黄金を求めし者(神トラ2/ラヴィオ)
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ラヴィオはオブラートに包んでくれたつもりなのだろうが、それでも僕は多大なショックを受けた。
トライフォースが破壊されたせいで。――それは僕も認めるところだ。僕はその時代を知らないし、壊したのは僕ではなく、僕の両親だけれど。
しかし国民たちからすれば、破壊したのが僕だろうと僕の両親だろうと、大差ない筈だった。彼らの知らない所で、権力を持つ者が密かに破壊していた。これを糾弾せずして、一体何を非難するというのだろう。
「……王子、気を落とさないでください。無理な話かもしれませんが」
ラヴィオは精一杯のフォローをしてくれようと試みる。
「いや……うん、大丈夫。それは分かっていたことだよ。そして僕が向き合わなければならない問題だと思っていた」
「王子のせいではないのに……」
「それは確かに、両親にもこの現状を見せて、どうしてくれるんだと言いたい気分だよ。……でももう、仕方ないことじゃないか? 死んでしまったんだから」
一足先に、安寧の地へ行ってしまったのだから。
「王子……」
ラヴィオはすっかり、かける言葉を失ってしまったようだった。
こんな所に共に居させるのは、何だかいたたまれない気がした。
「ごめん、ラヴィオ、」
「王子が誰に何を言われようとも、そして私自身が王子に突き放されようとも。私は王子の側に居続けますから」
「!」
「誰が裏切ろうとも、私だけは決して、王子を裏切りません」
僕ははっと顔を上げる。ラヴィオと至近距離で目が合う。
――彼はそうやって、いつも完璧なタイミングで、僕の望む言葉をくれる。
僕のことを何でも分かっている、そんな気さえした。
「ラヴィオ……」
「すみません、お仕事の邪魔でしたね。では、私はこれで」
ラヴィオはそそくさと言い逃げして出て行く。ちょっと腹が立つが、それも許せる。
仕方ない。それでもラヴィオは、確かに僕の心が壊れてしまう前に、守ってくれる。
「仕事するか……」
それでも僕は、この世界を投げ出すわけにはいかない、両親のようには。
そう思い、書類と向き合った。
翌日の報告書には、昨日ラヴィオが僕に言ったこと、他にも村からコッコが盗まれたことなど、胸を痛める出来事がいくつも書いてあった。明るいニュースは1つもない。
「コッコが盗まれた……か」
「はい。牧場主は非常に心を痛めており、疑心暗鬼に陥りそうだと申しておりました」
「……ユガ、何とかならないのかな?」
僕とユガは相談し、その日から、手分けして文献を当たることにした。
目指すは、平和な世界の構築。トライフォースがなくても実現可能かは不明だが、それをするのが僕の仕事。
当然のごとく、文献にはトライフォースを賛美する内容ばかりが目に付いた。勿論トライフォースがあるのが当たり前の世界なわけだが、苛立ってどうしようもない。
悔いて尚、どうしようもないというのか。それは神の罰か。永久に残る爪痕か。
日夜活字に向き合い、眠れない夜を過ごす僕の許に、ある晩ラヴィオが訪ねてきた。
「王子」
「……ラヴィオ?」
少し手放しかけた意識が、囁き声に、覚醒する。
「起こしてしまいましたか。すみません」
「どうしたの、こんな時間に……」
「王子が最近、夜に眠れていないと聞いたもので。今日も眠れていないのならお話し相手になろうと思いましたが、今日は眠れてたみたいですね」
いや、と僕は首を振る。
眠りに落ちかけていたのは事実だろうが、いつも眠りが浅くて、些細なことで起きてしまう。
「ラヴィオが居てくれるなら、嬉しいよ。最近、全然話せてなかったよね」
ラヴィオは城付近の亀裂の調査団に配属され、日々、魔物を退けながらの危険な調査に当たっていた。
僕としてはやはり不安で仕方なかったが――兵士長に言わせれば、彼はまだぺーぺーだとのことなので――そんな簡単に死ぬ人でもないだろうと信じている。少なくとも、僕を置いて死ぬことはないだろうと。
勝手な幻想ではあるが、そうでも考えないと、資料を読み漁る精神力は保てそうになかった。
「兵士長から聞きました。最近、王子とユガは、昔の文献をあたっているのだとか」
「それはもう、虱潰し、ていう言い方がぴったりなくらいにね。でも今のところ、何の成果もない……」
「……王子、少し夜のお散歩はいかがですか」
言いながらラヴィオはベッドを離れ、僕の部屋についている大きな扉を開けた。
大きな廊下が続いており、その先は王の間に繋がっている。僕はもう行くことのない王座だ。
そして僕の部屋の外をぐるっと囲むように螺旋階段が配置されており、屋上に行くことができる。星と、月と、そしてこの王国がよく見渡せる場所だ。
「うん、行こう」
僕はカーディガンを羽織り、差し出された手に手を重ねた。まだ外は少しだけ冷える。
そういえばこの作業を始めてから、息抜きに外を眺めることはあっても、外に出ることはなかったな、と思い出した。
元々城から外に出ることはかなり制限されているので、僕にとっての"世界"は、多くが屋上からの景色で構成されている。
「レイシ王子、最近、無理をしているのではありませんか? ユガも驚くほどの量を読んでいると聞きましたよ」
「いや、ユガの方が余程読んでいるよ」
「ユガには元々知識がありますからね。私たちの知らないことを沢山知っている。だから本を読むのもそれ程苦ではないでしょう」
ラヴィオに名を呼ばれるのは久しぶりだ。胸が小さく鳴る。
いつもより優しく感じるのは、気のせいだろうか?
