がこちらを見た。
「臨也が俺のこと、心配してるのも全部知ってる。俺自身、臨也のことを全然知らないのも分かってる。分かってる上でこうして付き合ってるんだけど、知らなかった?」
そう言い、ようやく目を合わせた。
「臨也、馬鹿だほんとに。俺のこと、なんか愛玩動物か何かだとでも思った? まるで何も知らない奴だと思ってた? 俺が守ればいいや、とか思ってた?」
俺は立ち上がる。臨也を見ながら近づく。
「池袋に行くなとか深入りするなとか。あんな危ないことしてるのを実際に見たのは初めてだったけど、何も知らないで臨也と付き合うほど、俺は馬鹿じゃないから」
バン、と臨也の頭の隣に腕を突いた。
ソファは呆れるほど柔らかい。
「澪士」
「臨也が思ってる以上に俺は色々知ってるし、色々考えてる。その上で言わせてほしいことがたった1つ」
息を吸い込む。
「……俺を置いて行かないで」
臨也は驚いたように目を少し、見開いた。
「馬鹿じゃないの? こんなんだって、俺は臨也のこと好きなんだよ。男同士とか色々あるけど、それでもいいやって思うくらい、俺は臨也のこと好き。危ない橋沢山渡ってるんだろうなって思うよ。でも俺はその世界では臨也のこと守ってあげられないから、置いて行かないでって言うしかない」
「……澪士、ごめん」
俺は震える声で言いながら臨也の隣に深く座り、両手で顔を覆った。
「澪士が何も知らないなんて思ってない。でも……俺が思ってるより、知りすぎちゃったのかもしれない」
まあ俺と付き合ってる限り仕方ないか、いつかはこういう日が来るって分かってた、と言って。
俺の首に手を回し引き寄せる。俺はそれに逆らわず、臨也の太股の上に座り、キスを受け入れた。
「……そういえばさ、病院行くって言ってたけど、本当に行った?」
「行ったけど。なんで?」
「だってあれさ……見てたけど、肋骨かなりイッたでしょ、絶対。普通入院して手術だと思うんだけど」
思わず抱きしめそうになり、俺はハタと止まって考えたのだ。彼が怪我人であることを思い出した。
「まあ世の中には色んな病院があるから」
「何それ怖いんだけど」
俺は臨也のことを知っている、とは言ったけど、当然知らないことも沢山ある。彼が危ない橋を常に渡り続け、そしてそういう橋を好みがちであることも、長く付き合っていれば知っている。
それでも俺は、それも含めて臨也のことを、好きになってしまったのだ。
「……ねえ、臨也」
「ん?」
「さっきも言ったけどさ」
「うん」
「ちゃんと帰ってきて。置いてかないで」
「うん、わかってるよ」
可愛い澪士。置いて行ったりしないから。そう言いながら、彼は俺の頭を撫でる。
そういえば前、喧嘩の話をしていたことをふと思い出した。俺と臨也は目立った喧嘩をしたことがない。
でも彼はこうして恨みを買うことが多いのだろう。外では常に神経を張っているような人だから。
それなら俺は、彼と喧嘩をしないようにしよう。臨也はきっと、安息を求めて俺と会ってくれているのだから。
そう思った。