二人暮らし(dr/臨也)
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「ただいまー」
そう言いながら玄関の扉を押し開けると、部屋の中は暗かった。
「……またか」
パチ、と自分で部屋の電気を点ける瞬間は、何だか一人暮らしに戻ったみたいだ。まあ彼の場合、大抵この家には居ないので、大体いつも一人暮らしのようなものだが。
帰りに買ってきた食料品をキッチンの床にドサドサ置き、通勤カバンはソファに投げ捨てて、どさっと別のソファに全体重を預けて座った。
「また、1人か……」
1週間分の食糧と足りない日用品を買ってきたのだが、彼がいないのなら、そんなに無理する必要もなかったか。まだ少し手が痺れている。
リモコンを拾い上げて電源ボタンを押すと、下らないバラエティや大したことないニュースを流すニュース番組とか。
1人でこの広い部屋に居ることの気休めにはなるが、それ以上の何でもない。
俺は垂れ流される番組をぼーっと眺めていたが、そういえば冷凍食品を買ってきたんだった、と思い出して立ち上がったその時。
「澪士、ただいま」
「……臨也?」
鍵が開く音はしなかった、扉が開く音だけがして、声も聞こえた。
早足で玄関へ向かうと、そこには久しぶりに見る恋人の姿が。
「何、その顔」
「いやだって、帰ってくると思ってなかった……」
「さっき連絡したよ」
見てなかった、と答えると、臨也は苦笑する。
「俺の家でもあるんだから、俺が帰ってくるのはおかしいことじゃないでしょ」
それはそうなんだが。勿論それはそうなんだが。
「ていうか、鍵かかってなかったよ。気をつけてよ」
「え、ごめん。忘れてた。それとご飯まだ何も作ってないけど」
「作ってくれるの? 面倒ならどこか食べに行ってもいいけど」
「いや、外に行くの面倒くさい」
「ご飯作るのは面倒じゃないの?」
「面倒だけど、まあ作る予定だったし」
キッチンに戻り、米を炊く準備を始める。
隣接するリビングに行った臨也は、あー、と声を上げる。
「なに」
「カバン」
「あーごめん。適当によけといて」
「澪士の部屋置いといてあげるよ」
「いや、それは大丈夫」
「何で?」
丁度キッチンはカウンターのようになっていて、少し目線を上に向ければリビングも見渡せるような造りだ。
俺がそう答えると、臨也は怪しい顔をしてこちらを見る。
「何かやましいものでもあるわけ?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「それともカバンの中身?」
「いやだから……」
そう言って臨也は俺のカバンを持ち上げると、ご丁寧にも俺の部屋まで運んで行ってくれたようだった。
炊飯器のモードを高速に設定し、適当な肉野菜炒めを作ろうとして買ってきた食材候補たちをレジ袋から取り出す。
「今日のごはん何?」
「適当な肉野菜炒め」
「ふうん、楽しみ」
決して楽しみそうなリアクションではないが、これでも臨也の最上級の褒め言葉だということは知っている。臨也が普段人を褒め慣れていないせいで、これくらいの反応しか出来ないということはもう嫌という程分かった。
「じゃ、俺は風呂掃除でもしてこようかな」
「お願いしまーす」
そして一緒に住んでから初めて、臨也が風呂掃除をするような人間だということも知ったのだった。
無事に米は炊け肉野菜炒めも作り、夕食を食べ終わるころ。
「そういえばさ、臨也」
「んー?」
「新しいシャンプー買ったんだけど」
「へー」
臨也は既に全て食べ終わっているにも関わらず、食卓についたままだ。多分、俺が食べ終わるのを待っているのだろう。
「臨也の髪、洗わせてくれない?」
「……え?」