「レイシ王子が倒れては元も子もないですからね。どうかご自愛ください」
「……なんか、珍しいこと言うね」
「私が王子を心配しているのはいつものことです!」
「ああ、それはそうなんだけど」
何だか、いつものそれと違うような。
「……なんかラヴィオ、今日、いつもと違わない?」
そんな気がして尋ねる。いや、ラヴィオに分かるわけもないのか?
ラヴィオは僕を、月がよく見える場所に座らせ、彼自身も僕の隣に座った。
「私がいつもと違うと思うのなら、それは王子、あなたが疲れているからだと思いますよ」
苦笑しながらラヴィオは答える。それはそうかもしれない。
僕は無意識に強くなろうとして、結局無理して、また支えを求めている、のかも。
「うーん……まあ、疲れているのは、事実かもね」
「私は、王子とユガがそういったことをしてくれて、大変助かっています。それで我々兵士は安心して調査にあたれます」
「そうはいっても……ただ、読んでいるだけだし」
「けど、無理はしないでください」
ラヴィオは真剣な表情になる。
「レイシ王子……あなたのいる世界が平和になるのなら、私は何でもする。けど……あなたがいない世界なら、どんな幸福な世界だろうと、私は要らない」
「!」
素直にそう言われ、僕は思わず目を逸らしてしまった。
「いや……そんなことを言いたかったのではなくて。この世界が滅んでしまうのなら、それも仕方ないのかなと、漸く腹をくくる覚悟ができてきた頃です。どうせトライフォースがあっても奪い合う世界なら、分け合えない世界なら、こうなるのも宿命だったのかなと」
「ラヴィオ……」
「王子の前で言う言葉じゃなかったですね。すみません」
ラヴィオは少しだけ笑って、月を見上げる。僕もつられて見上げた。
――いや、本当は、ラヴィオの言う通りだ。僕はこのロウラル王国の王子だから、この国の最善を尽くさなければいけない。そう思っている。
けど、こんな世界には、無い方が幸せなのかもしれない。そうかもしれない――。
「いや、トライフォースが聖地におさめられている世界なら、幸せかもしれないね。僕たちはまだ、太陽も知らないのに――」
「あっ、王子、あれ!」
「えっ?」
突然ラヴィオが声を上げ、虚空に向かって指をさす。
「えっ、何、あれ、」
その先には、何かがぼうっと光っていた。位置的には、王の間を突き抜けたもっと奥だ。
しかし王の間は行き止まりであり、扉や廊下があった記憶は無い。
「あれは……もしかして、王の間に隠し扉でも……?」
「いや……僕が知る限り、それはないと思うけど」
「じゃあ、何であんな所に、」
まさか幽霊、僕がそう言った瞬間、僕たちの目の前に光の道が現れる。
眩すぎて、一瞬目を閉じてしまったくらいだった。
「ラヴィオ!」
「これは……?」
その光の道は一直線に、ラヴィオが指差した光に向かって伸びていた。
僕とラヴィオは顔を見合わせる。
「……どうしようか」
「王子のご存知の通り、私は臆病者です」
きらきらと光っている道は、それだけでは害をなしそうにない。
「ですが何があっても、必ず王子だけは、護ってみせます」
「ラヴィオ……」
僕は立ち上がり、ラヴィオの手を取る。
「行こう。行ってみよう」
「何があるかは分からない、」
「でも、ちょっと気になる、よね、」
ちょっとした好奇心に心惹かれ、僕たちは手を取り、その光の道を渡っていった。
トライフォースが破壊されたせいで。――それは僕も認めるところだ。僕はその時代を知らないし、壊したのは僕ではなく、僕の両親だけれど。
しかし国民たちからすれば、破壊したのが僕だろうと僕の両親だろうと、大差ない筈だった。彼らの知らない所で、権力を持つ者が密かに破壊していた。これを糾弾せずして、一体何を非難するというのだろう。
「……王子、気を落とさないでください。無理な話かもしれませんが」
ラヴィオは精一杯のフォローをしてくれようと試みる。
「いや……うん、大丈夫。それは分かっていたことだよ。そして僕が向き合わなければならない問題だと思っていた」
「王子のせいではないのに……」
「それは確かに、両親にもこの現状を見せて、どうしてくれるんだと言いたい気分だよ。……でももう、仕方ないことじゃないか? 死んでしまったんだから」
一足先に、安寧の地へ行ってしまったのだから。
「王子……」
ラヴィオはすっかり、かける言葉を失ってしまったようだった。
こんな所に共に居させるのは、何だかいたたまれない気がした。
「ごめん、ラヴィオ、」
「王子が誰に何を言われようとも、そして私自身が王子に突き放されようとも。私は王子の側に居続けますから」
「!」
「誰が裏切ろうとも、私だけは決して、王子を裏切りません」
僕ははっと顔を上げる。ラヴィオと至近距離で目が合う。
――彼はそうやって、いつも完璧なタイミングで、僕の望む言葉をくれる。
僕のことを何でも分かっている、そんな気さえした。
「ラヴィオ……」
「すみません、お仕事の邪魔でしたね。では、私はこれで」
ラヴィオはそそくさと言い逃げして出て行く。ちょっと腹が立つが、それも許せる。
仕方ない。それでもラヴィオは、確かに僕の心が壊れてしまう前に、守ってくれる。
「仕事するか……」
それでも僕は、この世界を投げ出すわけにはいかない、両親のようには。
そう思い、書類と向き合った。
翌日の報告書には、昨日ラヴィオが僕に言ったこと、他にも村からコッコが盗まれたことなど、胸を痛める出来事がいくつも書いてあった。明るいニュースは1つもない。
「コッコが盗まれた……か」
「はい。牧場主は非常に心を痛めており、疑心暗鬼に陥りそうだと申しておりました」
「……ユガ、何とかならないのかな?」
僕とユガは相談し、その日から、手分けして文献を当たることにした。
目指すは、平和な世界の構築。トライフォースがなくても実現可能かは不明だが、それをするのが僕の仕事。
当然のごとく、文献にはトライフォースを賛美する内容ばかりが目に付いた。勿論トライフォースがあるのが当たり前の世界なわけだが、苛立ってどうしようもない。
悔いて尚、どうしようもないというのか。それは神の罰か。永久に残る爪痕か。
日夜活字に向き合い、眠れない夜を過ごす僕の許に、ある晩ラヴィオが訪ねてきた。
「王子」
「……ラヴィオ?」
少し手放しかけた意識が、囁き声に、覚醒する。
「起こしてしまいましたか。すみません」
「どうしたの、こんな時間に……」
「王子が最近、夜に眠れていないと聞いたもので。今日も眠れていないのならお話し相手になろうと思いましたが、今日は眠れてたみたいですね」
いや、と僕は首を振る。
眠りに落ちかけていたのは事実だろうが、いつも眠りが浅くて、些細なことで起きてしまう。
「ラヴィオが居てくれるなら、嬉しいよ。最近、全然話せてなかったよね」
ラヴィオは城付近の亀裂の調査団に配属され、日々、魔物を退けながらの危険な調査に当たっていた。
僕としてはやはり不安で仕方なかったが――兵士長に言わせれば、彼はまだぺーぺーだとのことなので――そんな簡単に死ぬ人でもないだろうと信じている。少なくとも、僕を置いて死ぬことはないだろうと。
勝手な幻想ではあるが、そうでも考えないと、資料を読み漁る精神力は保てそうになかった。
「兵士長から聞きました。最近、王子とユガは、昔の文献をあたっているのだとか」
「それはもう、虱潰し、ていう言い方がぴったりなくらいにね。でも今のところ、何の成果もない……」
「……王子、少し夜のお散歩はいかがですか」
言いながらラヴィオはベッドを離れ、僕の部屋についている大きな扉を開けた。
大きな廊下が続いており、その先は王の間に繋がっている。僕はもう行くことのない王座だ。
そして僕の部屋の外をぐるっと囲むように螺旋階段が配置されており、屋上に行くことができる。星と、月と、そしてこの王国がよく見渡せる場所だ。
「うん、行こう」
僕はカーディガンを羽織り、差し出された手に手を重ねた。まだ外は少しだけ冷える。
そういえばこの作業を始めてから、息抜きに外を眺めることはあっても、外に出ることはなかったな、と思い出した。
元々城から外に出ることはかなり制限されているので、僕にとっての"世界"は、多くが屋上からの景色で構成されている。
「レイシ王子、最近、無理をしているのではありませんか? ユガも驚くほどの量を読んでいると聞きましたよ」
「いや、ユガの方が余程読んでいるよ」
「ユガには元々知識がありますからね。私たちの知らないことを沢山知っている。だから本を読むのもそれ程苦ではないでしょう」
ラヴィオに名を呼ばれるのは久しぶりだ。胸が小さく鳴る。
いつもより優しく感じるのは、気のせいだろうか?