突然そんなことを告げると、臨也の端正な顔も歪む。
「何? いきなり」
「いや、何となくさ。そういう気分になった」
「そういう気分って……なることある?」
「それがあるんだよ。それが今」
俺がこういう事を言い出すともう聞かない、というのも、臨也は痛い程分かっているのだと思う。
少し考えた後、断る余地がないのを分かったらしく、はあと溜息をつきながら分かったと答えた。
「じゃあつまり、一緒に風呂に入るってことでしょ?」
「うん」
「まあ、いいよ。最近澪士と一緒に入ってなかったしね」
「やった」
丁度ご飯を食べ終わり、皿をまとめてシンクへ片付ける。少し蛇口を捻って水に浸けておく。
そういえばキッチンに置いたレジ袋の中に、臨也用のシャンプーを入れたままだった。忘れないようピックアップして風呂場へ置いておく。
各々のクローゼットから着替えを脱衣所へ持ち込み、一緒に服を脱ぎ、一緒に風呂場に入った。
「……確かに、こういうの、久しぶりかもね」
「俺があんまり帰ってこないせい?」
「そうじゃん?」
シャワーのハンドルを捻り、簡単に2人の身体を濡らすと、臨也をバスチェアに座らせる。
すると立っている俺の方が必然的に目線が高くなるので、臨也が俺を見上げてくる形になる。
そのまま、奴は笑った。
「この体勢、エロくない?」
「……何言ってんの?」
これ以上臨也が何か言い出すとまずい。やばい。俺明日も仕事なんですけど。
本能的に身の危険を感じたため、上から臨也の頭に向けて思い切りシャワーを掛けてやった。
「ちょっ澪士目に入った!」
「うるせー知らん死ね」
そうして一通り髪を湿らせるとシャワーを置いて、まずは手櫛でその髪をそっと梳く。
どうやら本当に目に水が入ったらしく、暫く目をこすっていた臨也だったが、少し経つと口を開いた。
「……何してんの?」
「髪の毛を梳いてる」
「何で?」
「この方が髪の毛の汚れが取れやすいらしい」
本当かどうかはわからないけど、確かに頭皮の汚れとかは浮き上がりそうな気がする。
というか今は、臨也のその柔らかい髪の毛に触れられることが嬉しいだけなんだけれど。
「じゃーシャンプーしまーす」
「はーい」
新しいシャンプーを手に載せる。匂いを嗅ぐと、謳い文句通り石鹸の清潔な香りがする。
俺は身を屈めて臨也の鼻の前にそのシャンプーを持っていった。
「うん、いい匂いだね、これ」
「でしょ」
手の上でそっと泡立て、泡が十分になったところで頭頂部に載せる。
あまりごしごしやりすぎないよう――自分の加減とは違うだろうから――丁寧に洗っていく。
「どう? 臨也」
「気持ちいいよ」
「よかった」
臨也の髪を不意に触ることは勿論あるけれど、こんな風に髪を洗うのは初めてだ。もう長いこと付き合っているけれど。
それが嬉しくて、普段自分にもしないような丁寧さで、念入りに洗った。
「流すけど、上向く派? 下向く派?」
「上だけど人に流してもらうなら下の方がよさそう」
「確かに」
臨也は下を向く。シャワーを出して髪から丁寧に泡を落とす。
「終わった」
「んー」
そう声を掛けると、臨也は上を髪をかき上げ顔を上げた。
濡れた髪を絞って、俺を見て笑う。
「人の髪洗うの上手いんじゃない? 澪士」
「え? そういうのあんの?」
「あるでしょ、多分」
臨也は立ち上がる。濡れた髪から雫が滴っている。
「いい匂いだね、これ。乾くの楽しみだな」
「そう思ってくれるなら嬉しい」
「澪士が選んでくれた匂いだから、俺も嬉しい」
じゃあ、と言って臨也は俺の肩を押して座らせようとする。
「何?」
「次俺の番」
「そういう約束じゃないから」
「いいじゃん」
だがここで座ってしまえば、臨也の思うツボだ。どうなってもおかしくない。
もうそれは分かっているので、俺は何とか拒否した。
そう言いながら玄関の扉を押し開けると、部屋の中は暗かった。
「……またか」
パチ、と自分で部屋の電気を点ける瞬間は、何だか一人暮らしに戻ったみたいだ。まあ彼の場合、大抵この家には居ないので、大体いつも一人暮らしのようなものだが。
帰りに買ってきた食料品をキッチンの床にドサドサ置き、通勤カバンはソファに投げ捨てて、どさっと別のソファに全体重を預けて座った。
「また、1人か……」
1週間分の食糧と足りない日用品を買ってきたのだが、彼がいないのなら、そんなに無理する必要もなかったか。まだ少し手が痺れている。
リモコンを拾い上げて電源ボタンを押すと、下らないバラエティや大したことないニュースを流すニュース番組とか。
1人でこの広い部屋に居ることの気休めにはなるが、それ以上の何でもない。
俺は垂れ流される番組をぼーっと眺めていたが、そういえば冷凍食品を買ってきたんだった、と思い出して立ち上がったその時。
「澪士、ただいま」
「……臨也?」
鍵が開く音はしなかった、扉が開く音だけがして、声も聞こえた。
早足で玄関へ向かうと、そこには久しぶりに見る恋人の姿が。
「何、その顔」
「いやだって、帰ってくると思ってなかった……」
「さっき連絡したよ」
見てなかった、と答えると、臨也は苦笑する。
「俺の家でもあるんだから、俺が帰ってくるのはおかしいことじゃないでしょ」
それはそうなんだが。勿論それはそうなんだが。
「ていうか、鍵かかってなかったよ。気をつけてよ」
「え、ごめん。忘れてた。それとご飯まだ何も作ってないけど」
「作ってくれるの? 面倒ならどこか食べに行ってもいいけど」
「いや、外に行くの面倒くさい」
「ご飯作るのは面倒じゃないの?」
「面倒だけど、まあ作る予定だったし」
キッチンに戻り、米を炊く準備を始める。
隣接するリビングに行った臨也は、あー、と声を上げる。
「なに」
「カバン」
「あーごめん。適当によけといて」
「澪士の部屋置いといてあげるよ」
「いや、それは大丈夫」
「何で?」
丁度キッチンはカウンターのようになっていて、少し目線を上に向ければリビングも見渡せるような造りだ。
俺がそう答えると、臨也は怪しい顔をしてこちらを見る。
「何かやましいものでもあるわけ?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
「それともカバンの中身?」
「いやだから……」
そう言って臨也は俺のカバンを持ち上げると、ご丁寧にも俺の部屋まで運んで行ってくれたようだった。
炊飯器のモードを高速に設定し、適当な肉野菜炒めを作ろうとして買ってきた食材候補たちをレジ袋から取り出す。
「今日のごはん何?」
「適当な肉野菜炒め」
「ふうん、楽しみ」
決して楽しみそうなリアクションではないが、これでも臨也の最上級の褒め言葉だということは知っている。臨也が普段人を褒め慣れていないせいで、これくらいの反応しか出来ないということはもう嫌という程分かった。
「じゃ、俺は風呂掃除でもしてこようかな」
「お願いしまーす」
そして一緒に住んでから初めて、臨也が風呂掃除をするような人間だということも知ったのだった。
無事に米は炊け肉野菜炒めも作り、夕食を食べ終わるころ。
「そういえばさ、臨也」
「んー?」
「新しいシャンプー買ったんだけど」
「へー」
臨也は既に全て食べ終わっているにも関わらず、食卓についたままだ。多分、俺が食べ終わるのを待っているのだろう。
「臨也の髪、洗わせてくれない?」
「……え?」
突然そんなことを告げると、臨也の端正な顔も歪む。
「何? いきなり」
「いや、何となくさ。そういう気分になった」
「そういう気分って……なることある?」