「レイシ王子が倒れては元も子もないですからね。どうかご自愛ください」
「……なんか、珍しいこと言うね」
「私が王子を心配しているのはいつものことです!」
「ああ、それはそうなんだけど」
何だか、いつものそれと違うような。
「……なんかラヴィオ、今日、いつもと違わない?」
そんな気がして尋ねる。いや、ラヴィオに分かるわけもないのか?
ラヴィオは僕を、月がよく見える場所に座らせ、彼自身も僕の隣に座った。
「私がいつもと違うと思うのなら、それは王子、あなたが疲れているからだと思いますよ」
苦笑しながらラヴィオは答える。それはそうかもしれない。
僕は無意識に強くなろうとして、結局無理して、また支えを求めている、のかも。
「うーん……まあ、疲れているのは、事実かもね」
「私は、王子とユガがそういったことをしてくれて、大変助かっています。それで我々兵士は安心して調査にあたれます」
「そうはいっても……ただ、読んでいるだけだし」
「けど、無理はしないでください」
ラヴィオは真剣な表情になる。
「レイシ王子……あなたのいる世界が平和になるのなら、私は何でもする。けど……あなたがいない世界なら、どんな幸福な世界だろうと、私は要らない」
「!」
素直にそう言われ、僕は思わず目を逸らしてしまった。
「いや……そんなことを言いたかったのではなくて。この世界が滅んでしまうのなら、それも仕方ないのかなと、漸く腹をくくる覚悟ができてきた頃です。どうせトライフォースがあっても奪い合う世界なら、分け合えない世界なら、こうなるのも宿命だったのかなと」
「ラヴィオ……」
「王子の前で言う言葉じゃなかったですね。すみません」
ラヴィオは少しだけ笑って、月を見上げる。僕もつられて見上げた。
――いや、本当は、ラヴィオの言う通りだ。僕はこのロウラル王国の王子だから、この国の最善を尽くさなければいけない。そう思っている。
けど、こんな世界には、無い方が幸せなのかもしれない。そうかもしれない――。
「いや、トライフォースが聖地におさめられている世界なら、幸せかもしれないね。僕たちはまだ、太陽も知らないのに――」
「あっ、王子、あれ!」
「えっ?」
突然ラヴィオが声を上げ、虚空に向かって指をさす。
「えっ、何、あれ、」
その先には、何かがぼうっと光っていた。位置的には、王の間を突き抜けたもっと奥だ。
しかし王の間は行き止まりであり、扉や廊下があった記憶は無い。
「あれは……もしかして、王の間に隠し扉でも……?」
「いや……僕が知る限り、それはないと思うけど」
「じゃあ、何であんな所に、」
まさか幽霊、僕がそう言った瞬間、僕たちの目の前に光の道が現れる。
眩すぎて、一瞬目を閉じてしまったくらいだった。
「ラヴィオ!」
「これは……?」
その光の道は一直線に、ラヴィオが指差した光に向かって伸びていた。
僕とラヴィオは顔を見合わせる。
「……どうしようか」
「王子のご存知の通り、私は臆病者です」
きらきらと光っている道は、それだけでは害をなしそうにない。
「ですが何があっても、必ず王子だけは、護ってみせます」
「ラヴィオ……」
僕は立ち上がり、ラヴィオの手を取る。
「行こう。行ってみよう」
「何があるかは分からない、」
「でも、ちょっと気になる、よね、」
ちょっとした好奇心に心惹かれ、僕たちは手を取り、その光の道を渡っていった。