「それがあるんだよ。それが今」
俺がこういう事を言い出すともう聞かない、というのも、臨也は痛い程分かっているのだと思う。
少し考えた後、断る余地がないのを分かったらしく、はあと溜息をつきながら分かったと答えた。
「じゃあつまり、一緒に風呂に入るってことでしょ?」
「うん」
「まあ、いいよ。最近澪士と一緒に入ってなかったしね」
「やった」
丁度ご飯を食べ終わり、皿をまとめてシンクへ片付ける。少し蛇口を捻って水に浸けておく。
そういえばキッチンに置いたレジ袋の中に、臨也用のシャンプーを入れたままだった。忘れないようピックアップして風呂場へ置いておく。
各々のクローゼットから着替えを脱衣所へ持ち込み、一緒に服を脱ぎ、一緒に風呂場に入った。
「……確かに、こういうの、久しぶりかもね」
「俺があんまり帰ってこないせい?」
「そうじゃん?」
シャワーのハンドルを捻り、簡単に2人の身体を濡らすと、臨也をバスチェアに座らせる。
すると立っている俺の方が必然的に目線が高くなるので、臨也が俺を見上げてくる形になる。
そのまま、奴は笑った。
「この体勢、エロくない?」
「……何言ってんの?」
これ以上臨也が何か言い出すとまずい。やばい。俺明日も仕事なんですけど。
本能的に身の危険を感じたため、上から臨也の頭に向けて思い切りシャワーを掛けてやった。
「ちょっ澪士目に入った!」
「うるせー知らん死ね」
そうして一通り髪を湿らせるとシャワーを置いて、まずは手櫛でその髪をそっと梳く。
どうやら本当に目に水が入ったらしく、暫く目をこすっていた臨也だったが、少し経つと口を開いた。
「……何してんの?」
「髪の毛を梳いてる」
「何で?」
「この方が髪の毛の汚れが取れやすいらしい」
本当かどうかはわからないけど、確かに頭皮の汚れとかは浮き上がりそうな気がする。
というか今は、臨也のその柔らかい髪の毛に触れられることが嬉しいだけなんだけれど。
「じゃーシャンプーしまーす」
「はーい」
新しいシャンプーを手に載せる。匂いを嗅ぐと、謳い文句通り石鹸の清潔な香りがする。
俺は身を屈めて臨也の鼻の前にそのシャンプーを持っていった。
「うん、いい匂いだね、これ」
「でしょ」
手の上でそっと泡立て、泡が十分になったところで頭頂部に載せる。
あまりごしごしやりすぎないよう――自分の加減とは違うだろうから――丁寧に洗っていく。
「どう? 臨也」
「気持ちいいよ」
「よかった」
臨也の髪を不意に触ることは勿論あるけれど、こんな風に髪を洗うのは初めてだ。もう長いこと付き合っているけれど。
それが嬉しくて、普段自分にもしないような丁寧さで、念入りに洗った。
「流すけど、上向く派? 下向く派?」
「上だけど人に流してもらうなら下の方がよさそう」
「確かに」
臨也は下を向く。シャワーを出して髪から丁寧に泡を落とす。
「終わった」
「んー」
そう声を掛けると、臨也は上を髪をかき上げ顔を上げた。
濡れた髪を絞って、俺を見て笑う。
「人の髪洗うの上手いんじゃない? 澪士」
「え? そういうのあんの?」
「あるでしょ、多分」
臨也は立ち上がる。濡れた髪から雫が滴っている。
「いい匂いだね、これ。乾くの楽しみだな」
「そう思ってくれるなら嬉しい」
「澪士が選んでくれた匂いだから、俺も嬉しい」
じゃあ、と言って臨也は俺の肩を押して座らせようとする。
「何?」
「次俺の番」
「そういう約束じゃないから」
「いいじゃん」
だがここで座ってしまえば、臨也の思うツボだ。どうなってもおかしくない。
もうそれは分かっているので、俺は何とか拒否した。
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